まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅷ 優しさ、たくさん

110. ぼっちゃまのご用件

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 ご領主様来訪の知らせは、村の一大ニュースとして瞬く間に知れ渡った。

 あのあとご領主様は、村長とは名ばかりのジジさまの家に招かれて話をしている。
 それをみんなで、村長の家の外からこそこそと(ただし窓や入口からなので丸見えの状態で)見ていた。

「っほん。うおっほん」

 わざとらしい咳払い。野次馬たちを追い払おうとしたのだろうが、その程度で引く者はいない。滅多にない来訪者なのだ。当然、誰も彼もが興味深々で耳をそばだてていた。別の理由からではあるが、私もまた。

「申し訳ございませぬ。少々、外が騒がしく……」
「くくっ。いや、構わない。特に内密の話というわけでもないのでな」

 ご領主様は鷹揚な態度を見せた。どうやら思っていたよりも気さくな方のようだ。

「申し遅れましたが私、村長を努めさせていただいているジジと申します」
「私はギオスティン・フェーニ。伯爵だ。ここフェーニランド領の領主をしている。ジジ殿、よろしく頼む」
「私のことはジジと。フェーニ伯爵におきましては、このような田舎まで御足労いただき、感謝の念に堪えません」
「そう固くならないでくれたまえ。私は今回、その、お詫びに来たのだから」

 ご領主様はさらりととんでもないことを口にした。ジジさまは戸惑いながら尋ね返す。

「お詫び、にございますか?」
「ああ」

 そしてご領主様は、当時の自分はまだ若く無知だった、と笑った。
 やはり当時は知らなかったようだ。村の平民の大半が神秘を使えないことを。それをあとになって知り、後悔したのだという。

「そういうわけで、よければなのだが、以前寄付した神秘の器具を買い取らせてほしい。売ってお金にすることもできなかったと聞いている。本当に申し訳ないことをした」
「それは……」

 売ることもできず朽ちるに任せていた神秘の器具を、ご領主様が買い取ってくれるという。本来であれば諸手を挙げて喜ぶところだろう。けれど。

 言いよどむジジさま。それはそうだ。だって、この村ではがっつり使っているのだから。
 そんなジジさまの逡巡に何を思ったのか、お付きの人がご領主様に声をかける。

「ぼっちゃま」

 ご領主様は答えない。

「ぼっちゃまっ」
「じい!」

 私は思わず口元を押さえる。やはり、ここに来る前に聞こえたその呼び名は幻聴ではなかったようだ。
 三十代後半くらいに見えるとはいえ、ご領主様はかなり濃い顔立ちをされている。それが、ぼっちゃま……。似合わな過ぎる――なんて思っていると、少し離れたところで、バッソさんが肩を震わせているのが見えた。

 だ、駄目だって!

 でも、ぼっちゃま……(笑)

「本当にぼっちゃまはやめてくれ。私にはもう、結婚適齢期の息子だっているんだ」「存じておりますが、なにか?」

 お付きの人が平然と答え、それでご領主様は撃沈した。

「いや…………なら、いいんだ。ええと、な、何だったかな」
「買い取りのお話にございます、ぼっちゃま。ご説明が不足されているのでは?」
「あ、ああ、そうだったな。――そう、器具の状態だが、壊れていても問題ないと伝えたかったのだ。使えるものと同様の価格で引き取ろう」

 落ち着きを取り戻せば、もう立派なご領主様にしか見えない。――でも、ぼっちゃま。
 あ、またバッソさんが笑った。

「ジジ?」

 ご領主様が呼ぶも反応がない。私も怪訝に思って、バッソさんからジジ様たちへと視線を戻す。

「ジジ、ジジ? 大丈夫か?」
「っ、あ、いや……」

 ジジ様がはっとしたようにご領主様を見た。それから少し慌てた様子で口を開く。

「その、申し訳ございません。ええと……神秘の器具を買い取ってくださるというお話でございましたな」
「え? あ、ああ。まあ……そうだ」

 わずかにかみ合わない会話に、私は一つの疑念を抱く。もしかすると、ジジさまはぼっちゃま発言でフリーズしてたのではないだろうか。

「左様でございますか。それは、大変なお心づかい感謝いたします」
「では――」
「ですが、それには及びません」

 結論は決まっていた。問題はどう伝えるか、どこまで話すか、だが、ジジ様はひとまずきっぱりと断ることにしたようだ。

「というと?」

 ちらりと視線が向けられる。あとは、この村に神秘を使える者がいることを言うかどうか。

「我が村ではありがたく活用させていただいておりますので」
「なんと! この村には神秘を使える者がいるのか!」

 ぱっとご領主様の表情が輝いた。

「ええ、数人ですが。……我々は恵まれておりました。偶然立ち寄られた旅の者のご厚意で、神秘の使い方を教えていただけたのです」

 これは嘘。教えたのは私だから。
 ジジ様は私のために、嘘をついてくれたのだ。深く突っ込まれたらきっと困るだろうに。

 何人かの村人が走り出す。おそらくこの場に来れなかったおじいちゃんおばあちゃんの家に行って、口裏を合わせてもらえるよう頼むのだろう。
 申し訳ない、と思うけれど、そんな村人たちの優しさが嬉しかった。


 ――でも。そのわずか数分後。私はちょっと困った事態に陥っていた。

 
 
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