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俺の友人達は問題がありすぎる件5
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放送室に乗り込む事が決定した後、楽斗含む六人は時間が残されていないのにも関わらず作戦会議を始めた。
というのも、放送室は六人全員が乗り込むにはあまりにも狭すぎるため、扉を壊し真っ先に突撃する前方メンバーと、前方メンバーが圭子と戦っている間に放送を止める後方メンバーを三人三人で分けるというものだった。
結論を言うと、楽斗は宗吾、大毅と共に前方メンバーに選ばれた。ちなみに楽斗は宗吾や大毅と違い男子だからと選ばれたわけではなく自主的に立候補した。
━━━誰も楽斗を男子扱いしていなかったことは内緒である━━━
ぶっちゃけ言うと、楽斗は誤魔化しが効かず実行犯に成りうる前方メンバーよりも、いくらでも誤魔化しが効く後方メンバーの方が良いと考えたのだが、リスクを背負ってまで立候補した理由は主に二つある。
一つは、前方メンバーが中々決まりそうに無かったこと。
これに関しては当たり前だと思う。自ら望んで実行犯になりたいと思うものはいないだろう。だが、時間がない状況でそんな事に時間を使っては勿体ない。時間ロスを避けるためには誰かが立候補するしかなかった。
二つは、相手が超がつくほどの問題児、圭子だということだ。
戦闘能力というと中二臭いが、いくら戦闘能力が高い圭子でも、同じく戦闘能力が高い宗吾と大毅の二人と戦えば敗北は免れないだろう。
それはいい。しかし、厄介なのは追い詰められた圭子が悪足掻きをするかもしれないと、最後に強烈な爆弾発言を飛ばしてくるのではないかと。
そうなったとき、何も知らない宗吾と大毅は流石に口を塞ごうとは考えないだろう。つまり、チェックメイト。今日の苦労も水の泡。すぐさま社会的な死が訪れることだろう。
それだけは嫌だ。阻止しなければ。
以上の理由から楽斗は前方メンバーに立候補したのだった。
放送室に着いた前方メンバーは、その固く閉ざされた扉の前で最後の確認をしていた。
「さぁ、準備はいいか?やるべきことは分かってるよな」
大毅の言葉に楽斗と宗吾は頷き一つで応じる。
「あぁ、問題ない」
「後方メンバーはまだ揃ってないけどな。まぁ、間に合うと思うが分からんな。あいつら体力無さすぎだからな。なぁに、間に合わなかったら俺達だけでやればいいさっ!」
楽斗が同意し、宗吾があっけらかんに笑い飛ばす。
すると、その場に居た唯一の後方メンバーが面白くなさそうに眉をひそめながら反論した。
「そりゃ、あなた達の全力に付いてこられる女子なんて居ないわよ」
「姉さん、地味に自虐してね?」
「そういう趣味なんだろう。気にしてあげるな、人の趣味はバカにするものじゃないぞ?」
「Mだったのか......長い間友人として付き合って来たけどこれは知らなかったぞ。まさしく未知だな!」
矢継ぎ早に言葉を返され、怒りか、それとも本当にそういう趣味だったのか羞恥でか、流音の顔がトマトのように真っ赤に染まる。
「Mなわけ無いでしょ!」
「じゃあそろそろいくぞ!」
「「おー!」」
「す、スルー!?ま、待ちなさ━━━くっ......これが終わったら覚えてなさいよ!」
流石に場をわきまえているのか、流音はそう言って少し距離をとる。
それと同時に宗吾と大毅がドアに向かって、宗吾が拳で、大毅が蹴りで強烈な一撃を放った。
━━━轟音。
扉はその一撃に耐えることができず、物理法則に従い、勢いよく放送室の中へと吹き飛んだ。
だが、それも一瞬のこと。
吹き飛んだ扉は放送室の物を壊すことなく、進行していた方向からの衝撃でバラバラに砕け散った。
「やはり来るとは思っていたが、待ちくたびれたぞ。さぁ、勝負といこうか」
「なんでこいつこんなに張り切ってんだよ。何か怖えーよ......」
「何怯えてんだ宗吾。そ、想定内の範囲だろ......」
バラバラに壊された扉の奥から威厳たっぷりで現れた圭子に、若干引き気味ながらも構える宗吾と大毅。
(ラスボスかよ!!ラスボスとの決戦かよ!!!)
