姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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集会という名の公開処刑6

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『......ゴホンッ。話を中断して済まなかったな。では、理由から述べさせて貰おう。無論早く終わらせるからな!』
「「「えー」」」

 一部から湧く不満の声を得意の回避スキルでスルーし話を続ける。

『私が電線の上を歩いた理由は楽しいから以外に存在しない。だから私は続けていきたいと思っているのだが、確かに下を歩いている者にとっては驚くことかもしれないな。
 その事を踏まえて今後電線を歩くときは、事前に下に誰も居ない事を確認することを誓おう。━━━以上だ』
 
 圭子がそう告げマイクを置いた後三秒後、体育館は声援に包まれた。
 もちろん大毅の時とは比べ物にならないものだった、それでも謎だった。
 嘘とを混ぜ合わせ自分を英雄に仕立て挙げた大毅の証言ならまだしも、やめろと言われたことを人が居ないときにやるからと屁理屈にもなっていない事を言ったのにも関わらず何故声援が出るんだと。

 と、そこで楽斗はこの声援が一部の生徒からしか発せられて無いことに気づいた。
 他の生徒や先生は倒れている生徒の介護をしながら、その声援に目をパチクリさせていたから間違いはないだろう。

「ふっ、結局ルックスなのか。俺の演説には声援が全く湧かなかったと言うのに」
「そりゃそうだ。途中まで良かったのに最後があれだったからな。ところでもう起き上がっていいのかよ宗吾」
「当たり前だ。面白いことが起きる気がするからな」
 ニカッ、と白い歯を見せて笑う。

「うわー。爽やかだねー!リア充って感じがしてウザ苦しいったらありゃしないよ!」
「何だよウザ苦しいって」
「未知の言葉だっ!是非詳しく聞かせてくれ!」

 冷めている男(?)とやけに暑苦しい男。まるで氷と炎みたく相対する二人に訊ねられ一瞬ビックリしたが、菫はすぐに気を取り直し、
「ウザ苦しいって言うのはね、ウザい&暑苦しいの合成バージョン的な?ものだよ!」

 教える立場っていうのは何て気持ちが良いものなんだろう。しかもそれが自分にしか知らない知識となれば尚更だ。
 胸を張って説明した菫に、二人の反応はと言うと、 

「は?安易すぎるだろ。つまんねー」
 ピクッ。こめかみが動く。

「文字を省略するという最近の文化はムカつくものだな。そんなのは未知でもなんでもない!文字を殺しているみたいな物だ!」

 ピクピクとこめかみが動いた、と思ったら、
「あーーーーーーー!もう愚痴愚痴うるさいッ!安易なのが分かりやすくて丁度良いの!文字は元々生きていないから殺してないの!」
「「あぁ?」」
「いや何その反応!?」

「安易だと簡単すぎてつまらないだろうが!!!」
「文字は生きてるに決まっているだろうが!!!」
「いや、だろうがって言われても知らないし......」
 謎の気迫に気圧されたのか、菫の言葉がどんどん小さくなっていくが、それでも二人は気にせず話を

「「だから━━━━」」

「おい、樹林!次はお前だぞ!」
「あっはい!今行きます~!」

 思わぬところからの助け船に、肩身を狭くして話を聞いていた菫は安堵の息を漏らしすかさず乗り込んだ。

 と、景色が変わった。壇上へ上がったのだ。
「流石に緊張するなぁ」
 菫はぶるっと身震いをしてから、落ち着かせるように深呼吸をして、マイクに手を伸ばし

「「━━━だから大体お前は!!!」」
 背後から聞こえてくる声にピタリと動きを止めた。
 どうやら標的が居なくなったというのにまだやってるらしい。
 チラリと振り返る。そして、吹き出した。
 菫の代わりに大毅が犠牲となっていたのだ。
 と、大毅は視線に気づいたようで目で何かを訴えてきた。
 が、目だけで伝われば苦労しないとばかりに菫は馬鹿と言葉にせず口を動かし、そこまま壇上の方へ向き返った。
 気がつけば震えは治まり、自然と口元は緩んでいた。
 スイッチを入れ、マイクの頭を叩きながら菫は、

(さて、何て言おうか......)

