まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

文字の大きさ
132 / 188
Ⅸ もう後悔なんてしない

124. 侍女は一人で外出しない?

しおりを挟む
 

 銀糸の織り込まれた立て襟の長そでシャツを着て、同じ素材のタイツをガーターベルトで留める。さらに紺色のワンピースを着て、エプロン風の前掛けをつければ――貧相ながらも見紛う事なき侍女姿の完成だ。

 このお仕着せはご夫婦から支給されたものだった。おそらく、国境を越えるために必要だったのだろう。ディダに連れていく条件として、侍女として奥様の話し相手になることを提示された。養女になるか侍女になるかの二択だなどと冗談をおっしゃられていたけれど、つまり身内である必要があったということだろう。
 この家で侍女というと、行儀見習いで預かっているお嬢様を指す。そのおかげか、国境ではご夫婦同様、ちらりと顔を見せるだけで簡単に入国できたのだけれど――メイドでは駄目だっただろうか。私には侍女でも敷居が高い。


「本当にお一人で町に出られるのですか?」

 心配そうに、いや、不満そうに尋ねてきたのは同行しているメイドの一人。この質問ももう三度目だ。昼間の町に出るだけだからと付き添いを断ったらこうなった。

 現在、私は目的地のディダに到着していた。
 越えられるか不安だった国境もすんなりと通過でき、たぶん、見た目だけでなく性能も立派だった馬車と馬のおかげで、二十日という予想よりかなり短い期間で着ことができたのだ。
 そして到着から一夜明けた今日、さっそく町に出ようとしたのだけれど。

「やはり私だけでもお供いたしま――」
「アイリスさん、私はただの村娘ですよ? メイドも護衛も連れていたらおかしいでしょう」

 侍女服を着ての外出であることを考えれば、連れていくべきなのかもしれないけれど、そこまで迷惑はかけられなかった。特に、この家の人たちには。

 このお仕着せを渡されたときから、どこかで見たことがあると思っていた。そして、それがどの家のものか判明したのは、入国審査の際のこと。

 ――ベルネーゼ侯爵家。

 そう、まさかのミュリエル様のご実家のものだった。そして、私を連れてきてくれたご夫婦は、ミュリエル様のご両親。かつて、私も父母と呼んだ人たちだった。

 正直、彼らがベルネーゼ侯爵夫妻だったことはまだ受け入れられていない。どうして来たのか、何を思って協力してくれているのか。ここまで時間はあったにもかかわらず、何一つとして聞けなかった。そして彼らも、その話を振ってくることはなかった。


「では、行ってまいります」

 すぐ隣の奥様の部屋に顔を出し、外出の挨拶をする。

 ご領主様は仕事が詰まっているとのことで、今朝早く、すでに町を出ていた。けれど、奥様は私に付き合ってここに滞在するという。私には構わず行ってくださいと言ったけれど、彼女は首を縦に振らず、現在も同じ宿に滞在していた。
 奥様曰く、話し相手がいなくては困るもの、だそうな。意味がわからない。
 さすがに街中では目立ってしまうからと、今日は宿に残るとおっしゃってくださったけれど、やっぱり私を置いて帰られるつもりはないとのことだ。

「気をつけて。夕食までには戻ってらっしゃいね」
「はい、承知しました」

 旦那様も奥様もお優しかった。何か企んでいるのではと勘繰ってしまう私は、もしかして、ひねくれているのだろうか。

 
 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...