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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
38. さすがは王子様
しおりを挟む今日の午後は教室移動があった。今日から神秘の実技が始まるのだ。
昼食を終えた私とレイラ様は一緒に授業が行われる神秘第一研究所――通称、工房と呼ばれている場所へと移動した。
小さな体育館ほどの広さがある空間の入り口側半分に、日本でいうところの理科室や図工室にあったような大きめの机が用意されている。一つのテーブルは四人掛けで、普段教室で使っている机の四つ分くらいのスペースを一人で使えるようになっていた。
その大机の一つにレイラ様と並んで座ったちょうどとき、入り口近くから黄色い歓声があがった。
視線を向けるとそこには女子生徒たちが集まっている。その中心から、金色の頭が一つ、飛び出して見えていた。
「殿下……」
「いらっしゃったようね。相変わらず人気者ですこと」
そう、この実技の授業。実は男子クラスと合同なのだ。
これまでも単発の授業や行事では男子クラスと一緒のものもあったけれど、今回の授業みたいに継続的に続けられていく科目での合同授業はなかった。だから女子たちのテンションも上がっているのだろう。
一緒に授業を受けるのは、私たちのいる2-LAと2-GA――つまりセーファス様たちのいるクラスだ。クラスはA~Cまであるけど、学力ではなく誕生日で区切られていた。Cクラスは日本だったら一つ下の学年だったんじゃないかな。
ちなみにこの世界の学校は秋始まりで、今の季節は冬。なので、ここにいるAクラスの生徒たちは全員十五歳になっていた。
「殿下、こちらの席にいらしてくださいな」
「いいえ、殿下はこちらの席がいいに決まってますわ」
「あらあら皆さん、殿下のご迷惑になりますわ。選ぶのは殿下でしてよ」
そんなやりとりを目にして思わず納得する。なかなかみんな席につかないと思えば、どうやら殿下の側に座りたくて待っていたらしい。
「ミュリエル」
ぼんやりと囲まれているセーファス様を眺めていると、ふいに後ろから声がかかった。
「あ、ベイル様」
「もう来ていたんだね」
「はい。楽しみでつい早く来てしまいました」
ね、っとレイラ様に顔を向けると、レイラ様も大きく頷いてくれる。
「そうか。ハーヴェス侯爵令嬢も、今日からよろしく頼む」
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いしますわ」
ベイル様は私たちの隣の机を選んだようだ。男女は同じ机につけないので、可能な限り一番近い席、という形だ。ちょっと嬉しい。
「ところでミュリエル。食事はちゃんととっているのか?」
「え? あ、はい。ちゃんと食べてますよ?」
「本当に? いや、レディに言う言葉でないことはわかっているんだが……君が帰ってきたと聞いて駆けつけたときとあまり体型変わっていないだろう? だから心配なんだ」
私はバレない程度に視線を泳がせる。本当に心配してくれているのがわかるだけに罪悪感がわいた。
さすがに侯爵家に来たばかりの時よりかはマシになっているはずだ。ただ、社交界デビューの夜会に出たときが体型のピークで、今はそれより少し痩せてしまっていた。
原因は考えるまでもなくわかっている。学院でのストレスだ。食べたものを戻すことこそないけれど、やっぱり食べられる量は少なかった。
「でも、ほら、肌の色つやはよくなってますでしょう?」
「ああ、それは――きれいだよ」
そして目を細め、笑みを浮かべる――
「ありがとうございます……」
ふぅ。心臓が止まるかと思った。
うん、わかってる。肌の話だよね。
褒められたのは私じゃなくて手入れしてくれるメイドたちだ。別にベイル様は私のこときれいだって言ったわけじゃないし、これでドキッとなんてしてちゃダメでしょう。
でもまあ、イケメンの口から出た言葉だ。ちょっとフリーズするくらいは仕方ないよね! ねっ!
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