まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅹ 集まる想い

157. 裁判終了後、サロンにて

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「あら……?」

 議場から休憩室がわりのサロンに戻って、ベルネーゼ侯爵夫人は目を瞬いた。
 入り口近くで主人の戻りを待つ侍女や侍従の中に、目的の人物の姿はない。

「あらあら、本当に……困った子ね」
「ベルネーゼ侯爵夫人?」

 怪訝そうに尋ねたのはハーヴェス侯爵令嬢。一緒にきたエイドリアン伯爵やルウェル侯爵家の次男もその整った顔に戸惑いを浮かべていた。

「ごめんなさい、みなさん。いなくなってしまったみたい」

 正直に告げれば、ハーヴェス侯爵令嬢のお顔がみるみる赤くなった。怒り心頭といったところか。

「あ、あの子っ、本当に何考えてらっしゃるの! いつっつもいっつも迷惑ばっかりかけてっ」

 言葉に反し、声は泣きそうなものだったけれど。

「すぐに捜させますわ、夫人」

 夫人は答えず、すっと隣に視線を移した。こちらはこちらで呆然とした顔をしている。

「あなたも捜させますの? エイドリアン伯爵」
「……いえ。帰ります」
「ベイル様っ!」

 やはり悲鳴のような声をあげるハーヴェス侯爵令嬢。この二年の間、ずっと苦しんできたことを夫人は知っていた。ミュリエルとも仲良くしているけれど、ふとした瞬間に見せる悲しげな顔は忘れられない。

「ハーヴェス侯爵令嬢も、捜さない方がいい。彼女はやっと……自由になれたんだ」

 ハーヴェス侯爵令嬢がうっと言葉を詰まらせる。あの子の幸せを想うからこそ、それを否定できないのだ。

 本当は、夫人も自分の手の届くところでマリを幸せにしたかった。もしマリが養子になることを承諾してくれたら、婚約者を失うだろうエイドリアン伯爵との縁組も視野に入れていた。
 マリとて、それは考えただろう。けれど断った。
 そして、考えを変えるなら最後の機会になるだろうこの場からも去っていった。

「残念ね。あの子にはうちの子になって欲しかったのだけれど。これがあの子の答えなのでしょう」

 できるだけ軽い口調で言う。マリは自らの望みを叶えたばかりなのだ。暗くなるなんてとんでもない。

「よろしいのですか?」

 これまでじっと黙っていたルウェル侯爵家の次男が不安げに尋ねた。それににこりと笑みを返す。

「ええ。会いたくなったら、会いに行けばいいだけのことだもの」

 ルウェル侯爵家の次男は驚いて声も出ないようだった。なかなか珍しい表情を見れたのではないだろうか。といっても、比較的、感情は出すタイプの青年だけれど。

「そっか。そうですわね」

 思い詰めたような表情をしていたハーヴェス侯爵令嬢がポツリとつぶやいた。
 一度目を閉じて、目を開ける。そこにはもう、いつもの勝気なハーヴェス侯爵令嬢の顔があった。

「奥様、そのときは私もご一緒させていただけます?」

 もう大丈夫だろう。取り乱した様子も、思い詰めた様子も、窺えない。もちろん、心の内にはまだ多少の嵐は吹き荒れているだろうけれども。

「もちろんよ。ああ、でも……叱るのはほどほどにしてちょうだいね」
「まあ! 心外ですわ。そんな、叱るだなんて……す、少しだけですわ」
「ふふ、そうね。そうだわ、エイドリアン伯爵もご一緒にいかが?」

 悪戯っぽい調子で聞いてみる。
 ルウェル侯爵家の次男がマリの生存を伝えたのは一昨日のことだという。エイドリアン伯爵の心は決まっているだろうか。

「私は――私は、ご遠慮させてください」
「そう」

 その言葉に迷いは見えなかった。
 未来は決まった、と夫人は悟った。

 
 
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