姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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 月曜。それは決戦の日であり決着の日でもある大事な日。

 ―――の朝。楽斗は下着姿で頭を抱えていた。

 目の前にあるのは制服だ。しかし、同じ制服でも今までお世話になったものとは違う。

 眼前にあるのは男子用制服ではなく女子用制服なのである。

 いくら制服を新調したとはいえ、まだ作戦前。作戦は相手に良く言って『抵抗』。客観的に言って、『無駄な足掻き』をさせないため朝早くから行うが、念を入れておかなければならない。以上の理由から新しい制服を着ることは出来ない。

「………………はぁ」

 実際の時間にして数分、精神の時間にして約数時間、葛藤をしていた楽斗は何かを覚悟したように大きく息を吐き。
 震える手でシワがまるでない女子用制服をハンガーから取る。とその時ヒラヒラと紙が足元に落ちてきた。

 制服に挟まっていたのだろうか?そう思いながら、楽斗はその紙を拾い上げる。

『拝啓がっくんへ。がっくんがこれを見ているということは今日は作戦実行日でしょう』

 がっくん、俺をそう呼ぶのは菫だけだからこれは菫からか。続きを読む。

『私はとてもとても楽しみなのです。がっくんの女子用制服着用を見られるのが。あっ、もちろん作戦も楽しみだけど……。それ以上にがっくん女装が楽しみなのですッ!』

 女装言うなし!?

 ちょっとイラッとした。今すぐ紙を破り捨てたい衝動に駆られたが我慢我慢。最後まで読もう。

『主役を輝かせるためには裏方は必須。だから私は今回は観客ではなく裏方になることにしました。って言っても何をやるか迷ったのでとりあえず制服にアイロンをかけときました!』

 なるほど、だからシワがほとんど無かったのか。てか張り切りすぎじゃね?完全に他人事だと思ってるな。まぁ、他人事なんだけど。それでも、ちょっと殺意が沸いたわ。

『しかし、しかし!しかしかし!アイロンをかけておくだけでは裏方の仕事は不十分だと思うのです!だから私は、るーねぇとのファッションバトルの時、こっそりプレゼントを買っておきました!がっくんの机の二番目の引き出しに入ってます!』

 そうか。菫は姉さんとのファッションバトルの最中にそんなことをしてたのか。余裕ぶりすぎだろ。しかもそれで勝っちゃうってね。改めて姉さんのセンスのなさを実感したわ。てか勝手に机漁るなよ!?

 と突っ込みながらも、『プレゼント』と聞いていて内心ワクワクしていた楽斗は手に持った制服を雑に床に放り捨てると、机の引き出しを開けた。

「おお……」

 それは黄金色のかなりゴージャスなラッピングがされていた。どうやって引き出しに詰め込んだのか不明なくらいの大きさで、高級そうな箱に入れられてることからもかなり高いものだと分かる。
 ファッションバトルの最中に買ったと言っていたのだからハンカチ等小物品かと思っていたがどうやら違うようだった。

「って、これ引き出しから取れねえぞ!?。マジどうやって入れ込んだんだよアイツ」

 取り出そうとしても、引き出しの上の部分と箱の角がぶつかってしまい取り出せない。

 最近の女子の収納術って凄いな。もはや魔法だぜ……。

 知恵の輪みたく試行錯誤を重ねること数分、ようやく箱を取り出すことが出来た。

「ま、まぁ。多少すり減っても問題ないはずだ。うん、うん。……し、所詮は箱だしな。中身に傷がついてなければセーフだよな……」

 何度もぶつけたことによりゴージャスなラッピングは破れ、箱の角はすり減ったり潰れてしまったり。と見るも無惨な姿になってしまった箱にやけに長い独り言を呟いた楽斗は、やがて意を決したようにラッピングを丁重に剥がしていく。
 既にボロボロなのだから力の限り引っ張ってちぎればいいじゃんと思うかもしれないが、要は気持ちの持ちようなのだ。ただでさえボロボロにしてしまったのに更に追い討ちをかけるようなことはしたくない。そんな気持ちだった。

 黄金色のラッピングを剥がし終えると中からは黒い箱が出てくる。メーカーの名前なのか英語が刻まれている黒い箱は格好いいのだが、さっきまで黄金に包まれていた所為か、今はダサく見えた。

「……メッキ剥がした後の金閣寺ってこんな感じなのか」

 うわー、だせー、と一人呟きながら、楽斗は箱に手を置いた。

 この大きさからして帽子か?それとも手袋とかか?手袋だったら嬉しいんだが。

 去年の冬、いつものメンバーで山にスキーに行った時消失してしまった手袋。あれから買おう買おうと思ってたが遂に買うことなく春になってしまった今日。自分で買う分には要らないが人から貰う分には今一番欲しいとも言える。

 まぁ、菫がまともなものを寄越すとは思えないが……可能性としてはあり得るからな。菫はセンスだけは良いし、もし手袋だったら夏だろうが毎日着けてしまいそうだ。

 なんて思いつつ、楽斗は箱を開いた。 

「ザ、オープン!…………は?」

 黒い箱。その中に入っていたのは手袋でも帽子でもなかった。ハンカチでもない。
 入っていたのは女性の胸部に付ける下着。どうやらパッド要りらしい。パッド要り高級ブラジャーってパッケージに書いてある。

 …………。

 固まっている楽斗の足元にヒラリヒラリと紙が足元に落ちてきた。
 箱の中に入っていたのだろう。本日二枚目だ。

 呆然とした顔でそれを拾い上げると、楽斗は目を通して、思わず吠えた。

「なッんじゃッこりゃあああああッ!!!?」

 楽斗の手にある紙。そこにはこんな文章が書かれていた。

『よう楽斗。なんか菫に聞いたら面白そうなことになってるじゃないか。ってことで俺も未知のため微力ながら菫に協力させてもらうことにした。とりあえず楽斗はこのパッド要りブラジャーをして登校してこい。あー、言っとくが拒否権はないぞ?してこなかったら作戦が実行されないと思え。お前の本気の女装楽しみにしてるぜ。by宗吾』
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