いつの間にか、彼らからかなり距離をおいていた楽斗はその光景を見てそう思った。
「なんであなた前方メンバーなのに私の横にいるのよ」
「......」
「ねぇ、聞いてるの楽斗?」
「何だい姉さん?」
「あなた前方メンバーでしょ!何で私の隣にいるのよ!参戦しなさいよ!」
「無理無理。死ぬって」
楽斗は手を横に振り、既に戦場と化した放送室を遠い目で眺めた。
「ハアァアッ!中々やるな、そうでなければ!」
「チィ、この女完全に暴走してやがる!何で甲冑でこんな速度出せるんだよ!意味分かんねぇよ!おい大毅!」
「言われなくても分かってる!この場面で出し惜しみなんてしないさ!ウオォリャアッ!!」
ガキィン!!!
鈍い音と共に圭子の手から模造刀が吹き飛ぶ。
流石の圭子も何事かと一瞬目を丸くしたが、大毅の手に持っているものを見て成る程と頷いた。
「はっはっは。素手で来たかと思いきや金属バットを隠し持っているとはな、驚いたぞ」
「ふん、先に武器を使用したのはそっちだ。泣き言は言わせんぞ」
大毅は、ばつが悪そうに......しかし、はっきりと宣告した。
おそらく誰よりもフェアプレイの精神が高い彼の頭の中では色々な葛藤があるのだろう。そんな感じだった。
「いいさ。別にこれは正規の試合じゃないしな。むしろドンドン武器を使ってくるといい。さぁ来い!」
ビシッ。両手の中指を立てて挑発する圭子。
しかし、二人はすぐに向かうことなく顔を見合わせて悪く笑った。
「宗吾、今の話聞いたか?」
「もちろんだ。ちゃんと言質も取ってあるさ」
「言質?」
聞き覚えのない単語に、圭子は思わず眉間にシワを寄せる。
すると、宗吾はフハハハと笑いながらポケットの中から小さな機械を取り出した。
「何だそれは?」
「ボイスレコーダーって聞いたことないか?」
「......そんなものを使って何をする気だ?」
小さな機械がボイスレコーダーだと言うことは分かったが、この場において利用する必要性の無さに疑問を投げ掛ける圭子。
「そんなの決まってるだろ?こうするんだよ」
『いいさ。別にこれは正規の試合じゃないしな。むしろドンドン武器を使ってくるといい。さぁ来い!』
ボイスレコーダーからリピートされる声。無論、その声が誰のものだったのか言うまでもない。
(これは、さっきの私の言葉か......言質取ったとはこの事だったのか。
しかし解せぬな。一体何がしたいんだろうか)
しかし、すぐに目の前の男どもが問題児、つまりバカと呼ばれている事を思い出し、考えるだけ時間の無駄だと一所懸命に考えていたさっきまでの自分を嘲笑った。
「で、結局何がしたいんだ?お前達は。別に私はさっきの言葉なんて撤回するつもりなど更々ないのだが?」
「念のためだよ。念のため!」
「はぁ......オレ的にはあんまり気が進まんのだが、ホントにやるのか?」
「当たり前だろ、何だ産気づいたのか?」
「宗吾......頼むからドヤ顔怖じけづくと産気づくを間違えるないでくれ......。気色悪いぞ」
「すまない、素で間違えた。言葉のあやってやつだ。忘れてくれ...」
「あぁ。勿論頼まれなくても忘れさせてもらうさ」
「おい、私を置いて二人だけの世界に入るとはいい度胸じゃないか。このホモどもが!」
ガシッ。と、突如目の前で握手する宗吾と大毅を見て気持ち悪いものを見たと吐き捨てる圭子。
「まて、お前は在らぬ誤解をしている!」
「オレはホモじゃないぞ!宗吾は知らんが」
「俺も違うわ!一緒に否定しろよ」
「男が産気づくと思い込んでるお前だから、否定は出来んかなと」
「お前、それ忘れるって言ったじゃないか!」
「五月蝿い!
