まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅷ 優しさ、たくさん

108. 大人の手

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「そうそう、リアちゃん。バッソのやつが明日、町まで卸しに行くってさ」

 ポリポリと漬物を食べていると、乾物屋のおばちゃんがそんな話をしてくれる。

「じゃあ、この前の雨で駄目になっちゃった道直ったんだ?」
「ああ、直ったよ。リアちゃんもありがとうね、結構、砂利を運んでくれたんだろう?」
「私は少しだけだよ。それに困るのは私もだし」

 数日前、季節外れの大雨に振られた。村から町へと向かう道の何ヶ所かは水没し、ひどくぬかるんで通れなくなってしまった。それを村人総出で直していたのだ。
 メインは若い男衆だが、女性も少なからず手伝った。何せ、この村では隣町への出荷が、唯一のお金を手に入れる方法であり、かつ、村で手に入らない日用品などを手に入れられる唯一の場所だったからだ。

「みんな頑張ったから帰ってきたらご馳走だよ。あと欲しい物があったら今日中に頼んでおきなさい」
「うん、そうす――」

 笑って返事をしようとしたとき、頬に違和感を感じる。私は慌てて顔を伏せた。

「お、おばちゃん、ごめん。ちょっと外出てくるね」
「お待ち、リアちゃん」

 頬を伝う冷たい涙。それを隠して逃げようとするが、すぐさまおばちゃんに捕獲される。
 おばちゃんは慣れた手つきで抱き寄せると、先程まで座っていた椅子に戻り、私をその膝に座らせた。

「何度も言ってることだけど、頼んなさい。ほら、よしよし」

 別に悲しいわけではない。辛いわけでも。けれどなぜか、気づくと涙がこぼれていることがある。そんなとき、この村の人たちはみんな、わけを聞くでもなく抱きしめ、私を慰めてくれた。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。そんな気分の日だってあるからね」

 ぽんぽんと赤子をあやすような手つきが心地よかった。私はおばちゃんを抱きしめ返して甘える。

 思えば、この世界に生まれてこのかた、こうして大人に甘えたことはなかった。マリとして生きている間はずっと苛酷で――。こんなにも甘えられるのは、それこそ茉莉の幼少期以来ではないだろうか。


 村の人たちはみんな優しい。頼り方も甘え方も忘れて、一人で気を張っていた私を、あっという間に子どもに戻してしまったのだから。その懐は深く広く、私はただただその優しさに包まれていた。







「おーい、干しばあさーん!」
「バッソ! 誰が干しばあさんだって!」
「乾物屋なんだからいいだろ――って、リアちゃん」
「ああ、ついさっき寝ちまったよ。ちょうどいい。寝床に運んどくれ」
「あいよ」

 バッソさんはおばちゃんの膝から私を抱き上げ、そっと寝床へと運んだ。そして香しい干し草の匂いに包まれ――その記憶を最後に私の意識は途絶える。

「相変わらず突然くるなー、これ」
「そうだね。一か月けろっとしてることもあれば、連日、繰り返すこともあるし。なんとかしてやれたらいいんだけどね」

 バッソさんとおばちゃんが憐れむように私を見ていたことを、私は知らない。



「で、何の用だい」
「あー、リアちゃんのことだったんだけどな」
「起きたら呼ぼうか?」
「いや、ばあさんから伝えてくれ。もしリアちゃんが興味あるなら、明日、一緒に町に行こうって」
「行くかねえ、この子が」
「まあな。ただ、一回、神秘技師に見せてやりたいんだよ。神秘を使えるようになってわかったけど、リアちゃんの体おかしいだろ。いや、事情があることはわかってるよ。でも放っておけねーし。町のやつが神秘技師、呼べるって言ってたからさ。それならと思って」
「あんたは目がいいからねえ。けど、他にも見える人がいないとは限らないんだ。私は反対だ。危険だよ」
「あー、それもそうか。何か見えないようにする方法が必要だな。――わかった、今回はひとまずやめて、町で何か探してみるわ」
「そうおし」

 
 
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