姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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集会という名の公開処刑7

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「お疲れ」 
 位置に戻ると大毅が片手を上げて労いの言葉を掛けてきた。

「んっ。ありがと......」
 何でこんなに優しいのか不明だが、素直にその優しさに甘えることにする。

 だって、他の三人は、

「上げて上げて上げた状態で落とすとは流石だな。やったな、未知だぞ?」
「菫は場を盛り下げる天才だな」

「うぅ......」
 褒められてるのか貶されているのか分からない二人の言葉に菫は、所在なさげに目を伏せる。
 冷静に考えてみれば圧倒的に後者の方だったが。

「俺にとっては都合が良いんだけどな......」
「「「お前は黙ってろ」」」
「何でだよ!」
 さりげなく呟いた一言に全員からの全否定が入り、楽斗は驚愕と憤怒を混ぜ合わせたような表情をして突っ込む。

「まぁ、下げてから上げた方が盛り上がりそうではあるな。心理学的に」
「一理ある。その事を考えると場を白けさせた菫の行動はグッジョブだぞ」
「完全に詐欺師の手口だな」
「それは誉めてるの?貶してるの?」
「「「誉めしてる」」」
「そっか。誉めてるのか......あれ?誉めしてるって何!?まさか誉めてると貶してるの短縮語!?うがぁぁ!!」
 
「まぁまぁ、落ち着け」
「誰のせいだっ!」

 宥めるような大毅の言葉に菫は腕のリストバンドを宗吾に投げつけた。

「いや!何で俺に!?」
 顔面にリストバンドが直撃した宗吾はリストバンドの一部が目に入ったのか涙目になって訴える。
「何となく?」
「何故に疑問文!?」
「うっさい!」
「被害者は俺なんだが、何でお前がキレてるの!?」

「まぁ良いじゃないか宗吾。被害はお前一人で済んだわけだし」
「よくないだろ!?」
「五月蝿い。男ならいつまでもクズクズするな。間違えたグズグズだった。クズクズはいつもだったな」
「おい圭子!地味に愚痴を混ぜるな!」

「クズクズとかウケる(笑)」
「黙れ菫!誰のせいだと思ってやがる」

「クズクズとかウケる(笑)」
「死にたいのか?死にたいんだな?良いだろう、大毅お前に地獄を見せてやるよ!」

「クズクズとかウケる(笑)」
「楽斗......お前はそんなキャラじゃないだろ」

 もうやめてくれ、と宗吾がため息混じりに呟いたので、圭子は慈悲深く笑い

「クズクズとかウケる(笑)」
「鬼かテメェは!?もうお前ら何て嫌いだ!絶交だあぁッ!!!」
 信頼を置いていた友人達に裏切られた気がした宗吾はプイッと背中を向けて、その場で膝を抱える。

 思わず目を背ける。

 仕草そのものは見る人の心を和らげる可憐なものだったが、それはあくまで幼い子供or女子がやった場合だ。
 それをやった本人が男だった場合......見た人の心を和らげるどころか汚していくこと間違いない。

 すると、他の三人と視線の先が合った。
 どうやら皆も同じ事を考えたらしい。
 横目に映る横顔を見ながら一斉に苦笑した。
 
「宗吾どうする?」
「どうしようもないでしょ。あれは」
「あぁ。全くだ」
「気持ち悪いから放っておけば良いんじゃないか?どうせあいつの事だ。すぐに復活するだろう。
 それよりこの話題は止めないか?吐き気がする」

 この大毅の言葉に皆はそれもそうだと同意する。

 と、携帯をこっそり開いて時間を確認していた菫が焦り声を上げた。

「やばっ!?もう時間が残り十分切ってるよ!そろそろがっくん行かないと不味いよ」
「何ぃ?それは大変だなぁ!」 

 いつの間にか会話に混じっていた宗吾の言葉に、大毅は驚きつつ「そうだな」と頷く。
 宗吾の突然の参戦に少々呆気をとられた表情で楽斗が言った。

「俺としては......このまま話さずに終わってほしいんだけど」
「そんなことは私が決して許さん。時間がオーバーしようとも必ずやらせてみせる」
「何でそんなに燃えてるんだよ」

 圭子の燃える闘志が隠った目に、余計なことを言ったかと楽斗は視線を反らす。
 その様子にケラケラと笑っていた菫が、笑いすぎてか、その目の端から溢れそうになっていた涙を拭いて、パァッと花が咲くような笑顔を向けてきた。
 
「な、なんだよ」
「いやー。なんかもがいても逃げられないがっくんを見ていると蜘蛛の糸に捕らわれた蝶を鮮明に思い出すんだよね~。だから心が和らぐっていうか~和むっていうか~」
「蜘蛛の糸に捕らわれた蝶を思い出して心が和らぐって何だよ!?Sかッ!!」

 すると菫は「イヤイヤイヤイヤ」と両手を振り動かした。

「私より全然るーねぇの方がSだよー」
「━━━━━━━━嘘ッ!まじか」

 唐突の姉の性癖暴露というあまりの予想外の事態に脳の処理が出来ず、楽斗は処理が追い付くまでの一瞬間を空けてから、もしかしたら聞き間違いではないかという可能性を考え聞き返した。

「うんマジのマジ。おおマジだよ!」

 どうやら聞き間違いではなかったみたいだ。
(にしても、Mかと思わせといてSの適性もあるとか姉さん一体何者だよ......)

 ひょっとしたらまだ知らない事実があるかもしれない。友人には話すが家族には内緒にしておくことなんてよくあることだから。
 しかし、安易にそれを聞いてしまうことは出来ない。何故なら知りたくもなかった事実を知ることになるかもしれないからだ。

 聞くべきか聞かないべきか。
 楽斗は悩みに悩んで結論を出した。
 そして出した結論を元に菫に声をかけようと口を開く━━━だが。

「っと、プリティーガール。そろそろ始めないと本気でヤバそうだ」
 それは圭子によって妨げられた。

「圭子?」
 一体何がヤバイというのか。
 首を傾げる楽斗に圭子は指を指して告げた。

「あの単細胞教師がそろそろ怒りを押さえるのが限界みたいだ。早く自主的に行かないと無理矢r━━━」
「今すぐ行くともッ!!」

 宗吾をワンパンした光景を見ていた楽斗はじわじわと込み上げてくる恐怖を前に指の先を見ずに即答して逃げるように壇上へ上がっていった。
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