貴様らが腐女子達に人気なあれだと言うことは分かったから、とりあえず出ていけ。私は放送をしないといかんのだ」
眼前で相も変わらず口論を交わす宗吾と大毅に、圭子が呆れたように呟く。
しかしその言葉は結果、二人に本来の目的を思い出させ口論を止めさせることになった。
口論を止め、ゆっくりと圭子に近づく二人。その迫力に圭子は気圧され、一歩引いた。
「圭子」
「な、なんだ?」
「お前は言ったよな。武器をドンドン使ってくるといいって」
「あぁ。確かに言ったが何か?」
「じゃあ使わせてもらうとするか。大毅、良いよな?」
「勝手にしろ。オレはもう疲れた」
「何をしよ━━━」
「黙ってこれを見ろ!」
宗吾はボイスレコーダーが入っていたポケットとは違う方のポケットを漁り、それを圭子の眼下に叩きつけるような勢いで晒した。
(これは、写真か?しかし何でこんな物を......ぉおおおおおぉぉぉおおおお!?!?」
換気の雄叫びを上げながら、宗吾の手にあったそれを即座に奪い取る圭子。
「今だ!やれ大毅」
「やれやれ。分かってるよ━━━っと!」
その隙に大毅の蹴りが甲冑の腹部に吸い込まれるようにして突き刺さった。
「なっ!?」
あのときは宗吾の拳もあったとは言え、凄まじい速度で頑丈な扉を蹴り飛ばした威力の蹴りだ。今回は宗吾の拳がなかったため扉の時よりは勢いが無かったものの圭子は壁にぶつかるまで吹き飛ばされてていた。
「ガハッ!!」
衝撃で肺から空気が漏れる。甲冑を着てこの威力。生身だったら間違いなく意識ごと苅り飛ばしていただろう。
壁にぶつかった拍子に落ちたのか、元々強く固定していなかった鉄仮面がいつの間にか頭から無くなっていた。そのせいか、もしくは肺に残っていた空気を全部吐いたせいか、空気が新鮮に感じた。
「くっ......無念......し、しかしここにいる者だけでもこれを伝えなければ......」
ここで終わるわけにはいかない。
そう言って放送で一大発表として話そうと思っていたことをこの場で大声で叫ぼうと圭子が口を開━━━
「させるかぁぁぁ!!」
「実は楽......むごッ!?」
どこにいたのか、一瞬にして圭子の前に来た楽斗はすかさずその口のなかに丸めたティッシュを突っ込み、更にその上からガムテープを巻き始めた。
「む......むごごごがが!!?」
(なっ......これでは話すことはできないじゃないか......無念......。
......しかし、何故だろうか。プリティーガールに拘束されていると思うと、何故か興奮する私がい......)
そこで、圭子は気を失った。
(よし、これで任務完了だな!)
今さっき圭子の頭に振り下ろした放送室に落ちていた本を持ちながら、ふぅ。と、やり遂げた感に浸る楽斗。
(ところで、圭子は何を見たんだろうか)
心配事が終われば、当然今まで気にしてなかったことも気になってしまう。楽斗は好奇心に負け、気を失っても決して離さなかった写真らしき物を強引に圭子の手から引き剥がした。
そこには、黒髪のショートカットの女の子がメイド服を着てキャピッとドヤ顔している姿だった。この姿、この顔。心当たりもバッチリある。間違いない。楽斗自身だった。
(うん。見なかったことにしよう)
静かに写真を元の場所に戻すことなくビリビリと破り捨てる。その姿に二人の友人は、
「おい......見たかあれ。あいつ圭子を嬉々して縛ってやがったぞ?縛った上に頭に鈍器振り下ろしやがった。しかもそれだけじゃ足りないと圭子の宝物まで破り捨てやがったぞ!?鬼畜過ぎるだろ」
「確かに宝物を破るのは、いくら同姓とは言えやりすぎだな」
(うん。聞こえなかったことにしよう)
と、その時、大毅や宗吾ではない誰かが放送器具に向かって走っていった。
(......後方メンバーか?そういや、まだ放送器具は繋がったまんまだったな)
「後はよろしくな」
後方メンバーだと信じていた楽斗は、誰なのかも確認せず投げやりに言った。
「OK!任せといて楽斗くん」
「おう。任せるぜ」
はっきりと聞こえた肯定の言葉に迷わずそう返し、唖然とした。
何で男の声がしたんだ、と。
ここからすぐさま逃げ出せと本能が告げる。
楽斗はダラダラと冷や汗を流しながら放送器具の方向へ、そぉーと視線を向け。
