姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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プロブレムチルド3

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「な、な......どうしよう大毅」

 怒りが収まったのか、楽斗はこれまでの態度とは一変しておろおろとした感じで大毅の肩を掴んだ。その拍子で食事中だった大毅の手から箸が掴んでいた少量のご飯と共に床に落ちる。が、特に気にしたようすもなく、はぁ、とわざとらしい大きなため息を吐いて大毅は真顔で

「そこでオレに相談するな。ホモが感染するだろ」
「何それ酷くね!?」
「やめろ話しかけるな。ホモが感染する!」

 大毅の冷たい反応に耳を傾けていた何人かのクラスメイトがブッと吹き出した。それから、それらにつられるように教室中から笑い声が上がる。

 そんな中、自分が笑われたと、一人羞恥で顔を真っ赤に染めていた楽斗は
(こいつだけは許さない。だけど喧嘩では100%負けるしな......。剛で駄目なら柔。何か貶める方法は無いものか。)
 悪事を働かせようとして、閃いた。

 しかし、この作戦には楽斗自身も相当なダメージを受ける可能性がある。だが、そこまでしないとクラスメイトからの信頼が厚い大毅を貶めることは出来そうになかった。

(......やるしかない!)

 怒りで目の前が真っ赤に染まっていた楽斗は、大毅もろとも自爆する覚悟を決めて、比較的大きな声で、ハッキリと言った。

「酷いじゃないか大毅。昨日は宗吾と二人がかりであんなことやこんなことをしといて。お陰で俺はショックで立ち直れなかったぜ?」

 昨日あったことを抽象的に、顔を赤らめながら話した。
 事件の当事者から見ればただそれだけのことだが、事件の馬に居なかったクラスメイト達はその言葉に反応した。

「あいつら......どういう関係なんだよ!大野ばかりではなく大毅まで俺の楽斗ちゃんを!!!許せねぇ!」
「まさかの三角関係?......私大毅くんのこと密かに好きだったのに」
「わーお。これはスキャンダルですな~、どう思います?真愛氏」
「ひたすらショックです?って言っておけばいいのかな菫ちゃん」
「俺達のアイドル楽ちゃんを!大毅をやっちまおうぜ皆」 
「「「おおー!!!」」」

 その一声に何故かクラスメイト全員が賛同した。この学校は男子校じゃないためクラスには男子だけでなく女子達もいたはずなのに何故か全員が賛同した。

 想像を越える団結力を見せるクラスメイトを横目に
「......ごめん、大毅。俺が悪かったよ」
「......で、どうしてくれるんだ楽斗。なんか凄い勢いで大人数がオレに向かってきているんだが?まさかゴメンで済ませるつもりじゃないだろうな」
「......冥福を祈る」 
「楽斗ぉぉお!?くっ、危なっ!?おい菫!金属バットは卑怯だぞ.....って木造なら良いって訳じゃない!!!くそ、落ち着けお前らぁぁあ!!」

 そう最後に叫び残した大毅はバタバタとクラスメイト達に追いかけられながら廊下を駆けていった。

 教室にただ一人ポツンと残された楽斗は、自分の影響力の大きさに感心と畏怖を覚えながらも一人席に着いて、読書をしようと本を取り出した。

 キーンコーンカーンコーン

「あっ......」

(そう言えば今放課だったな。ってことはこのチャイムは......)
 刹那、教室のドアがピシャンと開き、大柄の先生が入ってきた。余談だが、ここで先生の名前を出さずに体格で表現しているのは単に楽斗が先生の名前を覚えてないからである。

(やっぱり始業のチャイムだったか)
 すかさず出したばかりの本を机の中にしまい、代わりに教科書を出す、がそれは無駄な行為だった。

「さあ、授業を始めよ......って雨宮一人だけだと!?あ、アイツら俺の授業をバックレるなんて良い度胸してるじゃないか!!!」
 そう言い残し大柄の先生は青筋を浮かべたまま教室を出ていったのだ。

