姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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集会という名の公開処刑5

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 やがて、二人の視線は自然とある人へ行き着いた。
 そして、恐怖する。
 
「ね、ねぇ。がっくん。る、るーねぇなんか怒ってない?」
「あぁ。めっちゃ怒ってるな。『余計な手間かけさせるんじゃねぇよ。辻褄合わせるのが大変じゃねぇか』って顔だぞ、あれは」
「いや、なんでそこまで詳しく分かるのさ......」

 楽斗はうーんと額に指をあてて考え込み、

「んー、姉弟だからじゃないか?」
「......このシスコン男ッ!」
「何でだよッ!?こんなの姉弟がいる人だったら誰でもできるだろ!?」
「何言ってるの?出来るわけないじゃんっ!これはシスコンだから成せる技でしょ」
「なっ!?う、嘘だろ。俺はシスコンだったのか......」
「やーい。シスコンシスコン~!!」

「おい!お前ら。雑談していないで早くやれ!」
 いつものように会話をしていると、壇上の横に立っていた先生が我慢の限界とばかりにこめかみをピクピクさせ、怒声を発した。

「いや、無理だろ」

 楽斗は先生に聞こえないように小声で即答する。
「呼ばれた順番的に行くと次は姉御だけど......今姉御はあんな状況だしね~」

 その言葉に菫は便乗してチラリと圭子を横目で見ようと視線をずらした。

「あれ?」
 しかし、視線の先には圭子の姿はない。おかしい、さっきまでいた筈なのに。

「がっくん!姉御がいないよッ!!」

 想定外の事態に自分の頭だけでは対応できなくなった菫は勢いよく楽斗の方を振り返った。

「って、がっくん!何で笑ってるのさ!」
「ご、ごめん。......上見てみ」
 楽斗は苦笑しながら上を指差した。

「全くなんなのさ!」
 菫は楽斗に促されるように視線を上に向け、

「ひゃあっ!?」
「はっはっは。そこまで驚かれると驚かせる側の私としても嬉しいぞ━━━ッと!」
 高笑いと共に体育館の屋根を支える鉄骨から圭子はスタリと壇上に降りた。
 一体どうやって登ったのだろうか......検討もつかない。
 大衆も突然上から降ってきた圭子に驚きを隠せないようで目をひん剥いている生徒もいれば泡を吹いて倒れている生徒もいた。
 ......もはやそれは惨状と呼べるものだった。

「おいこれ集会なんてしてる場合じゃないだろ」
「まぁ、そう言うなプリティーガール。ここまで来たら最後までやろうじゃないか」
「お前が原因なんだけどな」
「さぁ、私の番だな!」

 楽斗の毒づきを華麗に回避した圭子は素早くマイクを取りスイッチを入れる。
 
『あーぁー。ゴホンッ』
 マイクの調子を確認していたのか圭子はそう声を出し、先生に負けず劣らずの咳払いをわざとらしくしてニコリと笑った。

『どうも諸君。私は彗星 圭子だ。以後宜しく頼もう。
 ━━━━で、いきなりで悪いが本題に移動して今回の違反行為の理由とこれからの決意を述べようと思う。
 まぁ、お前達も私の話より後のプリティーガールの話の方が聞きたいだろうからな。ちゃんと空気は読むさ』

 はっはっは。と圭子はいつも通り笑って話を続けようと口を開き......。
 動きを止めた。
 
『何だ?そこのお前。何故手を挙げているんだ?』
 話を止められてしまった圭子はイラつきを隠すことなく言葉に浮かべ、その原因となった男子生徒を冷たい目で突き刺すように見た。

「ひっ!?」
 偶然その男子生徒の近くに立っていた先生が悲鳴を上げる。
 直視されていないのにも関わらず大人一人を怯えさせるほどの凍りつくような視線に、その男子生徒はものともせずグッと拳を天井に向かって突き上げ宣言した。
 