そして、
「そいつを止めろおぉおおお!!!」
気づいたときには既時遅し。先程まで楽斗とそいつの会話を聞いていた宗吾と大毅は、てっきり協力者だと思い込んでいたみたいで、咄嗟の事についていけず、呆然とその場に立ち尽くしていた。
そいつは圭子がいつでも町中に放送できるように準備していた機器を迷わずOFFからONに変えて、叫ぶように宣言した。
『僕、大野 秀生は生涯、雨宮 楽斗ちゃんを愛し続けることを誓います!』
というのも、放送室は六人全員が乗り込むにはあまりにも狭すぎるため、扉を壊し真っ先に突撃する前方メンバーと、前方メンバーが圭子と戦っている間に放送を止める後方メンバーを三人三人で分けるというものだった。
結論を言うと、楽斗は宗吾、大毅と共に前方メンバーに選ばれた。ちなみに楽斗は宗吾や大毅と違い男子だからと選ばれたわけではなく自主的に立候補した。
━━━誰も楽斗を男子扱いしていなかったことは内緒である━━━
ぶっちゃけ言うと、楽斗は誤魔化しが効かず実行犯に成りうる前方メンバーよりも、いくらでも誤魔化しが効く後方メンバーの方が良いと考えたのだが、リスクを背負ってまで立候補した理由は主に二つある。
一つは、前方メンバーが中々決まりそうに無かったこと。
これに関しては当たり前だと思う。自ら望んで実行犯になりたいと思うものはいないだろう。だが、時間がない状況でそんな事に時間を使っては勿体ない。時間ロスを避けるためには誰かが立候補するしかなかった。
二つは、相手が超がつくほどの問題児、圭子だということだ。
戦闘能力というと中二臭いが、いくら戦闘能力が高い圭子でも、同じく戦闘能力が高い宗吾と大毅の二人と戦えば敗北は免れないだろう。
それはいい。しかし、厄介なのは追い詰められた圭子が悪足掻きをするかもしれないと、最後に強烈な爆弾発言を飛ばしてくるのではないかと。
そうなったとき、何も知らない宗吾と大毅は流石に口を塞ごうとは考えないだろう。つまり、チェックメイト。今日の苦労も水の泡。すぐさま社会的な死が訪れることだろう。
それだけは嫌だ。阻止しなければ。
以上の理由から楽斗は前方メンバーに立候補したのだった。
放送室に着いた前方メンバーは、その固く閉ざされた扉の前で最後の確認をしていた。
「さぁ、準備はいいか?やるべきことは分かってるよな」
大毅の言葉に楽斗と宗吾は頷き一つで応じる。
「あぁ、問題ない」
「後方メンバーはまだ揃ってないけどな。まぁ、間に合うと思うが分からんな。あいつら体力無さすぎだからな。なぁに、間に合わなかったら俺達だけでやればいいさっ!」
楽斗が同意し、宗吾があっけらかんに笑い飛ばす。
すると、その場に居た唯一の後方メンバーが面白くなさそうに眉をひそめながら反論した。
「そりゃ、あなた達の全力に付いてこられる女子なんて居ないわよ」
「姉さん、地味に自虐してね?」
「そういう趣味なんだろう。気にしてあげるな、人の趣味はバカにするものじゃないぞ?」
「Mだったのか......長い間友人として付き合って来たけどこれは知らなかったぞ。まさしく未知だな!」
矢継ぎ早に言葉を返され、怒りか、それとも本当にそういう趣味だったのか羞恥でか、流音の顔がトマトのように真っ赤に染まる。
「Mなわけ無いでしょ!」
「じゃあそろそろいくぞ!」
「「おー!」」
「す、スルー!?ま、待ちなさ━━━くっ......これが終わったら覚えてなさいよ!」
流石に場をわきまえているのか、流音はそう言って少し距離をとる。
それと同時に宗吾と大毅がドアに向かって、宗吾が拳で、大毅が蹴りで強烈な一撃を放った。
━━━轟音。
扉はその一撃に耐えることができず、物理法則に従い、勢いよく放送室の中へと吹き飛んだ。
だが、それも一瞬のこと。
吹き飛んだ扉は放送室の物を壊すことなく、進行していた方向からの衝撃でバラバラに砕け散った。
「やはり来るとは思っていたが、待ちくたびれたぞ。さぁ、勝負といこうか」
「なんでこいつこんなに張り切ってんだよ。何か怖えーよ......」
「何怯えてんだ宗吾。そ、想定内の範囲だろ......」
バラバラに壊された扉の奥から威厳たっぷりで現れた圭子に、若干引き気味ながらも構える宗吾と大毅。
(ラスボスかよ!!ラスボスとの決戦かよ!!!)
