姉より可愛い弟なんて存在する筈がない

tohalumina

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make a break 1

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(もう十一時か)

 自室で授業の予習を兼ねた復習やっていた流音はふと時計を見て、シャーペンを握っていた手を止め、うーんと大きく伸びをした。

(やっぱ、集中すると時間って過ぎるのが早いなぁ......)
 大きく伸びをしたことによってか、目の端に溜まった涙を片手で拭いて改めてそう思った。

 十一時、つまり二十三時ということは、玄関で気絶した楽斗を抱き抱えリビングのソファーに寝かせた後、自室で勉強をやりはじめてから既に約四時間経っている計算になる。

 ......にしては早すぎる。

 いつも思う。
 学校で嫌いな授業を聞いている時は遅く感じるのに楽しいことや集中している時は圧倒的に早く感じるこの差は一体何なんだ、と。
 以上のことから、楽しいことだけの人生を送るより、つまらないことだけの人生を送った方が寿命は伸びるのかもしれない。......あり得ないことだし、あり得たとしてもつまらないことだけとか生きている意味あるの?って話だが。

 ってまさか......時間が私を苛めているのか!?個人的に時の神の恨みを買った覚えなんて無いんだけど......。

 ......もしかしたら時計が壊れているだけかもしれない。うん。きっとそうに違いない。
 時計が壊れているだけだとしたらこの異様な時間の早さに説明がつく。

 なんて事を考えた流音はチラッと目を時計に向けた。
 しかし、時計の針は想像に反してチクタクと秒単位で時を刻んでいる。

 ............もしかしたら、時計の時間がちょっと早くずれているだけかもしれない。

 家にある時計は俗に言う電波時計ではなく、手動で時間を合わせてから使うアナログ型だ。そのため、その可能性は決して高くはないがゼロではなかった。

 思い立ったら即決行。すかさず、流音は鞄から携帯を取り出し、そこに映される時刻を見て、ズーンと肩を落とした。

「はぁ......まぁ当たり前といったら当たり前なんだけどね............って、ン?メール?誰から......?」

 鞄に入れていたため気づかなかったが、どうやらメールが届いていたようである。
 時間の事を考えていて、勉強のやる気がすっかり萎えてしまった流音は、「今日はここまで」と区切りをつけ、続きは明日やることにして、そのままベッドに仰向けに転がりメールを開いた。

【from】ohtorisougomitigahoshi@abcd.mail.ne.jp
【件名】
 作戦開始について
【本文】
 とりあえず明日午前九時に学校に来てくれ。場所はいつもの教室で。作戦を開始する!


 うん。どうやら明日も予定が入ってしまったようである。これでは勉強の続きをやる時間が。......まぁ、勉強はもういいか。勉強より作戦の方が絶対面白くなる気がするし。後始末は大変だけど。

 そんな事を考えながら、流音は携帯の電源を落とすと重い目蓋を重量が赴くまま、自然のままに落とし、闇の世界へと呑まれていった。


 土曜日、午前五時三十分。

 昔みたいに土曜に学校があるわけでも、何らかの行事があるわけでもない休日だと言うのに、全く生活リズムを乱さずいつも通りの時間に起床した流音はゴシゴシとパジャマな裾で右目を擦りながら、ボーっと左目で起きたときに反射的に開いてしまった携帯を眺めていた。

 繰り返すが、現在の時刻は午前五時三十分である。そのため、昨日メールで一方的に伝えられた約束の時間までは、まだ全然予定があった。

「............走るか」

 目が醒めるに連れ、徐々に脳が動き出した流音の本日の第一声だった。
 なんだか突発的な変案だが、流音は名案とばかりに頷いた。

 他にも「勉強」、「二度寝」という選択肢が浮かばなかったわけでもなかったが、「勉強」は一晩寝たのにも関わらず気分が乗らないし、「二度寝」に関しては一度起きたばかりなのに再度寝るなんてただの時間の無駄使い、と考え瞬発的に切り捨てた流音には「走る」という選択肢しか残されていなかったのだ。

 「思い立ったら即決行!」......をモットーにしているわけではないが、中々に素早くパジャマを脱ぎ捨て、タンスの奥に眠っていた運動用のジャージに着替える。

 人目を人一倍気にする流音が、普段人前では絶対に疲労することの無い、もはやタンスの主、否ッ!守り神と化しているジャージを着用することには多少抵抗があったが、こんな時間に人とすれ違うなんてことは殆んどないだろうし、例え、すれ違ったとしても、その人か「雨宮流音」と認識しなければ別に問題はない。
 そう問題は知り合いとバッタリ出くわしてしまうことなのだ。━━━だが、何度も言うように時間が時間。流石に起きている人は居ようとも朝から走ろうと考える人は居ないはず。以上のことから知り合いと会う可能性はほぼ皆無に等しいだろう。
 ......ならば、普段履き慣れているオシャレ重視の格好よりも、機能性抜群なジャージの方が何かと便利。
 流音がジャージに着替えたのは、そう考えた結果だった。

「よし」
 すっかりパジャマ姿からジャージ姿へと着替え終えた流音は、何が「よし」なのか自分で発しといてなんなのだが分からないまま、自室のドアを開き、廊下に立て掛けてある全身を映すほど大きな鏡を見て、自分の髪がボサボサなことに気づいた。

 ......え......解かすのめんどくさ......。まぁ、帽子被っておけば大丈夫でしょ。

 学校では完璧と称されている年頃の━━━華の女子高生からは、とても思えない台詞を吐いた完璧女子高生である流音は、廊下に掛けてあった無地のキャップを深く被り、玄関から外へと飛び出した。
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