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Ⅲ ヒロインの宿命?
36. 私はあなたたちの娯楽じゃありません
しおりを挟む「うわっ」
後ろからドンと強い衝撃を受けた。それによって、出ようとしていた教室のドアに体をぶつける。
ドゴッ、となかなかの音がした。……そんなに痛くはなかったけど。
「あら、ミュリエル様、いらっしゃいましたの? 気づきませんでしたわ」
「そちらは出入り口ですわよ。そんなところに立ち止まらないでくださる?」
「違うわ、きっと、ミュリエル様はドアの開け方も忘れてしまわれたのよ。アビー、教えて差し上げた方がよろしいのではなくて?」
「まあ! そうね。そうかもしれないわ、ベラ」
「「「うふふふふ」」」
そう言ってくすくすと笑うご令嬢たち。私はまたか、とうんざりしながら周囲を見回した。
ぶつかってきたのは伯爵家の仲良し三人組。彼女たちのように、あからさまな態度を見せる人は少ないけど、他の令嬢たちもさりげなく私を避けたり、こういった嫌がらせ見て見ぬふりをしたりしている。
このクラスだけでいうなら、ほとんどのご令嬢より身分は上だから、上っ面くらい取り繕ってもいいんじゃないかと私なんかは思うんだけど、そういったことはないようだ。
あれから一週間。教師たちの態度はクラスメイトへも大きな影響を与え、ごらんのように私は孤立していた。最初の数日は一緒に行動していたメリッサさんでさえ、気づけば違うご令嬢と仲良くしているというありさまだ。
唯一の例外がレイラ様だけど、レイラ様はレイラ様で多忙なので、常に一緒にいられるわけではなかった。
正直なところ、ちょっと嫌がらせをされたり、陰口を叩かれたりといったことに関しては、イライラとはするけれど、我慢できないわけではない。
それよりも、特に話しかけて来るでもなく、ただ憐れみの目を向けてくる人たちのほうが辛かった。彼女たちに見られていると思うと、恥ずかしいやら情けないやらで居たたまれなくなる。私の無能さを見せつけられているような気さえした。
「先日の夜会で婚約発表されなかったからどうしたのかしらと思ったけれど……ドアの開け方がわからないほどでしたのね」
「えぇ。これでは、恥ずかしくて婚約者になんてできませんわ」
「セーファス様もお可哀想に」
「留学に行かれたのも、頭が悪――っと、頭があまりよろしくないことを隠すためだったのではないかしら」
「でも……それで、他国に恥を晒されては――リングドルが笑われてしまうわ」
「まったくだわ。けれど、それ以前に、本当に留学に行かれてたのかしらね?」
途端に二人が動きを止め、その視線を渡しへと向ける。
「「まああ! そういうことでしたのね!?」」
そういうこと、じゃないっての!
私は反論したいのを我慢して、きゃっきゃと楽しそうに騒ぐ三人組を後目に教室を出る。
向かうのはいつも通り図書館だった。
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