いつの間にか、彼らからかなり距離をおいていた楽斗はその光景を見てそう思った。
「なんであなた前方メンバーなのに私の横にいるのよ」
「......」
「ねぇ、聞いてるの楽斗?」
「何だい姉さん?」
「あなた前方メンバーでしょ!何で私の隣にいるのよ!参戦しなさいよ!」
「無理無理。死ぬって」
楽斗は手を横に振り、既に戦場と化した放送室を遠い目で眺めた。
「ハアァアッ!中々やるな、そうでなければ!」
「チィ、この女完全に暴走してやがる!何で甲冑でこんな速度出せるんだよ!意味分かんねぇよ!おい大毅!」
「言われなくても分かってる!この場面で出し惜しみなんてしないさ!ウオォリャアッ!!」
ガキィン!!!
鈍い音と共に圭子の手から模造刀が吹き飛ぶ。
流石の圭子も何事かと一瞬目を丸くしたが、大毅の手に持っているものを見て成る程と頷いた。
「はっはっは。素手で来たかと思いきや金属バットを隠し持っているとはな、驚いたぞ」
「ふん、先に武器を使用したのはそっちだ。泣き言は言わせんぞ」
大毅は、ばつが悪そうに......しかし、はっきりと宣告した。
おそらく誰よりもフェアプレイの精神が高い彼の頭の中では色々な葛藤があるのだろう。そんな感じだった。
「いいさ。別にこれは正規の試合じゃないしな。むしろドンドン武器を使ってくるといい。さぁ来い!」
ビシッ。両手の中指を立てて挑発する圭子。
しかし、二人はすぐに向かうことなく顔を見合わせて悪く笑った。
「宗吾、今の話聞いたか?」
「もちろんだ。ちゃんと言質も取ってあるさ」
「言質?」
聞き覚えのない単語に、圭子は思わず眉間にシワを寄せる。
すると、宗吾はフハハハと笑いながらポケットの中から小さな機械を取り出した。
「何だそれは?」
「ボイスレコーダーって聞いたことないか?」
「......そんなものを使って何をする気だ?」
小さな機械がボイスレコーダーだと言うことは分かったが、この場において利用する必要性の無さに疑問を投げ掛ける圭子。
「そんなの決まってるだろ?こうするんだよ」
『いいさ。別にこれは正規の試合じゃないしな。むしろドンドン武器を使ってくるといい。さぁ来い!』
ボイスレコーダーからリピートされる声。無論、その声が誰のものだったのか言うまでもない。
(これは、さっきの私の言葉か......言質取ったとはこの事だったのか。
しかし解せぬな。一体何がしたいんだろうか)
しかし、すぐに目の前の男どもが問題児、つまりバカと呼ばれている事を思い出し、考えるだけ時間の無駄だと一所懸命に考えていたさっきまでの自分を嘲笑った。
「で、結局何がしたいんだ?お前達は。別に私はさっきの言葉なんて撤回するつもりなど更々ないのだが?」
「念のためだよ。念のため!」
「はぁ......オレ的にはあんまり気が進まんのだが、ホントにやるのか?」
「当たり前だろ、何だ産気づいたのか?」
「宗吾......頼むからドヤ顔怖じけづくと産気づくを間違えるないでくれ......。気色悪いぞ」
「すまない、素で間違えた。言葉のあやってやつだ。忘れてくれ...」
「あぁ。勿論頼まれなくても忘れさせてもらうさ」
「おい、私を置いて二人だけの世界に入るとはいい度胸じゃないか。このホモどもが!」
ガシッ。と、突如目の前で握手する宗吾と大毅を見て気持ち悪いものを見たと吐き捨てる圭子。
「まて、お前は在らぬ誤解をしている!」
「オレはホモじゃないぞ!宗吾は知らんが」
「俺も違うわ!一緒に否定しろよ」
「男が産気づくと思い込んでるお前だから、否定は出来んかなと」
「お前、それ忘れるって言ったじゃないか!」
「五月蝿い!