 そんなことを考えていた。

 今までは口から出任せで言っていたから問題はなかったのだが、今回は今までとは違った。
 宗吾は熱弁で、大毅は虚言で。圭子はその態度で、皆が皆会場を盛り上げたのだ。

 全てはトリである楽斗のために。
 
 ━━━では、ここで菫に求められるものは何か。それはこの盛り上げを落とさず、むしろ更に上げさせ最高の状態で楽斗にバトンをパスすることだった。
 
(いやいやいや、ムリゲーすぎるでしょ。こんなんだったら私が一番に行けばよかった~)
『皆さん、こんにちわ。私は樹林 菫です!』

 あまりに沈黙が長すぎるのもあれなのでとりあえず自己紹介ぐらいはしておく。

「「「おおおおお!!!」」」

 ......何この謎の盛り上がり。意味不明なんだけど。てか、これ自己紹介だけで終わりで良くない?

 と、視線に言葉を乗せ、菫は無言で先生の方を見た。
 しかし、先生は横に首を振って無言でNOと告げる。

(やっぱりだめか......って、あれ?何で先生私の顔を見ただけで顔を横に振ったの?)

 瞬間、先程楽斗と話していたことが脳裏を横切《よぎ》る。
 確か楽斗も先生同様、顔を見ただけで何を考えているか分かっていた。いや、あれは楽斗が極度のシスコンだから出来る技と落ち着いたはずだ。

 では何故、あの先生は......。
 error━━━error━━━error━━━error━━━error━━━error━━━。

 オエッと強烈な吐き気が催してきた所で、脳の自己防衛が働いたのか思考が緊急停止する。
(危なかった。廃人になるところだったよ......二度と考えないようにしよう)

 強烈な吐き気の余韻か、まだ多少吐き気がするが菫はしっかりとマイクを握り、今の出来事を忘れるため、何も考えていないが即興のアドリブで理由と今後の対処を言うことにした。
  
『えー、私が......船長?機長?議長━━━』
 早速雲行きが怪しくなってきた。

(や、ヤバイ。変にプレッシャーを感じてるせいか誰の銅像に落書きしたのかも分からなくなってる!)

 背中に悪寒がして冷や汗が流れる。
 時間が経つに連れ、焦りが悪化していくのが分かる。
 実際には一分も経っていないだろうこの時間が今の菫にとっては何時間にも思えた。

(確か確か......そう!学校で一番偉い人だった気がする!だとしたら━━━)

 急に湧いてきた閃きにポンと手を打った。

(やっぱり私、閃き力高いなぁ!)
 と、自画自賛までする。

 まぁ、それも仕方がないことだ。解けなかった謎が解けたときの喜びと言ったら、表現しようにもできない言葉に不便を思えるほどなのだから。

(学校で一番偉い人って言ったらやっぱあの人だよね)
 再度心の中で確認して頷く。

 そして、
『私が理事長の銅像に落書きした理由は━━━』
「校長だ」
『......間違いなんて誰にでもあるさ。気にするなマイミー』


「マイミーって誰だ?」
「私も知らぬな」
「どーせ。アイツの事だから短縮語だろ」
「ああ。おそらくだが、My(わたしの)とMe(わたしに)をくっ付けただけだな。未知を馬鹿にしやがって」

 男三人+圭子の雑談が聞こえてくる。
 ━━━てか、さっきから思ってたんだけど何で宗吾怒ってるのかが意味不明すぎる。

 と、いつまでも聞き耳を立てることに集中してはいられないので話を続けた。
 即興のアドリブだが、適当に丁寧語で話していればなるようになるでしょ。


『私が校長の銅像に落書きした理由は、何か顔がムカついたからです!』

 何でこうなった。しかし、話始めた口は止まらない。

『あの厳つくて悪どそうな顔を見ていると自然とストレスが溜まってきてムカムカするんです!』
 
 凄い、なんという逆恨みだろう。我ながら天晴れじゃ!

『だから少しでもムカムカを無くすため落書きしました。ホントは壊したいんですけど、今後も頑張って落書きまでに抑えたいと思っています』

 言い終えてマイクを切る仕草まで完璧だ。
 そう。
 色んな意味で。
 大衆もどうしたらいいか分からず、皆ポカンと口を開けていた。
 無論言うまでもなく先生達もだ。
 そんな中、壇上から降り踵を返していた菫の頭には、何故喧嘩腰になったのだろうかとか沢山の葛藤が渦巻いていた。

(......もう一度言わせて)
 菫は息を吸って、大きな声で

「何でこうなった!」
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