姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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アフスクチルドレン1

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「何なのよ、アレ!こっちが下手《したて》に出てあげているのに何で許可しないのよ!意味分からないわ!」

 日は傾き辺りが真っ赤に染め上げられている放課後の教室で流音が早々に愚痴を吐いた。

 雨宮流音。
 樹林菫。
 百々守真愛。
 彗星圭子。
 鳳宗吾。
 石刀大毅。

 四つの机を並べて作った大きな机を囲むように六つの椅子が置かれている。
 しかし、七つ目の椅子はない。
 雨宮楽斗の椅子はなかった。


「しっかし、俺たちだけで集まるなんて珍しいよな」
「仕方がないだろ」

 宗吾は一呼吸置いてから、その理由を告げた。
「楽斗は今頃、先生達と明日からの制服の件について話し合っているんだから」

「それって、そんなに時間かかることか?」
「オレが知るわけないだろう」

 宗吾の疑問を一刀両断で切り捨てた大毅は頭をクシャクシャと掻き真剣な顔つきで。

「問題は明日からどうするかだ」

「うむ。確かにな」
 大毅の言葉に、圭子が肯定を返し続ける。

「女装したプリティーガールを見て鼻血を出さないようにしないとな」
「そう。圭子の言った通り━━━ではないぞ!絶対!全然違うからな!」

 思わず同意しかけた大毅は焦ったように否定を繰り返した。

「ふむ?では、何だと言うんだ?」
「反応よ」
「......そう。流音が言った通りだ」
 今度はちゃんと言葉を確認してから、大毅は同意した。

「?何を言ってるのかぜんぜーん分かんないっ!!」
「この馬鹿と比べられるのもなんだが、俺も分からん」
「ふむ。なるほどな」
「姉御分かったの!?」
「━━━プリティーガールが女装してきたときの周囲の生徒達の反応━━━ってことだろう?」
「その通りよ」
「えっ?女装しても性別は変わらないよね?だから別に何も問題は......」
 真愛がハッと何かに気づいたように口を止めた。

「......さっきの集会か」
 宗吾も気づいたようで、顔をしかめながら言葉を漏らした。

「そう。問題は、さっきの集会で楽斗は大っぴらに自分が女だと虚言したことにある。
 ただでさえ、かなり大勢の男子から好意を受けているのにも関わらずだ。まぁ、前までは連中も相手が男だと言うことで思い止まっていたが。今回のこれで、告白に躊躇する理由は無くなったと訳だ。
 ━━━何か異議はあるか?容疑者こと流音さん」 
「よ、容疑者って......。あれは、あそこでは最適な行為だった筈よ!」
「成功していればな」
「うぐぐぐ......」
 言い負かされた流音は唇を噛みしめ、そのままヘタリと机の上にうつ伏せとなった。
 
 と、暫く頭を悩ませていた宗吾が唐突に閃いたと指を鳴らした。
「......ん?あれっ?問題は楽斗が女だと思われているところにあるんだよな!?なら解決策はあるぞ!」
 嫌な予感しかしない。大毅と流音は即座にそう思った。

「おお!流石ソーメン!」
「だろう?って俺、ソーメンなのか!?前までは「そー君」だったことね!?」
「一文字しか違ってないから意味は同じでしょ!」
「全然ちげぇ!!!!俺はソーメンのようなヒョロヒョロな体はしてねぇ!ソーメンよりむしろキシメンだ!キシメン君と呼━━━」
「何を意味の分からないことを呟いている。早くその解決策とやらを言え」
「圭子ギブ、ぎ、ギブ......く、首を......絞め...るのは、は、反則だ............プハァ!!!」
 手を離されたことによって息を吹き返した宗吾は涙目になりながら、