貴様らが腐女子達に人気なあれだと言うことは分かったから、とりあえず出ていけ。私は放送をしないといかんのだ」
眼前で相も変わらず口論を交わす宗吾と大毅に、圭子が呆れたように呟く。
しかしその言葉は結果、二人に本来の目的を思い出させ口論を止めさせることになった。
口論を止め、ゆっくりと圭子に近づく二人。その迫力に圭子は気圧され、一歩引いた。
「圭子」
「な、なんだ?」
「お前は言ったよな。武器をドンドン使ってくるといいって」
「あぁ。確かに言ったが何か?」
「じゃあ使わせてもらうとするか。大毅、良いよな?」
「勝手にしろ。オレはもう疲れた」
「何をしよ━━━」
「黙ってこれを見ろ!」
宗吾はボイスレコーダーが入っていたポケットとは違う方のポケットを漁り、それを圭子の眼下に叩きつけるような勢いで晒した。
(これは、写真か?しかし何でこんな物を......ぉおおおおおぉぉぉおおおお!?!?」
換気の雄叫びを上げながら、宗吾の手にあったそれを即座に奪い取る圭子。
「今だ!やれ大毅」
「やれやれ。分かってるよ━━━っと!」
その隙に大毅の蹴りが甲冑の腹部に吸い込まれるようにして突き刺さった。
「なっ!?」
あのときは宗吾の拳もあったとは言え、凄まじい速度で頑丈な扉を蹴り飛ばした威力の蹴りだ。今回は宗吾の拳がなかったため扉の時よりは勢いが無かったものの圭子は壁にぶつかるまで吹き飛ばされてていた。
「ガハッ!!」
衝撃で肺から空気が漏れる。甲冑を着てこの威力。生身だったら間違いなく意識ごと苅り飛ばしていただろう。
壁にぶつかった拍子に落ちたのか、元々強く固定していなかった鉄仮面がいつの間にか頭から無くなっていた。そのせいか、もしくは肺に残っていた空気を全部吐いたせいか、空気が新鮮に感じた。
「くっ......無念......し、しかしここにいる者だけでもこれを伝えなければ......」
ここで終わるわけにはいかない。
そう言って放送で一大発表として話そうと思っていたことをこの場で大声で叫ぼうと圭子が口を開━━━
「させるかぁぁぁ!!」
「実は楽......むごッ!?」
どこにいたのか、一瞬にして圭子の前に来た楽斗はすかさずその口のなかに丸めたティッシュを突っ込み、更にその上からガムテープを巻き始めた。
「む......むごごごがが!!?」
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......しかし、何故だろうか。プリティーガールに拘束されていると思うと、何故か興奮する私がい......)
そこで、圭子は気を失った。
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今さっき圭子の頭に振り下ろした放送室に落ちていた本を持ちながら、ふぅ。と、やり遂げた感に浸る楽斗。
(ところで、圭子は何を見たんだろうか)
心配事が終われば、当然今まで気にしてなかったことも気になってしまう。楽斗は好奇心に負け、気を失っても決して離さなかった写真らしき物を強引に圭子の手から引き剥がした。
そこには、黒髪のショートカットの女の子がメイド服を着てキャピッとドヤ顔している姿だった。この姿、この顔。心当たりもバッチリある。間違いない。楽斗自身だった。
(うん。見なかったことにしよう)
静かに写真を元の場所に戻すことなくビリビリと破り捨てる。その姿に二人の友人は、
「おい......見たかあれ。あいつ圭子を嬉々して縛ってやがったぞ?縛った上に頭に鈍器振り下ろしやがった。しかもそれだけじゃ足りないと圭子の宝物まで破り捨てやがったぞ!?鬼畜過ぎるだろ」
「確かに宝物を破るのは、いくら同姓とは言えやりすぎだな」
(うん。聞こえなかったことにしよう)
と、その時、大毅や宗吾ではない誰かが放送器具に向かって走っていった。
(......後方メンバーか?そういや、まだ放送器具は繋がったまんまだったな)
「後はよろしくな」
後方メンバーだと信じていた楽斗は、誰なのかも確認せず投げやりに言った。
「OK!任せといて楽斗くん」
「おう。任せるぜ」
はっきりと聞こえた肯定の言葉に迷わずそう返し、唖然とした。
何で男の声がしたんだ、と。
ここからすぐさま逃げ出せと本能が告げる。
楽斗はダラダラと冷や汗を流しながら放送器具の方向へ、そぉーと視線を向け。
そして、
「そいつを止めろおぉおおお!!!」
気づいたときには既時遅し。先程まで楽斗とそいつの会話を聞いていた宗吾と大毅は、てっきり協力者だと思い込んでいたみたいで、咄嗟の事についていけず、呆然とその場に立ち尽くしていた。
そいつは圭子がいつでも町中に放送できるように準備していた機器を迷わずOFFからONに変えて、叫ぶように宣言した。
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出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
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