姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

文字の大きさ
15 / 63

集会という名の公開処刑4

しおりを挟む
「ふぅ」
 本当にすまないと謝罪する先生により両手両足をガムテープを外された大毅は、尚も謝り続けている先生に「大丈夫です」と声をかけ、謝罪を止めさせた。さすがに、これ以上謝られると嘘の証言をしたと言う罪悪感が大きくなりすぎて耐えきれそうになかったからだ。

(......少しやり過ぎたか...?。いや、放送室事件で傷付いた楽斗の分だと思えば割りに合うか。それにしても......)

 大毅は考え事を止め、チラリと先生を見る。
 もしかしたら先生は自分が止めても謝罪をやめないのでは。と思っていたが、その心配は無用だったようで、先生は「なら良し!」と既に関心を無くし他人事のように呟いていた。

(相も変わらず図太い神経してるな。その図太さが羨ましいよ......)
 
 拘束を解かれた大毅は牢から解き放たれた囚人のように歓喜することなく、ため息を吐く。
 そして、苦笑いを無理矢理作りつつ後ろを振り返り元の位置へと後退した。

「サイテー」
「非道だな」
「嘘つきが」

 これもまた予想通り。元の位置に戻った大毅を三人の小声での罵声が冷たく迎い入れる。
 しかも、それはいつもしてくる罵声ではなく明らかに正当な理由があり、大毅自身もそれを自覚しているため反論することは出来なかった。

(罵声を浴びせられる事は想定内だが......意外と堪えるものだなぁ)

 そこまで考えて大毅は笑う。この程度で何を音を上げているんだと。
 大毅は遠い目で壇上の下に視線を向けた。そして、一人の女子生徒を見つけ視線を固定する。
 すると、向こうも大毅の視線に気づいたようで、ニッコリと微笑んだ。しかし、表情とは裏腹に目は笑ってなく、まるで『余計な手間かけさせるんじゃねぇよ。辻褄合わせるのが大変じゃねぇか』とでも言うような、ほの暗い火が灯った瞳をしていた。

 ゾッとする。冷や汗が止まらない。
 何でこうも友人の女達はオレを怯えさせるのが上手いんだろう。

(これオレ死んだな......遺書でも書いておこうかな)

 リアルタイムでそう実感した大毅の視線の先には━━━雨宮流音が不適に微笑んでいた。

 罵声を浴びせられても表情をほとんど変えなかった大毅が強ばった表情になったのを見て、菫が首を傾げて、

「ありゃりゃー?急にどうしたのかなー?」
「俺には分からん」
「姉御は?」
「私もプリティーガールと同意見だ━━━━ッ!!?」
「ど、どうしたの姉御?」

 急に途切れた台詞に菫は思わず圭子の顔を見つめ、まずその表情に驚いた。

「すっご!?姉御のこんな表情初めて見たよッ!!!!!あー!!!何で私カメラ持ってきてないんだー!!!手元にあったらすぐさま写真撮ってるところなのにー!!!」
「な、何してるんだ、菫?」
 目を輝かせた、と思ったら突然地団駄を踏み出した、と思ったら手をワシャワシャとさせた、と思ったら頭を抱えた菫に楽斗は訊ねる。
 無論、ドン引きで。

「な、何でもないっ!に、にしても姉御どこ見ているんだろうね」

 少々暴走気味だった自分に反省し、その感情を抑え込んだ菫は「なはは」と笑いを溢しながら、あからさまに話題を反らした。

「圭子?......未来とかか?」
「えっ!?姉御未来見えるの!?」
「いや、知らねぇけど。気になるんだったら圭子の視線を追ってみればいいんじゃないか?幸い、今この会話も耳に留めておけないほど何かを集中してみてることだし。追うのも別に難しくないだろ」
「............」

 二人の間に謎の沈黙が流れる。

「............」
「............」

「......だ、ダメか?」
「ん?何が?」

「さっきの提案の事だけど...」
「へ?何でそんなこと聞くのー?」

「いや、お前なんか気まずそうに黙ってたじゃないか!?」
「あーね。違う違う。さっきの沈黙は、さっすがーがっくん!エグいことを考え付くねー!って感動してただけだよ!」

「......頼むから沈黙はやめてくれないか?」
「何で?」

「紛らわしいからだよッ!!!」

 

「━━━で、さっき提案を出したときは他人事みたいに言ってたのに結局がっくんも見るんだね」

 圭子の視線の先に顔を向けた菫が、同じように顔を向けた楽斗に笑いかける。

「まぁな」
「やっぱ気になるんだー。姉御の表情」

「あぁ。圭子がこんな表情をするなんて初めて見るような気がするからな。原因ぐらいは見ておきたいと思ってさ」
「だねー。しかし、私は驚いたよ。正直私は一生見れないと思ってたからね」

「安心しろ。俺もだ。まさか、あの圭子が怯えているような表情をするなんて夢にも思わなかったからな」
「今日は発見でいっぱいだね。大毅が怒った所も見ちゃったし来週も━━━」

「何それ初耳なんだけどッ!!?え?怒ったのあの大毅がぁぁ!?って来週もって?」
「やだなぁ、忘れたの?がっくん来週から女用制服じゃん!」

「やめろぉおおおおお!その事を思い出させるなぁぁあ!!!せっかく忘れてたのにぃぃい!!!」

 そう(一方から見れば)軽口を叩きあって、二人は再度圭子視線を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...