姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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make a break 真12

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「何をして......いや、まぁ仕方がないな」

 何か言いたげだったが、咄嗟の事なので仕方ないと大毅は目を瞑る。

「うん!でしょでしょ!仕方ないんだよ!仕方ない仕方なーい」

「......なぁ、流音。菫《こいつ》蹴っていいか?」

「チッチッチ。無駄だよ大毅くん。流音は私の眷属。決して裏切ったりは」

「やむを得ないわね。許可するわ」

「何で許可しちゃうの、流音!?」

 自分の身が簡単に売り飛ばされたことに涙目で訴える菫。

 が、流音はもはやこの面子と対話するときには必須技術となったスルースキルで完全に菫の抗議をシャットアウトして、圭子を見た。

「今先生はどこにいるの?」

「うむ、今は一階を巡回してるな。もうすぐ突き当たりだから二階に上がってくるだろう。ここに来るのも時間の問題だな。だが、四人、二人に別れて両階段から昇ってきてるから階段を使って逃げるのは不可能だ」

 何故そこまで詳しく分かるんだ......。とは誰も質問しなかった。

 皆、「圭子だから」、とそれがまるで完璧な理由であるかのように納得しているのだ。

「......あぁ。それから、家庭科室の件だが心配はいらん。電気を消して鍵を閉めておいたぞ。ついでに、ほら。作りかけの制服も持ってきておいた」

「「「......」」」

 いつの間に!!?

 ......もう、流石としか言いようがない、全員が圭子から顔を背けてそう思った。


「って、皆!それどころじゃないよ!今はどうやって学校から逃げるか考えなきゃ!」

 圭子の非常識さに、スタンしてた一同だが、圭子とは違うベクトルの非常識さを持っているからか誰よりも早く回復した菫が他のメンバーに呼び掛ける。

「え、えっ!菫!?」

「嘘っ......」

「ま、まさか菫に注意される日が来るなんて......」

「馬鹿にしすぎだぁぁぁあ!!!」

 先程とは違う意味で愕然とする一同に、遂に菫が堪えきれないとばかりに叫びを上げた。

 そして、それは教員が接近してるこの状況では限りなく悪手で

「馬鹿!声でけぇよ!!」

「むぎゅッ!!!」

 大毅が即座に口を押さえるが、後の祭り。

 もう、足音は教室のすぐ近くまで来ていて、それでもまだ教室に入られていないのは、流音の機転で咄嗟に、電気を全て消し鍵を掛けたことが幸いしてるのだろう。

「......不味いな。このままだと連中は予定より早くここに来るな」

「あわわわわ......圭ちゃんどうしよう!!


 珍しく、しかめっ面で呟く圭子に真愛が大きく慌てる。

 だが、圭子は心配は要らないと微笑み、

「ここに来るのは時間の問題だ。だが、皆は隠れて居てくれ。きっと何とかして見せる。行くぞ。宗吾」

「はいはい分かったよ。了解っと!」

 ガラッっと窓を開けて外に飛び出す圭子に、まるでこうなることが分かっていたかのように、めんどくさそうではあったが宗吾が即同意して後を続く。

「いや、何普通に二階から飛び降りてるのよ」

 同じく、後を追おうとして、窓に手を掛けたところでここが二階だと気付き躊躇した流音が呆れたように呟くと、それに大毅が、ん?と笑って、

「別に普通じゃないか?」

「あぁ。普通だな。俺も昨日三階から飛び降りたし」

「......いつから私の周りはこんな常識外ばっかりになったのかしら」

 そんなことを平然と言ってのける、友人と弟に流音はこめかみが痛くなってくるのを感じた。

 すると、「常識外」と称され......否ッ!貶された二人は大層心外そうに

「何言ってるんだ流音《おまえ》もその一員だろ」

「そもそもこんな時間に学校に忍び込んでる時点で人の事言えないよな」

「!?ちがっ......!!」

 お前らと一緒にしないでほしい!流音は心からそう思ったが反論できる余地がなく、言葉をそのまま呑み込む。

 と、その時ガタガタと教室のドアが音を発てた。

 全員は瞬時に理解する。

 遂に来たか、と。

 そして、すべき行動に移った。

 そう!それは......隠れること!!!



「(ちょっと、楽斗!狭いじゃない!もう少し詰めなさいよ)」

「(あ、後から来たくせに無茶言うな姉さん!大体教卓の下なんて二人で隠れる場所じゃないだろ!)」

「(仕方ないじゃない!他に隠れる場所がなかったのよ!)」

「(だからってそんなに強引に押さなくても。そんなに強引だから姉さんは彼氏できないんだよ!)」

「(へー、それ今言うんだ。てか違うし。別に出来ないんじゃないし......作らないだけだし)」

「(ちょっ!?この狭い所でグーパンチは禁止......ぎゃぁああああ!!!)」


 と、教卓の下で、時と場所も考えず喧嘩する姉弟。


 一方、掃除ロッカーの中では、

「(何で大毅がここに入ってくるのさ!変態なの!?)」

「(おいまて、おかしいだろ。見て見ろ現状を。俺の方が奥に居るじゃないか。つまりお前が後から......)」

「(うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!って、大毅......)」

「(......何だ?)」

「(硬いのお尻に当たってるんだけど......そっかぁ!やっぱ大毅も男の子だもんね!そっかそっかぁ!)」

「(壮大に誤解してるようだから言っとくけどお前の尻に当たってるのは箒だからな。変態はどっちだよ。全く)」


 そして一人、この空き教室にだけ何故か置いてある巨大な冷蔵庫の裏に隠れた真愛は、静寂の中耳を澄ませてしか聞こえない小さなざわめきに、一人で良かったと胸に当てた手を下ろすのだった。
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