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Ⅶ 待ち受けていたのは
94. 現実を見る
しおりを挟むクリフォード様は残酷だ。けど、クリフォード様のおかげで何とか裁判で戦う決意ができた。
やっぱり死ぬのは嫌だ。生きたいかと聞かれるとそれもよくわからないけれど、ただただ理不尽さに怒りが募っていた。
私は愚かで、軽率だったかもしれない。でも、これは私が悪意を持ってしたことではない。それだけは――ベイル様に知っておいてほしかった。
「正体……それから、ベルネーゼ侯爵令嬢を名乗ることになったきっかけ、ね」
気づいたとき、私はマリだった。見知らぬ小さな村で貧しい暮らしをしていて、でもそれまでの記憶は全くなくて。代わりに、水井茉莉の記憶を――きちんと自分の記憶としてもっていた。
転生か転移かと考えて、その時点で、誰かの身体を乗っ取っている可能性も考えていた。そう、ここが最初の失敗だ。私はここで慎重になるべきだった。
とはいえ生きることに必死だったあのときに、何ができたかは今でもわからないけれど。
そうしているうちにベルネーゼ侯爵家の騎士が私を迎えに来た。一年くらい前に家出をしたミュリエルお嬢様だといって。そんなはずはないと思いながらも、記憶がないからとそれに流されてしまった。
これもまた失敗だ。ここでしっかりと断れていれば――いや、それでもこの体がミュリエル様本人の者である以上、やはりどこかで捕まっていただろう。
それでも、あの時、自分がこの村にくるまでの足取りをきちんと調べさせたら、途中で何か入れ替わるような事故があったとわかったかもしれない。そうすれば犯罪ではなく事故扱いで済んだかもしれない。
そして、セーファス様とベイル様と出会い、社交界デビューして――完全に逃げ道は塞がれた。
もっとも、私がセーファス様に告白されたりして調子乗っていたのがいけないんだけど。
というか、これが乙女ゲームをなぞらえた世界だと気づいた瞬間、現実だと自分に言い聞かせていても、どこかおとぎ話の世界に紛れたような感覚になっていたのだろう。私の中の危機感は薄れていた。
告白もきちんと断るべきだったのに、セーファス様との未来の可能性を残してしまい、前世で欲しかったアクセのデザインに似ているからと、あっさりとメイズヤーンを受け取ってしまったり――。
「あ……」
私ははたとして、左腕に視線を落とす。
「ああ、そっか。メイズヤーンがないんだ……」
私の腕からは銀色に輝くそれが消えていた。
神秘を使うための補助具であり、セーファス様とベイル様の想いの証。
それがそのまま私の腕に残されているはずがあるわけなかった。
「私はミュリエル、じゃない。本当の私は――」
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