姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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make a break 真6

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「(感謝は無用だよ、姉御。......言っちゃ悪いけど私もあれは流石に無理だったからね)」

「(うむ。流音はセンスってものが致命的に欠けているからな)」

「(同意ですな)」

 共感とばかりに菫が頷き、続ける。

「(大体流音は見かけだけで内面が終わってるって言うか絶望って言う感じだよね)」

「(まぁ分からんでもないな。しかし、菫。こういう話はもう少しトーンを下げて......)」

「悪いけど聞こえてるんだけど」

「「......」」

 ビキビキと漫画なら確実に額に青筋が浮かぶであろう流音の形相に慌てて顔を反らす二人だった。




「で、制服の生地ってどこにあるのよ」

「あはは。バカだな~流音は。分かってたらもうとっくにそこに向かって痛ッ!?暴力は戦争の始まりの元だよ!!?」

「ならあんたの国全て滅ぼすわ」

 流音に拳骨を落とされた菫が涙目になって抗議するがその効果は全くなくむしろ逆効果。

「姉御~!!!」

 菫は今にも泣き出しそうな顔で圭子の後ろへヒョイと隠れてしまう。
 そして圭子はそんな菫を見ながら眼福とばかりに微笑んで、流音に向き合った。

「まぁまぁ、落ち着け流音。可哀想に菫が生まれたての小鹿みたいにガクガク震えてるではないか」

「菫がオーバーすぎるのよ!」

「そうか。ところで相談なんだが......流音。そろそろ疲れているだろう?だからその背負っているプリティーガールを私が代わりに......」

「代わらないわよ!」

「うぅぅ......後生だ!頼む」

「無理」

 またしてもあっさり断られて肩を落とす圭子。

「無念......」

「いや私からしてみれば何があなたをそんなに必死にさせているのか分からないけどね。じゃあ早く探そうか。まぁ見つからなかったらあの熊ちゃんは確定すると思いなさい」

「行くぞ菫!」
「了解だよ姉御!!」

 熊ちゃんをやっぱり諦めきれなかった流音が未練がましくそう言った直後、二人は全力で生地を見つけるため店内を駆けていった。

「......熊ちゃんの何がダメなのかしら?」

 一人その場に残された流音はぼそりと囁くように呟いた。




「いいか菫!ここには珍しいものが沢山あるかもしれないが今は制服の生地だけに集中するぞ!」

「分かってたらい姉御。熊ちゃんだけは避けたいからね!」

 とんでもないスピードで店内を駆け回る圭子は確認がてらに声をかけ、真愛をおんぶしながらもとんでもないスピードの圭子の背中にピタリとくっついていた菫がそれに応じた。

「では私は南側の棚から攻めていく。菫は北側から頼むぞ」

「合点承知!!あたぼーよ!」

 時間がない二人は十六列ある陳列台を南と北に別れて奔放する。他の客が異様な目で見てくるが知ったことではない。
 
 今は急がなければならないのだ。

 ここで急がなければ全員の未来が熊ちゃんによって潰されることとなること間違いはなしだ。

「これは..違う!これも違うこれもこれも......」

 しかしながら、いくら急いでいるとはいえ一流の生地屋でもない菫には生地を一目見ただけで制服用かどうかを見極めることなど到底出来ない。
 なので一枚一枚触って確認していくのだが、これも時間がかかってしかたがない。
 だが、他に方法がないので時間がかかろうにもこの方法しかなかったわけだが。


「これも違うこれも......これは......合った!」

 それでも熊ちゃんが嫌という必死な思いからか南側から五列目の陳列台で遂に手触りが全く一緒な生地を発見した。
 しかし、まだ手触りしか確認していないので急いでその生地を開いて無地かどうかを確認する。

 完璧な無地だった。

 そして値段もかなり破格な値段だ......と思う。
 実際の制服に使う生地の値段なんて知るわけがないから単なる推測であるが。

 菫はとりあえずどのくらい必要とするかは分からなかったので、そのサンプルの下にあるまとめ売り箱を持って、報告するため稽古のところへ向かおうとするが、おんぶ上の都合のためどうしても箱を片手で持たなければならず、そして箱も中々の重量だったために立ち往生してしまう。

(やっば......一歩も動けないっぽいよこれは)

 やはり一度圭子に伝えてから再度取りに行くのが一番なのだろう。菫はそのまま持っていた箱をもとの場所へ置こうとして......

「へー。やるじゃない菫。これが制服の生地で良いのよね?手伝うわ」

「へ?あ、ありがとう?」

 王子様みたく颯爽に現れ箱を支えてくれた流音に菫は思わず疑問系をつけてしまう。

「何で疑問系をつけるのよ!さぁ、これを早くレジに持ってくわよ」

「でもこれ重いよ流音」

「片手でも二人で持てばいけるわ!さぁ行きましょう!」

「あっ、私も持つんだね」

「当たり前よッ!!」

 お伽噺の王子様らしく流音が全部やってくれるかと内心思ってた菫は残念と思いながらも誤魔化すように笑った。

 箱は先程も述べたようにかなりの重さだったが、いくら片手とはいえ、二人がかりで運べないような重さではなかった。

 それでも重いものは重く、レジに着いた頃には双方ともクタクタであったが。




「まさかカートがあったなんてね......完全に骨折り損だわ」

「レジにあるなんてわかるわけないよね......」

「そうね......そういえば菫、圭子は?」

 レジにて箱の会計を済ませたことで余裕ができたのか、箱の入った巨大な買い物袋をカートに乗せながら流音が問いかける。

「あっ。忘れてた」

「いや忘れてたってあんたね......」

「なはな......ちょっち探してくるよ」

 流音から漏れだす気まずい雰囲気をいち早く感じ取った菫がその場から離れようと......

「はっはっは。その必要はないな」

「うおっ!?姉御!?いつから後ろに!?」

 気がつけば、いつの間に来たのか菫の背後には圭子が立っていた。
 そして、何故かその手には流音がカートに乗せている物と同じ巨大な買い物袋が。

(まさか?)

 嫌な予感がした。
 なにやら冷たいものが背中を通り過ぎていったような気がした。

 菫は圭子に生地を見つけたことを報告していない。
 そのため、もしかしたら、圭子も独自で生地を発見して買ってしまったのではないか、と そんな予想が脳裏を過ったのだ。

「姉御、それは......なんですか?」

「あぁ。これか、これは私たちにとって最も必要なものだな。まぁ、共同資金の入った財布は流音が持ってたから自腹で買ってしまったがな」

(やっぱり!?)

 冷や汗を流しながら視線で流音に助けを求めるが、流音は「私は関係ない」とばかりに一向に視線を合わせようとしない。

「ご、ごめん姉......」

「さぁ、菫も見てくれ!この素晴らしいメイド服を!!!」

 責任を感じて謝ろうとした菫に差し出されたのは十着以上のメイド服だった。
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