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Ⅸ もう後悔なんてしない
124. 侍女は一人で外出しない?
しおりを挟む銀糸の織り込まれた立て襟の長そでシャツを着て、同じ素材のタイツをガーターベルトで留める。さらに紺色のワンピースを着て、エプロン風の前掛けをつければ――貧相ながらも見紛う事なき侍女姿の完成だ。
このお仕着せはご夫婦から支給されたものだった。おそらく、国境を越えるために必要だったのだろう。ディダに連れていく条件として、侍女として奥様の話し相手になることを提示された。養女になるか侍女になるかの二択だなどと冗談をおっしゃられていたけれど、つまり身内である必要があったということだろう。
この家で侍女というと、行儀見習いで預かっているお嬢様を指す。そのおかげか、国境ではご夫婦同様、ちらりと顔を見せるだけで簡単に入国できたのだけれど――メイドでは駄目だっただろうか。私には侍女でも敷居が高い。
「本当にお一人で町に出られるのですか?」
心配そうに、いや、不満そうに尋ねてきたのは同行しているメイドの一人。この質問ももう三度目だ。昼間の町に出るだけだからと付き添いを断ったらこうなった。
現在、私は目的地のディダに到着していた。
越えられるか不安だった国境もすんなりと通過でき、たぶん、見た目だけでなく性能も立派だった馬車と馬のおかげで、二十日という予想よりかなり短い期間で着ことができたのだ。
そして到着から一夜明けた今日、さっそく町に出ようとしたのだけれど。
「やはり私だけでもお供いたしま――」
「アイリスさん、私はただの村娘ですよ? メイドも護衛も連れていたらおかしいでしょう」
侍女服を着ての外出であることを考えれば、連れていくべきなのかもしれないけれど、そこまで迷惑はかけられなかった。特に、この家の人たちには。
このお仕着せを渡されたときから、どこかで見たことがあると思っていた。そして、それがどの家のものか判明したのは、入国審査の際のこと。
――ベルネーゼ侯爵家。
そう、まさかのミュリエル様のご実家のものだった。そして、私を連れてきてくれたご夫婦は、ミュリエル様のご両親。かつて、私も父母と呼んだ人たちだった。
正直、彼らがベルネーゼ侯爵夫妻だったことはまだ受け入れられていない。どうして来たのか、何を思って協力してくれているのか。ここまで時間はあったにもかかわらず、何一つとして聞けなかった。そして彼らも、その話を振ってくることはなかった。
「では、行ってまいります」
すぐ隣の奥様の部屋に顔を出し、外出の挨拶をする。
ご領主様は仕事が詰まっているとのことで、今朝早く、すでに町を出ていた。けれど、奥様は私に付き合ってここに滞在するという。私には構わず行ってくださいと言ったけれど、彼女は首を縦に振らず、現在も同じ宿に滞在していた。
奥様曰く、話し相手がいなくては困るもの、だそうな。意味がわからない。
さすがに街中では目立ってしまうからと、今日は宿に残るとおっしゃってくださったけれど、やっぱり私を置いて帰られるつもりはないとのことだ。
「気をつけて。夕食までには戻ってらっしゃいね」
「はい、承知しました」
旦那様も奥様もお優しかった。何か企んでいるのではと勘繰ってしまう私は、もしかして、ひねくれているのだろうか。
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