 またもや一人残された楽斗は『ごめん本当にごめん』と、クラスメイト達に心の中で謝った。
 今出ていった大柄の先生は学校一厳しいと有名な先生だ。確実にクラスメイト達は放課後の補習室送りを免れることはできないだろう。この学校の補習室は地獄だと去年一度だけ食らった楽斗は身に染みて分かっていた。

 だが、もう助けたくても助けれない。動き出した歯車は止まらない、動き出した先生も止まらない。
 せめてもの償いと楽斗はクラスメイト達全員の冥福を祈る事にした。......五秒間だけ。


「うおおおおおお!!!?」

 その頃大毅は、雄叫びを上げながら廊下を全力疾走していた。
 もう既に始業のチャイムは鳴ったため授業は始まっているのだが、背後には未だに追いかけてきているクラスメイトの姿がある。
 大過去に何度も授業をサボった事がある大毅は授業をサボることに抵抗はなく、なんとも思わないが、クラスメイトの中にはサボった事もない所謂優等生と呼ばれる人達もいたことから、チャイムが鳴ったら追いかけてこないだろうと思っていたのだが、むしろチャイムが鳴る前より本気で追いかけてきている気がした。
 おそらくチャイムが鳴ったことによって、ノリで参加していたクラスメイトも後が引けなくなりどうせ補習室送りになるならと躍起になったのだろう。

「はぁ......」
 走りながら大毅は深く息を吐いた。

 友人達と共に帰宅部という部活動にこそ所属しているが、日々自主トレをしている大毅は例え全力疾走だろうが五分や十分の走りで息切れをする事はない。そんな柔な鍛え方はしていない。
 そして大毅が所属する一組では、大毅の全力疾走に追い付ける人は居なかった━━━のにも関わらず、現在進行形で大毅のすぐ後ろに木造バットを持ちながらもピッタリとくっついて、スピードを緩めればその瞬間に攻撃しようとしている者がいたのだ。

「なははは!待て待て~」
「お━━━い、やめろ菫!危ないって言ってるだろ!」
「聞こえーませーんー」

 次々と後ろから的確に急所を狙ってくるバットを紙一重で交わしながら、本来ならこの場にいない筈の二組の生徒、菫に大毅は声を荒げた。

(何で菫がクラスにいるタイミングでやらかしてくれたんだ!)
 心の中で愚痴るも、圭子が来ているタイミングじゃなくて良かったと心から安堵する。
 もし圭子が来ていたらと思うと......考えるだけでもゾッとした。

「━━━にしてもお前、足早くないか?何で放送室事件の時あんなに遅かったんだよ!?」
「あのときはまなちんのペースに合わせてたからねー。おりゃあ!」
「合わせてたってお前な......それと喋っている最中に攻撃するんじゃない!」
 
 いくら長い廊下と言えども、走っていれば端までなんてあっという間。
 廊下の突き当たりを右に右折し、そこにあった階段を三段飛ばしで駆け下り、教室の一階下。つまり二階の廊下を(本当は一階の方が運動場へ出れたりと選択肢が広がるため行きたかったのだが、何故か一階には大柄の先生━━━金剛が彷徨いていたため行けなかった)三階の廊下と同じように走り出した大毅は、今何時だろうと、通りかかった教室をチラッと見て、つまらなさそうに授業を聞いていた一人の男と目が合った。合ってしまった。

(......めんどくさいことになりそうだな)

「ふはははは。授業中に鬼ごっことはな。俺も参戦するぞ!!!」
「ちょっと宗吾!?今は授業中よ!戻りなさい!!」

 瞬時にそう考え、予想通り教室から飛び出して来た宗吾とそれを追いかけて出てきた流音を見て、呆れたように苦笑する。

 ちなみに二階にある教室は宗吾と流音がいた三組だけではない。あの圭子がいる四組もある。超問題児の圭子の事だ。四組の前を通りがかったら最後、追いかけてくるのは目に見えている。しかし、廊下は一方通行で階段は廊下の突き当たりにしか設置されていなかった。窓から外に飛び出そうにも一階には金剛が。

(ハハハ......マジかよ。これじゃあチェックメイトじゃないか)
 ここで初めて自分が追い詰められていたことに気がついた大毅は自傷気味に笑うことしか出来なかった。
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