「はぁはぁはぁ......だって問題は楽斗が女に見られると言うことだろ?だったら簡単だ。楽斗が男だと言う証拠を皆に見せるのが一番だ!」

 場が凍りつく。皆が固まっ━━━いや、圭子だけは肩を怒りで震わせていた。

「ほ、ほう?では具体的にその証拠とやつを教えてくれないか?」
「ん?そりゃもちろんち━━━」

 悲鳴を上げる暇すらなく宗吾は一つの拳で地に落ちた。
「......ヒッ!...」
 その光景を見た真愛が小さく悲鳴を上げる。
 そんな真愛を見て、圭子は申し訳なさそうに頭を下げ、

「すまないが。少しの間山に出掛けてくる」

 と言い残し、ズルズルと宗吾を引きずって教室から出ていった。


「......」
「......どうする?二人減ったが続けるか?」
「続けるわよ!!」
 そう言って流音はうつ伏せていた体を起き上がらせ、バンと机を叩いた。

「はいっ!」
 菫がピシリと背筋を伸ばして手を上げた。

「何?」
「さっきソーメンが言った通り、問題はがっくんが女だと思われているところにあるんだよね?けどさぁ......ぶっちゃけ、それって被害無くない?」 

「「はぁ?」」
「ヒッ!」
 
 大毅と流音の凍てつくような視線に、真愛が悲鳴を漏らした。
 しかし、向けられた本人《すみれ》は知らん顔で続ける。

「フツーに考えて被害無いっぽくない?それとも、何か被害あるの?」
「「ある!」」
 売り言葉に買い言葉。即行返答する二人に、菫はふーんと鼻を鳴らしながら聞いた。

「へー。例えば?」
 
 言われてみて初めて二人は被害を考える。
 そして、暫し沈黙が流れた後、大毅が発言した。
 
「オレと遊べる時間が短くなる!」
「それって被害なのッ!?わりかしどーでも良いことじゃない!?」
「何を言う!めっちゃ被害だ!」
「めっちゃ被害って日本的におかしいことは突っ込まないことにしてあげても......それって、大くんの願望だよね?がっくんの被害ではなくない?」
「何を言ってる!?楽斗もオレと遊べないのは悲しいはずだ!」
「それは大くんの勝手な妄想でしょ。それに、がっくんが男子に告白されようと付き合うことはないと思うから結局被害ないよね?」
「ぐぬぬ......」
 大毅は反論できずに黙り込んだ。

「まったく、言い負かされるなんて情けないわ大毅」
 その様子を見ていた流音が嘲笑的に笑った。
「そう言うお前こそどうなんだよ」
「聞いて驚きなさい。私のは自信作よ!」

 ━━━何を作ったと言うのか、この女は。
 フフンと無い胸を張って言い切る流音に大毅は冷やかな目を向ける。

「......じゃ、次るーねぇ言ってみよっか。 
 がっくんが女の子に見られた場合の被害はなぁに?」

 まるで小さい子をあやすような言い方をしてくる菫に流音は自信満々にこう告げた。
「私がモテなくなるわ!」

「「「は?」」」
 何を言ってんだコイツ、とバラバラだった三人の意志が今一つになる!!!

 しかし、流音は誰から学んだのかスルースキルを発動し続けた。
「楽斗ってほら。何か知らないけど結構モテるじゃない?
 多分パンドラの箱と同じ原理だと思うのだけど、分かりやすく言えば『絶対にしてはならない恋』とか『押してはダメなスイッチ』とかその辺よ。
 ......で、私が言いたいのは、その原理によって今まで引き寄せられてきたけどギリギリで性別の壁にぶつかって踏みとどまっていた人は少なからず居たわけ。
 だけど今回楽斗が女だと自称したせいで、最終ポイントである性別の壁が消滅した今、楽斗は最高のモテ期に来していると言うことよ!
 おかしいじゃない!」

 おかしいのはお前の頭だ!

 と、言ったら殺されそうな気がして堪らなかったので言わないことにしようと三人は目でコミュニケーションを取り合い頷く。

「な、何がおかしいのかな?」
 何か言わないとマズイ!と直感的に察した大毅が顔をひきつらせながら聞いた。
 すると、流音は待ってましたとばかりに深く頷き、
「弟なのに姉よりモテることよ!」
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