姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

make a break 真１６

「ふむ。そう言われると気になってくるのが人の性なのだが━━━」

「圭子、それは後にして」

　何か言いかけた圭子の言葉を流音が遮る。
　圭子も場をわきまえたのかそれ以上の追求をしてこず話を進めた。

「皆も知ってると思うが現在この学校は野次馬に囲まれている。それにより脱出するのは困難となった」

「前置きはいい！早く話を進めてくれ」

「そう焦るな、大毅。それにまだ頃合いではない」

　頃合い？疑問が浮かぶが話を進めるため呑み込む。

「だが、これだけは先に言っておこう。皆は気づいてないかもしれないが野次馬は一分毎に十人以上増えている」

「嘘だろ！？一分で十人以上！？」

　楽斗が聞き返すように叫ぶ。
　六秒で一人のペースで人が増えている。その事実に驚きが隠せなかったのだ。

「なるほどね。放送室事件の影響がまだ残ってるって訳ね」

　流音の言葉にバッと一同が圭子の方を一斉に見る。

　事件の張本人を蔑む目で。

　しかし、何を勘違いしたのかその様子にやれやれと圭子は笑い、口を開いた。

「そういうことだ。不幸にもあの事件から然程期間は経っていない。言わせてもらえばこの学校は注目の的だった。そして、そこで誰が打ち上げたのか不明の花火が上がった。もう分かるだろう？近隣の住民やマスメディアはこの高校に夢中なんだよ。住民は刺激を与えてくれると言う意味で、マスメディアは餌場と言う意味で、だがな。そうだな、この際言っておくか」

　あまりの事の大きさに度肝を抜かれる楽斗等に更なる追い討ちをかけるかのように圭子は言葉を紡いだ。

「現状では脱出は不可能だ。無論侵入も、だ。私がここに来れたのは奇跡と言っても過言ではないだろう。それほどまでに難関だ」

「圭子でも難関？その気になれば銀行の金庫だろうがどこでも侵入できそうな圭子が？」

　楽斗は笑い飛ばそうとするが、出てきた声はかすれた笑いだった。
　否定してほしかった。

　しかし、楽斗の思い届かず圭子は肯定する。

「プリティーガールが私のことをどう思ってるのか後日聞かせてもらう必要があるな。まぁ、それは置いといて、確かに難関だ。流石にこれだけ目があると迂闊に動けんからな。ぶっちゃけ本当に金庫破りした方が楽なくらいにな。だが━━━」

「━━━だが、勝算が無い訳じゃない、だよね？姉御」

　圭子がキョトンと菫を見つめる。そして、何を考えたのか腹を抱えて笑いだした。

「おい大丈夫か、頭？」

「ついにイカれてしまったか......アーメン」

　楽斗と大毅が慌ただしく祈りを何処かへ捧げるなか、ようやく話ができる状況になったのか圭子が涙目になって呼吸を整えた。

「ふふふ、すまん。しかし、まさか菫に言われるとはな。気づくなら流音か大毅だと思っていたが読みは外れたようだ」

「姉御酷い！」

「？どういうこと......あっ、そういうことね」

　そう流音が呟くと同時に爆音が鳴り響く。

「えっ、何々！？」

「どういうことだ圭子！」

「はっはっは。そんな目をするなプリティーガール。私は言っただろ。「現状」不可能だって。だったら簡単だ。現状を変えてしまえば良い。餌に虫が集るなら別の場所で餌を放てばいい、ということだ」

　今度は校庭ではなくどこか遠くで打ち上がる花火を背後に、圭子は平然と語る。
　気がつけば校庭に溢れんばかりいた人影はその新しい餌、つまりここから離れた場所で打ち上がる花火に気をとられ大分消えていた。

　しかし、なんだろうか。次々と犯罪を犯している気がする。気のせいだろうか。何となく気のせいではない気もするが。

「さて、時は来た。皆、撤退するぞ」

「「「おー！」」」

　しかし良くも悪くも長年の瞬間で身に付いたのか皆は手を上げて賛成の意を示した。