姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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アフスクチルドレン5

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「楽ちゃん大丈夫かなぁ......」
「うーん。平気なんじゃないかな。がっくん、普段運全く無いくせにこういう時だけは驚くべき幸運を発揮するから。案外無傷で、もうどっか遠くに逃げ出してるかもよ」
「それは言いすぎじゃない?」
「なはは。だよね。流石に三階から飛び降りて無傷だったら化物かってなるよね......っと、階段を下に行くよ~!」
「分かってまーす!」

 菫と真愛は同時に階段を高速で駆け下り、そのまま目標地点へ向かう。
 目標地点とは、言うまでもない。もちろん、楽斗のところだ。

 階段を駆け下りている最中、風紀委員からは「階段は走っては......早く下りてはいけません!!」と声が上がったが、気にせずスピードを緩めるどころか加速させた。そして、一階に降り立った二人はとりあえず外に出ようと廊下を駆け出した。

「ところで気になったんだけどさ......」
「ん?なに?」
「マナフィーちゃんって体力あったっけ?」
「何言ってるの?私は皆知っての通り五十メートル走れるかどうかの体力だよ?」
「......じゃあなんで私の全力と同じスピードで走れてるの?」
「へ?」

 不意に言われて頓狂な声を上げてしまった真愛だが、菫の顔を見た後、自分の足元を見て
「あふぅう......」
「どったのマナフィーちゃんッ!!?」
 その場に止まるばかりか、ヨロヨロとふらめいてからその場にへたり込んだ真愛を見て、菫は急には止まれないと言わんばかりにその場で足踏みをしながら真愛のところへ向かった。

「なんか、私が菫ちゃんと同じスピードで走れてると考えたら足から急に力が抜けちゃって......」
「まじっすか..................」

 瞬時に理解できた。
 つまり、先程までの真愛の速さは火事場の馬鹿力といったものに近かったものだったのだろう。おそらく無意識の内にリミッターを解除していたに違いない。いや、無意識だからこそ出来たと言うべきか。
 現に、菫が言葉を言うまでは走れていたのだからそうなのだろう。

 やっちまった......。
 さっき口走ってしまったことへの尋常じゃないほどの後悔がため息と共に流れていった。

 そんな菫の心を読んだのか、はたまたため息が聞こえたのか、真愛は今にも泣き出しそうな声色で
「うぅ......ごめんね......先行ってて......」
「行けるわけないよ!」
 元はと言えば菫のせいなのだから、真愛を置いていくなんて選択肢は端から無かった。
 
 菫は即答すると、足踏みしてた足を止め、真愛に背を向けてその場にしゃがんだ。

「はい」
「......トイレポーズ?トイレ行きたいの?」
「違うわッ!!!おんぶだよ!おんぶッ!!!何で分かんないかな!?」


 真愛を背負いながら楽斗が落ちた場所に着いた菫はキョロキョロと辺りを見渡した後落胆の息を吐いた。

「はぁはぁ......やっぱりいないかぁ......」 
「うぅ。私のせいだね......ごめんね......」
「いやいや、マナフィーのせいじゃないって。
 ━━━でも、これは良かったのかなぁ」
「良かった?」
「うん。だって、この場に倒れていないってことは軽傷だったってことでしょ?まぁ、重傷でどこかに運び込まれたって可能性もないことは無いけど、とりあえず死んじゃったって事はないと思う。死んじゃってたらパトカーとか来そうだし。
 ......そう考えると救急車が来てないから重傷って可能性も無いかな」

 我ながらよく言葉がこうもスラスラと出てくるものだ、自分を誉め称えたいね。
 そう菫が感慨深く思ってると真愛が、

「ねぇ。これからどうするの?」
「どうするって、何が?」
「楽ちゃんを探すの?......それとも諦めて帰る?」
「......マナフィーはがっくんがまだ学校に居ると思う?」
「......居ないと思うよ。鞄は廊下に落ちてたけど、明日は土曜だからわざわざ取りに戻ることは無いだろうし。私だったらそのまま帰るかなぁ」

 その言葉に、菫は小さく「だよね」と零《こぼ》すと、眉をひそめてガックリ項垂れた。
 一瞬、家まで行ってやろうと思ったが、目的が目的なので流石にそれは止めておく。

 とはいえ、勝手に抜けてきた会議に戻ろうとはとてもじゃないけど思えない。

 ......別に流音に怒られるのが怖いって訳じゃないんだからねッ!!!

 あっ。......けど、結局は月曜怒られるのか......。

「どうしたの!?顔真っ青だよ!」
「......マナフィー、私もう駄目かもしんない。私の墓は海の見える丘に立てておくれ......」
「菫ちゃんが駄目なのはいつものことだけど......そんなこと言っちゃダメだよ!菫ちゃんはドクダミに囲まれた山に眠るんだから」
「今サラッと酷いこと言ったねッ!ドクダミに囲まれたってそんなに私の鼻を曲げたいのかな?......いいよいいだろいいですよ!喧嘩売ってるなら買おうじゃないか!」


 ドクダミは臭い。とてつもなく臭い。それ故不味い。
 小学校の頃だっただろうか。野草を食べよう的なプロジェクトがあって、その時に一度食べてみたのだが、匂いと同じ味がして吐き出してしまった。
 あれは口に入れるべき物じゃない。
 生物兵器だ。是非ともこの世から抹消すべきものだ。

 ドクダミと聞いて過去の思い出を鮮明にフラッシュバックしてしまった菫が顔をしかめながら言うと

「あれ?ドクダミって良い匂いじゃない?ドクダミ茶とか美味しいし......」
「......生物兵器を食らう......だとッ!?」
「え?生物兵......?あは、あはは......」

 ぎこちない感じで会話が続く。

 ......おんぶしてる状態で。

 もはや、これを誰かに見られたら弁解の余地は無いだろう。
 敢えて何の弁解かは言わないが、おんぶしてる本人が思ってるのだから間違いはない。

「で、これからどうしようか。がっくんが帰っちゃった以上やることないし......帰る?」

 菫が苦笑いでそう訪ねると真愛はうーんと少し考えて、

「ちょっと付き合ってもらっていいかな?」
「ん?ん。良いけど、どこか行くの?」
「うん。ちょっと本屋に」
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