姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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make a break 真13

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 肩身狭く潰され、互いに隠れる場所を間違えた、と男子陣が後悔する中、やがてガチャリとフィクションでしか使われないような効果音が鳴ってドアが開いた。 

 ワンチャン、このまま通りすぎていくのでは?と淡い期待をしていた楽斗は小さく舌を打つ。

「(くそ、やっぱり入ってきやがったか。鍵が掛けてあるから要るわけないって慢心してればいいのに)」

「(教員側としては犯人に心当たりが付いてるのかもね。ほら、こういうことって宗吾とかしかやりそうじゃない?で、宗吾だったら閉まってる部屋の鍵を開けられる......って考えてそうね)」

 確かにその意見はもっともだ。こんな時間に学校に忍び込む奴なんて宗吾以外考えられないし、侵入者が宗吾だとしたら、あいつのイレギュラー性からして校舎全部が潜伏範囲だと考えられる......というか現に全ての合鍵を作った宗吾は事実それが可能なのだが。

 しかし、楽斗はそれを踏まえて不満を漏らした。

「(だとしたら月曜宗吾だけ叱っておけば良いじゃねぇか......)」

 まず第一に忍び込む可能性が「高い」というか「ある」のは宗吾だけなんだし、わざわざ探さなくても、と考えたのだ。

 だが、流音は首を横に振り、その楽斗の考えを否定する。

「(証拠がないから叱れないって感じかしら。先走った推測で万が一違った場合学校がどんな目で見られるか、いかにも小心者の考えね。まぁ、何が何であれ、隠れといて正解だったわね)」

「(あー。確かに小心者の学校がやりそうなことだな。てか、これ隠れたって言えるのか。小学生のかくれんぼって感じなんだが。すぐバレそうだぞ......って、うおっ!!)」

 流音の答えに納得したのか話題を変えようとした瞬間、楽斗は地面に着いていた手を慌てて上げた。

 そして、その行為に「どうしたの?」とは流音は聞かなかった。聞くまでもなかった。

 さっきまで楽斗が手を置いていた場所には、恐らく懐中電灯のものだろう円形の光が当たっていたのだ。

 瞬時に察する。この光は教員からの攻撃なのだと。

 そして、腕を慌てて上げたことで凄い体勢になった楽斗が自分を支えているもう片方の腕をプルプルさせながら呻く。

「(......これは......不味いな。そしてこのポーズで片手はキツイ......)」

「(頑張って)」

「(んな無責任な......)」

「(じゃあ耐えなさい)」

「(もっとマシな言葉くれよ。って......あれ!ヤバくねぇ!?)」  

「(何がよ?)」

 ん?と、楽斗が文字通り顔で語った言葉に疑問を抱いた流音が、楽斗が顔を覗かせている教卓の隙間に視点をずらした。

 教卓の隙間と言っても、一応頑張れば教室全体を見渡すことが出来る程の大きさだった。

 そして、流音が覗き込んだ先、そこには、大毅と菫が隠れているロッカーを怪しみながら眺めている教員と、真愛が隠れている冷蔵庫のすぐ傍まで近づいている教員の姿があった。

「(うそ!?)」

「(うおっ!?!!?)」

 その光景に、場所も忘れ流音が乗り出す。

 だが、忘れてはいけない。ここは狭い教卓の中と言うことを。

 この狭い中そんな動きをすれば、ましてや片手でギリギリ耐えている楽斗が、その衝撃に耐えきれるはずがなく楽斗の体を支えていた片手が崩れ落ちた。

(あっ、詰んだ)

 そう察するのに時間はかからなかった。

 片手で支えていた人間からその片手を取ったらどうなるか。小学生でも分かることだ。

 楽斗は崩れ落ちる最中、ゆっくりと表情が驚きから焦りに変わっていく姉を見ながら、大量の嫌味と共に覚悟を決める。
 
 ここで音を発ててしまえば見つかることは確実だ。
 となれば、全滅の道は避けようがないだろう。

 ならば、楽斗の取る行動は元より一つしかない。

 一人で教室を飛び出す。つまり囮になると言うこと。

 そうすれば、教員達は二人は追いかけてくるはずだし、運が良ければ四人で追いかけてくるかもしれない。
 
 流石に二人ならともかく、四人相手に逃げ切ることは出来ず、その時は楽斗は捕まるだろうが、皆は逃げ切ることが出来る筈だ。

 とにかく、やるしかない。

 そして、楽斗の体は音を発て崩れ落ちた。



 ━━━しかし、楽斗が行動に移すことはなかった。

 それは臆病風が吹いたからではない。
 単にその必要が無くなっただけだ。

「......やりすぎじゃね」

 教員が姿を消した教室で、今もなお聞こえてくる轟音に教卓から這い出た楽斗は驚きと感謝が入り雑じった声で呟く。

「にしても......」

「......凄いわね。いろんな意味で」

 同じく教卓から這い出た流音が、言いたいことは分かってると頷く。

「何やってるんだアイツらは」

「バカの考えることは分からないですね~。あっ、姉御は天才ですけど」

「確か馬鹿と天才は紙一重なんだよね」

 ギィイと耳につんざく音を奏で、ロッカーから出た大毅と菫も、珍しく真愛までそれに同調する。

 さっきの状況では考えられないほどゆっくりとそんな適当な雑談を交わす彼らの目を奪っているのはカーテンの無い窓。

 派手な音を鳴らしながら上がる花火に一同は、それぞれ苦笑いをした。

 ━━━これ、自分は関係ないよね?と。
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