姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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アフスクチルドレン7

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 あぁ。不運だ......。不運すぎる。

 と、楽斗は細かい路地道を曲がり曲がり曲がり抜きながら静かにそう思った。
 そして、楽斗は決意した。

 ......もう、後ろは振り返らない。と。

 これだけ聞くと「前だけを向いて生きていこう」みたいな意味に取れるかもしれないが、この場合は物理的な意味での話だ。
 そもそも、「前だけを向いて生きていこう」なんて名言めいた台詞はあくまでアニメやら漫画やらのキャラクターが言うのがベストであって、リアルにそんな事を考えているやつはいない説すら楽斗の中には浮上していた。
 では、何故そんな意味とも取れる事を決意したのか。
 それは......と、楽斗は雑草生い茂る道を走りながら耳の感覚を研ぎ澄ませた。
 
 意識をすると聴こえてくるもの一つに置いても大分違う。
 荒い息や足音は勿論、風を切る音。砂利が転がる音。......そして

「楽斗待てぇええええ!!」
「がっくん。君はもう完全に包囲されている!諦めて止まりなさい」
「......菫ちゃん。三秒でバレそうな嘘はやめよ?」

「..................何か増えてるし.....」

 いつの間にか二人追加されていた状況に楽斗は驚きつつ、それでも足を止めずに走り続けた。
 しかし、心身もろともに疲労しているはずなのだがその顔には疲れが見えなかった。

 理由を簡単に説明しよう。
 本日何度か逃走劇をやっていた楽斗は逃走すると言う状況に「慣れて」しまったのである。
 所謂「場慣れ」というものだった。

 だが、そんな楽斗の余裕っぷりも学校の近くにある獣道を抜けたところで軽々と崩れ落ちた。

「こんなところで会うとは奇遇だなプリティーガール!」

 楽斗の視界には、スコップを片手に、彗星圭子が立っていた。
 よく見ればスコップには土が付いており、まるで何かを埋めようとしたような形跡が残っていた。
 ちなみに、穴を開けようとしたという感想は何故か出てこなかった。

「......なんで圭子ここに?」

 顔をひきつりながら、それでも走り続ける楽斗はさりげなく隣を走る圭子に訊ねる。
 すると、圭子はいつものように高らかに笑う......事はなく眉を落とし、少し残念そうな顔で

「実は宗吾を埋めようとしたんだが......穴を掘ってる最中に逃げられてしまってな............」
「..................」

 スコップに付いているその土はその所為か。
 ......宗吾が無事で良かったよ。ホントに。
 友人が容疑者と被害者とか笑えないからな......。

「......ところで。何でプリティーガールはアイツらから逃げているんだ?」
「アイツらは悪魔なんだよ......実は化物だったんだ......」
「ふむ。意味が分からないが、つまり足止めすれば良いのか?」
「さすが姉御!!!!」
「はっはっは。誉めても何にも出ないぞ。まぁいい、ではまたな」

 そう言い残すと、圭子は背後に体を向け駆け出した。

 瞬間、背後から大毅の悲鳴が響いた。
 
 しかし、足音は後ろから未だに聞こえたくるため、おそらく犠牲になった者......もとい、圭子が止めているのは唯一悲鳴が上がった大毅だけだろう。

 圭子の力なら全員を止めることも可能だったはずなのだが、何らかしらの理由があるのかもしれない。弱味を握られているとか。
 まあ、厄介な大毅だけでも消えたことは感謝しなければならないな。

 楽斗は心の中で圭子に感謝をすると、そのまま残りの追い人を払うため、更にギアを上げ公道を走って行った。
「......おいおい。何か痛いと思ったら背中血塗れじゃないか。どういう引きずり方したんだ圭子《あいつ》......。ホント容赦ないな」
 痛みを感じ背中に当てた手が真っ赤に染まったのを見て、まるで今の空に似ているなと夕暮れを見上げながら宗吾はそう思った。
 そしてようやく、さっきから歩く度、人が振り向いていたのはこの所為かと気づいた。
 確かに血で染まった背中は痛々しく見えるかもしれないな、と。実際痛いわけだし。

 もしかしたら事件の被害者として見られるかもしれない。だがまぁ、その時はその時だ。

 そんな事を考えていると、いつの間にか向かっていた場所、学校に到着した。

「ふぅ......何か。久しぶりに見えるな......大して時間経ってないはずなんだけどな............さてと、じゃあ教室に戻るか」
 宗吾は大きく欠伸をして、めんどくさそうに校舎の方へ歩いていった。
 元々、学校に戻ってきた理由は課題が入った鞄を取りに来たというめんどくさいものだったが、学校に着いてからは益々めんどくささが増したようで、足が鉛のように重かった。
 
(てか......なんで課題なんてものがあるんだか。正直いらないだろ。そんなのは勉強できない馬鹿な奴だけにやらせておけばいいんだ。出来る奴は免除、もしくは更に進んだ問題を解かせればいいのに。その方が効率が良いって分からないのか。これだから日本は勉強が遅れてるって言われるんだよ)

 重い足をのっそのっそと動かしながら宗吾は思う。
 課題なんてものは必要ないと。

(だってそうだろ。出来る問題を繰り返し解いたって何の成長もなければ何の意味もない。時間の無駄使い極まりないじゃないか)
 
 そう毒づきながらも素直に教室に向かっているのには理由がある。
 それは、「課題を忘れると次の課題が二倍になる」という謎の制度だった。
 ただでさえ、面白くもなんともない課題をやるのは苦痛だというのに、それが一回忘れたぐらいで二倍に変わるなんて地獄過ぎる。なにより宗吾にとって、課題をやっている間、新しいこと━━━未知に触れないなんて拷問にも程があった。

 と、そこで宗吾は唐突に足を止め、咄嗟に木陰に体を隠し耳の感覚を研ぎ澄ませた。
 まるで圭子に背後をとられた時のような悪寒がしたのだ。
 問題児と呼ばれる友人達に研磨された直感に従った結果だった。
 
「......」

 暫し静寂が流れ、やがて、足音と共に雑音が耳に入った。

 宗吾は静かにポケットに手を入れ、耳に全感覚を集中させた。

「では、先生......はこれで」
「ええ。......のことは是非とも黙秘でお願い......」
「............」

 距離があるにも関わらず小声で話しているためか中々聞き取れない。分かったことと言えば、先生と呼ばれる誰かともう一人、男が何かを話してるぐらいだ。

 チッ。と、宗吾が内心舌打ちをした時だった。
「分かってますよ。理事の孫の命令とは言え、先生側としても生徒に嘘をついていたことはばれたくないでしょうからね。にしても大野秀生様々ですな。こうも簡単に怪しまれずに命令を実行できるなんて」
「確かに、理事の孫が突然あんな命令を出してきたときはどうなることかと思いましたが、大野のおかげで救われた感がありますな。適当に上にバレたとか言っとけば信用を落とさず目的を果たせますし。しかし、ホントにあの命令は何だったんだか」

 回りに誰もいないと安心したのか、もしくは人間の心理的に目的達成直前だから安心したのかしらないが急に大きくなった声に、何の話だと宗吾は首を傾げた。
 しかし、次の言葉でその表情は疑問から驚きへと変わっていった。

 少し経って会話が終了したのか、過ぎ去っていく足音を聞き、へたりとその場に崩れ落ちた宗吾はポケットに手を入れ、録音させていたボイスレコーダーを再生させながら複雑な表情で呟いた。

「理事の孫が何故、雨宮楽斗の制服を変えろ、なんて頼んだんだ。......分からなさすぎる」
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