まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅴ いざ、帰らん!

51. 浮かれてるのは彼のせい

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「ベイル様! お待たせしました」

 冬期休暇の二日目。私は覚悟を決めてベイル様とのデートを決行した。
 ……別にベイル様はデートとは一言もおっしゃらなかってなかったけどね。

 とにかく、休日をご一緒するという約束をようやく果たす日が来たのだ。私は目一杯のおしゃれをして、迎えに来てくださったベイル様の元に駆け寄る。

「ああ、ミュリエル……その服、似合ってる」

 今日は町に出る予定なのでおしゃれしたといっても装いは控えめだ。ただ、貴族御用達の店が立ち並ぶ警備も万全な区域に行く予定なので、平民に扮したわけでもない。明るい山吹色の動きやすいドレスだ。学院に着ていっているのは今日よりも少し豪華な、どちらかといえばフォーマルな感じのドレスだが、今日のドレスはそれよりカジュアルな印象になるだろう。

「ありがとうございます。ベイル様も、いつもと少し感じが違いますけど、似合ってます」

 ベイル様もまた、いつもより少しカジュアルな感じの服装だった。普段は黒や寒色の服を着ていることが多いベイル様だが、今日は差し色にワインカラーが使われている。それだけでもうだいぶ印象が違った。

「あ、ああ。メイドたちがね、少し張り切ってしまったみたいで。おかしいだろうか」
「まさか。カッコいいですよ」

 するとその頬がうっすらと赤くなる。あ、照れてる、って思ったらちょっと楽しくなった。

「行こうか」
「はい」

 それからベイル様にエスコートしてもらって馬車に乗り込んだ。
 最初の目的地は色んな店が並ぶ大通りだ。領地に帰る際の手土産を一緒に選ぶことになっていた。

「ミュリエルはもう、荷造りは済んだか?」
「ええ。あとは今日、お土産を買って完了です。ベイル様は?」

 貴族の旅支度など、こちらが言わずともメイドたちがやってくれる。特にこれを持っていきたいというものがないのであれば、指示を出す必要さえなかった。
 私もベイル様も明日、領地に向けて出発する予定だ。支度が済んでいないのであれば、早めに帰さなくてはと気遣ってくれたのだろう。

「私も終わってる。それなら少し帰りが遅くなってしまっても大丈夫か?」
「夕食までには帰りますよ? 家を空けて以来、お父様もお母様も過保護なんです」
「ははっ、それは仕方ないな。大丈夫、そんなには遅くならない。帰る前に少し寄り道をしたいだけだから」
「それでしたら、お任せいたします」

 元々、今日の予定としてはお土産を買うこと以外にはなにも決めていない。私の時間がほしいといったのはベイル様であるから、なにか考えがあるのだろうと思って、今日の約束を取り付けたときも、ベイル様にお任せすると伝えていた。

 まあ、お任せした理由はそれだけじゃないけどね。

 実は私、こうして王都の町を見るのは初めてだったりする。お屋敷に連れて来られたときは馬車で素通りだったし、そのあとも、社交界デビューまで一ヶ月しかなかったので、令嬢教育で缶詰だった。そのままあっという間に学院に通う時期になり、以降の休日は勉強尽くしだった。

 もし、学院で同性の友人がたくさんできていたら、もっと早くに来ていただろうし、知識としても知っておく必要があっただろう。けれど、私の側にはレイラ様しかおらず、レイラ様はあまりおしゃれやお菓子などに興味がないらしく、町のお店の話題などが出ることはなかった。
 結果、これまで王都を見る時間も必要性もなく、私は三か月目にして初めて、自分の住んでいる町を見ることになった。

「あれ! あちらはなんのお店でしょうか!」

 馬車から降りて、お菓子屋さん、布小物屋さん、雑貨屋さんと見て回りながら、お土産を選んでいく。私が意識を取り戻したときにいた小さな村とは違い、王都には多くのお店があり、私のテンションはMAXだった。そんな私のあとを、ベイル様がぴったりとついてきてくれる。

「ああ、香草屋だな。最近、香水とは別に、香りのついた石鹸が流行っているだろう? そういった香りつきの加工品を取り扱ってるお店だよ」
「見ても?」
「もちろん」

 休日をベイル様と過ごすということで、昨夜はなかなか眠りにつけないくらい緊張していた。けど、実際に来てみたらどうだろう。私は楽しくて楽しくて仕方なかった。こんな気持ちになったのは一体いつ以来だろうか。

「やっぱりミュリエルはそうして笑っている方がいい」

 お店に入りながら、耳元でそうささやかれ、かっと顔が熱くなった。
 きっと首まで真っ赤になっているだろう。息遣いを感じるほど近くに立つベイル様を私は振り返れず、商品に興味を引かれたふりをして、急いで距離を取った。


 やっぱりベイル様は気づいていたんだ。
 レイラ様の一件が会って以来、レイラ様との付き合いはそのままだけれど、学院では心の底から笑うことはできなくなっていた。


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