姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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make a break 真14

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 目の前の異様な光景に釘付けになっていた一同だったが、そんな彼らも数秒後には教室を出て廊下を駆け抜けていた。勿論、荷物を片手に。

 何せ、ここは敵地なのだ。何が起こるかも分からないのに、ゆっくりしている間はない。
 それにせっかく宗吾と圭子が作ってくれたチャンスを見逃したらリスクを犯した彼らに失礼だと分かっていた。

 とか言って全力疾走で駆け抜けるほど愚かでもなかったが。

「で、走ってるのはいいけど俺達どこ向かってんの?いや、この方向は昇降口って分かるんだけどさ。まさか昇降口から抜けるつもりとか言わないよな?」

「ええ。昇降口は職員室に近いから危ないわ。だけど、スリッパで帰るのもあれだし、靴だけ取ってきたほうがいいと思うのだけど」

「そうだな。だが大人数で昇降口向かうのは不味くないか?組と出席番号さえ教えてくれればオレが取ってきてもいいが」

「「「それは嫌」」」

 この中で一番運動神経が良く、足が速いだろう大毅が何気無く提案するが女子陣がそれを一蹴する。
 憤慨している、とまではいかないが怒りを露にする彼女らの表情には多少羞恥が隠っていることからどうやら女子には女子の絶対領域があるらしい。

 ......それが何なのかは特に考える必要も無いだろう。

 気がつけば女子に全否定された哀れな友人が同情を求める目でこちらを見ていた。
 
 無視するか?いや......流石に可哀想だな。助け船ぐらいは出してやるか。

「でも大毅の言うことは間違ってはないと思うぞ。大人数で行けば行くほど見つかるリスクが増える」

「そうね。なら、女子のは私が取ってくるわ。菫も真愛もそれでいいわね?」

「おい!?まて、それはさっき大毅が聞いただろ!さっき即答で断られてたのに無理ゲー過ぎるだろ」

「オッケー」「うん」

「良いのかよ!?って大毅、膝を抱えて落ち込むな!今はそんな場合じゃない!」

「いいんだ楽斗......どうせオレは役に立たないんだから。......生まれ変わったら虫になりたいな」

「そんなこと言ってる場合じゃないって!!それに役に立たなくなんてないさ!そうだ!俺の靴を持ってきてくれよ。男子である俺のをさ!」

 仕事が無くて落ち込むなら仕事を作って上げればいい。
 流音は「女子のを」って言った。なら男子である楽斗のは含まれない。ついでに最近疑われ始めてる楽斗は自分の性別を主張するため「男子」の部分を大きく強調して告げる。

「楽斗!!」

 そして、仕事を与えられた大毅の瞳はキラキラと予想通り輝きを取り戻して

「あー、楽斗のも私が取ってくるわ」

「「何でだよ!?」」

 流音の思わぬ横槍に勢い良く突っ込む。
 だが、流音は悪そびれもなく楽斗の方を指差し、

「今の格好で「男子」って言えると思ってるのかしら?じゃあ私は行くわ」

 その言葉に、真剣な表情から一変して大毅が吹き出し、菫が顔を背け、真愛がプルプルと手で口元を覆い隠した。

「は?格好?」

 周囲の反応に驚きつつも楽斗は視線を落として、ポンと手を打った。

「そっか。そういえば俺メイド服から着替えてなかったな!ってバカヤローッ!!」

 一人ノリ突っ込みを繰り広げる羽目になったが仕方ないだろう。すっかり忘れてたのだ。
 しかし、同時に安堵も生まれる。
 教室で囮にならなくてよかったと。

 メイド服で廊下を駆け出し捕まったとなれば一生涯に残る大恥になっていた。
 まず教員には間違いなく変な目で今後見られるだろうし、噂に敏感な生徒にその情報がリークされ全校生徒に知れ渡ることになるかもしれない。
 それもメイド服姿はクラスメイトほぼ全員に見られたので信憑性はかなり高いものだと信じられることになるだろう。

 そうなったら最後、超能力も魔法も使えない一般市民である楽斗が取ることが出来る行動は「逃げる」の一つしかなくなる。

 この場合の「逃げる」は物理的に逃走するのではなく、社会から逃げる、つまり引きこもるという意味だ。

 そこまで考えて楽斗はもう一度安堵する。

「俺は幸せだなぁ」

「悪いが楽斗。オレにはどう見ても不幸にしか見えんのだが。いや、人には人の価値観があるのか。すまん、気を悪くしたな。じゃあオレは靴を取ってくるから」

「は?......まて!?お前は誤解してる!!」

「いやいや誤解はしていない。楽斗がマゾだってはっきり伝わったから安心しろ。じゃあな!」

「......だからそれが誤解だって」

 その言葉を最後に遠ざかっていく大毅の背中を見ながら楽斗はガクリと項垂れた。
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