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Ⅹ 集まる想い
142. おかえりなさいませ、お嬢様
しおりを挟む「おかえりなさいませ、奥様、お嬢様」
ベルネーゼ侯爵家の使用人が声をそろえて出迎えた。
ここは王都にあるベルネーゼ侯爵家のお屋敷だ。少し懐かしい、見覚えのあるエントランスホール。
けれど、感慨に浸っている心の余裕はなかった。なぜなら、今、入り口をくぐったのは奥様と私だけだったから。つまり、お嬢様、という言葉が指し示すのは――。
「奥様……」
困惑を浮かべ、縋るように奥様を見た。奥様は笑みとともに答える。
「大丈夫よ。ミュリエルは殿下にべったりで王城から帰ってこないもの」
「えっ!?」
そういうことじゃないと思いつつも、思いがけぬ情報に目を白黒とさせる。ラブラブだとは聞いていたけれど、それほどまでとは。
「――じゃなくて! わ、私は、侍女です。そういうお約束のはずです」
侍女でも妥協したほうなのだ。うっかり流されそうになったけれど、お嬢様はない。ありえない。
「あら、ごめんなさいね。忘れていたわ。――タイム、いらっしゃい。この子をお願いね」
白々しい奥様はさておき、前に進み出たメイドの姿にビクリと体が震える。
メイド長のタイムは、ミュリエルとしてこの家にいたときにお世話になった人物の一人だ。ぼやけて擦れていた記憶が鮮明に蘇る。
私が困らないよう先手を打ち、時には自ら厳しく指導してくださった人。先にお屋敷に戻った侯爵様は、もう私のことを話してしまっているだろうか。タイムの態度から窺い知ることはできないけれど。
「かしこまりました、奥様。あなた、お名前は?」
「リアと――」
「マリよ」
被せるように奥様が言った。当然、タイムは奥様の言葉を優先するに決まっていて。
「ではマリ様、おいでください。お部屋に案内いたしましょう」
ミュリエル様の体を奪った罪人の名前がマリであることは、知っている人は知っている。できれば避けたかったのだけれど。
タイムはもちろんのこと、確実に事情を知っている奥様もそれにはお構いなしだった。
「どうかなさいましたか? 参りますよ?」
「あ、は、はい!」
慌ててタイムのあとを追った。
名前など些細な問題だ。同じ名前の人も大勢いるのだから。だから気にしない。
自分にそう言い聞かせ、私は平静を取り繕った。
奥様に振り回されてばかりだけれど、ここから先は本当に、奥様なしではどうにもならない。裁判を起こすにしろ、別の方法を取るにしろ。だから些細なことを気にしていてはどうしようもないと割り切ることにした。
このあと、侍女の身分はメイドより上だからと全員から様づけされ、奥様のご希望だと言われて同じテーブルでお茶を飲み、しばらくお会いできていなかった侯爵様たっての願いだからと、夕食も共にすることになるのだけれど――このときの私はまだ知らない。
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