「俺は圭子様のお言葉が聞きたいんです!!!」

『は?』

 想定外の言葉に圭子から素っ頓狂な声が漏れる。

「じ、実は僕もなんだ!」
「俺もだ!」
「私も御姉様の言葉が聞きたいんです!」
「俺も聞きたい!」

『えっ、えっえ?』
 男子生徒に誘発されたのか次々と飛び交う言葉に明らかに狼狽える圭子。

 そして、宣言した生徒達は皆顔を合わせ声を合わせて言った。
「「「大好きです!!!!」」」


 スドーーーン。決め手となったと言わんばかりに圭子は顔を赤に染め心臓を抑える。

「うひょおおおお!!!」
「あー、ありゃやられたな。意外と打たれ弱いからなアイツ」
「何でがっくん姉御の表情見てそんなに冷静でいられるの!?」
「逆になんでお前はそんなに興奮してるんだよ」
「初めて見る表情だからだよ!ちっくしょう~ッ!!!カメラ持ってこればよかったぁぁぁ!!!!」

 本気で悔しがる菫に楽斗は苦笑出来ず、ドン引きしながら、一言。
「カメラだけは止めとけ。殺られるぞ」

「えーなんでさ!」
「お前、圭子の写真嫌い知ってるだろ。カメラ向けてみろ、その瞬間にパーン。壊されるぞ」 
 「そ・れ・で・も!カメラが壊される可能性があっても今のは撮りたかった~ッ!」

 話を聞いてなかったのかこいつは。と、楽斗は呆れつつ、

「いやだから、撮っても壊されるって」
「別に壊されても良いんだよッ!」
「ごめん。意味が分かんない」
「だ・か・ら!私は、姉御の珍しい表情を撮ったことがあるっていう実績が残ればいいの!お・分・か・り?」

 言葉を強調して言う菫の気迫に楽斗は圧されながら頷く。

(そうか。確かに実績があれば現物なんていらないな......?は?)

「やっぱ納得できねぇぇぇ!!!」
「何で~ッ!?実績があればそれだけで心豊かに暮らしていけるじゃん!一万円持っていたっていう実績があれば所持金が一円だろうが暮らしていけるようにねっ!」
「暮らしていけねーよ!一週間も保たねーよ!せいぜい二日だ馬鹿!」
「何で!?一万円持ってたっていう実績があれば一万円が空から降ってくるかもしれないじゃん!」
「なんてポジティブッ!!!
 落ちてくるわけねぇだろ!そんな事あるんだったら誰も仕事しなくなるだろ!」
「......慈善事業?」
「なわけあるか!現実を見ろ現実を!」
「分かった!仕事が好きだとか!」

 楽斗はきっぱりと首を横に振って、

「そんな奴はいない!いたら化け物の類いだ!」


 去年、行った職場体験の片鱗を思い浮かべる。
 確か......一日目、皿洗い。二日目、ディッシュ洗い。三日目、皿ウォッシュ!四日目、ディッシュウォッシュ!!

 ......と、まぁこのように仕事っていうのは腐りきっているものである。
 それこそ仕事を夢見て職場経験に行った子供を雑用としてコキ使う程には。

 てか、職場体験を募集してる職場って大抵ブラックだよな。
 給料無しのまかない無し。それなのに制限時間ギリギリまで雑用を押し付ける。もはや体験生ではなく、奴隷と言っても過言ではないだろう。

 と、長くなったが結局のところ何を学んだかと言えば『仕事が好きなんて奴は精神に異常がある奴しかいない!』と言うことだ。

「仕事が好きなんて戯れ言だ!宝くじ当たれば即行辞めてくのが目に見えてらいっ!」

 思わず声を荒げ拳を握りしめる楽斗に菫は真剣な顔をして、
「がっくんうるさい!」
「ええーっ」

 なんて理不尽!ごめん。意味が分かんないよ!

 しかし菫はそんなことを気にする様子はいっさいなく、
「今、姉御が話そうとしているんだから少し黙って!」
「......ホントだ」

 言われてみて壇上を見た楽斗は小さな声で言った。今まさしく圭子が羞恥から復活しようとしていたのだ。
 楽斗は黙って菫に続いて圭子の背中を見つめた。
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