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Ⅶ 待ち受けていたのは
98. 滅魂って?
しおりを挟む騎士が裁判のはじめに言っていたように、刑は即日執行されるらしい。
そのまま神殿へと移送された私は、今、拘束された状態で――猿ぐつわを噛まされ、縄で腕と体、足を縛られた状態で台の上に寝かされていた。台は布で覆われた固めのものだったが、それは――手術台、なんて言葉を連想させた。
それもあながち間違いではないかもしれない。これからこの場所で行われるのはミュリエル様の体の返還――魂を抜き出しての入れ替えであるから、魂の手術とも言えるだろう。
そして、身体の返還と同時に私の刑が執行される。
私は移送中に滅魂の意味を知った。二度と生まれ変わることができないように、魂を滅ぼす、という刑だ。
魂、といわれても私はぴんと来ないが、神秘の力が見えるこの世界では、神秘と深いつながりのある魂も見て取れるらしい。魂だけの状態、精神体とかいう状態は、まさに神秘で構成され(もしくは覆われ)ており、この世界では可視できるのだ。
転生に関しても――この世界では、当たり前のように転生の話が伝わっている。まあ、魂(のようなもの)が見えているなら転生だと気づくことがあってもおかしくないのだろう。
ゆえにそれを滅ぼすこともできる、ということで――手順としてはこうなる。
一、魂を特殊な石に封じ、金槌のようなもので粉々に砕く。
二、砕いた魂を、灼熱の溶岩が今なおふつふつとしている、焔山(ほむらやま)の火口に撒き、どろどろに溶かして滅する。
これだけ聞いてもあまり現実感はないが、問題は人の意識や痛覚が魂に紐づいているらしいということだ。体ではなく魂に。
つまり、魂が肉体を離れた状態でも、砕かれれば激痛がはしり、溶岩に投げ込まれれば痛いほどの熱さを感じる。気を失う、という逃げ道もないため、本当に滅びる瞬間まで苦痛に苛まれるというのだ。
とはいえ、実際に滅魂の刑を受けた者は生きていないのだから、事実などわかるはずがない。
けれど、そんな私の甘い考えはあっさりと否定された。
魂が痛みを感じることはすでに検証され既知の事実となっているし、滅魂に立ち会った神官たちの手記にも、魂の悲鳴が聞こえたの記述が残されていたという。
そもそも滅魂は、主に悪霊に体を乗っ取られた人に対して下される特殊な刑であるらしく、あえて苦痛を感じさせるように作られ、より苦痛を感じるように改良されていった刑なのだ。
――という、話を教えてきたのは移送のためについてきた兵士たちだった。
彼らは、私が自分に下された刑罰を理解してないとわかるや否や、懇切丁寧に、そして愉しげに説明してきたのだ。
ただ怯える私を見たいがために。
これを聞かされた私がどう反応したかなんて、もはや言うまでもないだろう。
周囲は大勢の神官が行き来し、ざわめいていた。そして、ひと際、ざわめきが大きくなったとき――隣にミュリエル様が運ばれてきた。そっと横を向くと、眠っているのか穏やかな表情で瞼を閉じているミュリエル様が見えた。
胸の内から、なんとも形容しがたい感情が込み上げる。怒り、悲しみ、恐怖、羨望、悔しさ――収まりきらないこのぐちゃぐちゃとした感情を吐き出して楽になりたかった。
そうこうしているうちに準備が整ったのか、室内にいた二十人近くの神官たちが次々と部屋を出始める。
「ぁ……」
猿ぐつわを噛まされた口からくぐもった声が漏れる。
ミュリエル様が運ばれてきたのだから、儀式と刑の執行が始まると気づくべきだった。どんどんと減っていく神官たちの姿から、急激に私の緊張が高まる。
どうしよう。どうにもならない。でも、助けてほしい。助けて。
心の中で助けを求めるものの、当然のことながら、誰一人として見向きもせず出て行く。いや、何人かはミュリエル様に「頑張って」「大丈夫ですよ」「もうすぐですからね」と優しく声をかけるついでに、ちらっと私を睨んでいったが。
そして、出て行く最後の一人となった。その神官は入り口で立ち止まり、振り返って言う。
「では、部屋を封じさせていただきます。終わりましたらご連絡ください。0番の合図にて解除いたします」
「よろしく頼む。あとは手はず通りに」
「かしこまりました」
残ったのは立派な神官服を身にまとった、大神官と呼ばれていた男と、やっぱり他の神官たちよりちょっとだけ立派な服装をした補佐役の男、その二人だけだった。
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