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第1楽章 吹奏楽部と入学式と仮入部
第5小節 仮入部マジックその2 リード編
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「サックス希望の子?」
サックス…?あの金の楽器のことか?
「その金の楽器ですか?」
「そうだよ。」
「そうです。サックス希望です。」
いかにも温厚そうな先輩だった。
その横で男の先輩がニコニコしている。
「えっと…私がこのサックスパートでパートリーダーをしてます。大里千尋です。ちなみにアルトサックス吹いてます‼︎」
やたら大里千尋とアルトサックスだけアクセントをつけたがこれは勧誘の技なのだろうか?
「それでこっちが…」
「俺は田沼健太だ。サックスパート唯一の男子部員。中学にあるサックスの中で一番大きいサックスのバリトンサックスを吹いてる。」
「これ、バリトンって言うんだ…」
小声で言ったのを聞こえたらしく先輩2人はクスクスと笑っている。
「あの…中学校で一番大きいってこのバリトンサックスより大きいのがあるんですか?」
初めて使う言葉にしてはすんなり抵抗なく使えた。そして僕の今思った疑問をぶつける。
「えっと…サックスは主に4種類。
ソプラノ、さっき言ったアルト、テナー、でバリトン。」
「はい… 」
「さらにカーブドソプラノ、ソプラノ、ソプラニーノ、アルト、テナー、バリトン、バスっていうのに分かれてるの。ちなみにうちの学校にあるのは主要四種類、つまり最初に言った四種類ね。」
「そうなんですか… 」
頭の中がパンクしそうだった。ソプラノ、アルトは想像できても聴き慣れていないというか聞いたことのないテナーやバスは全く想像できない。
そして横にいるバリトンの先輩でさえ、そんな種類あったかなぁと首を傾げている。
「カーブドソプラノなんて種類あった?」
「健ちゃんはバリトンだもんね。それにセルマーやヤマハだと売ってないし。」
「へぇ… 」
とこんな感じだ。それよりもセルマーってなんだ?だがそれよりも先輩たちの仲が気になる。付き合ってるのか?
「先輩たちって仲良いんですね。」
「うちは基本みんな下の名前で呼ぶからね~。君も慣れといたほうがいいよ。ってあれ?名前聞いたっけ?」
「すいません… 名乗ってないです。
僕は葛城真一って言います。」
「真一くんでいい?」
「はい。お好きなように呼んでください。」
「おっけー。それじゃあ行こうか。」
「えっ?どこにですか?」
「さては忘れたな?」
といたずらな笑みを浮かべて言った。
ここは素直に着いて行く。自覚できるほどおぼつかない足取りだったがなんとかそこにつけたようで。
「ジャジャーン‼︎ 」
と千尋先輩は自慢げだった。一方の健太先輩はというと楽しそうな千尋先輩をやれやれといった表情で見ていた。
「えっと… 真一くん、これがテナーサックス。でさっき説明したアルトとバリトンどれがやりたい?」
そこにはアルトサックスを少し大きくしたような楽器がケースと思わしき物の上に置いてあった。
「とりあえず…アルトサックスがやってみたいです。」
「おっけー。じゃあこっち来て座って。」
と丸い木製の椅子にを指差していたので、迷わずそこに座る。
「とりあえずこれ舐めて。」
「えっ⁈これをですか?」
先輩が渡して来たのは間違いなく薄い木の板だった。だが横にいる先輩はなんの躊躇いもなく舐めている。思い切って口に入れてみると… 苦っ!!!
と思っていても口には出せず、ただただ辛い時間となった。これには流石に先輩も気づいたらしく
「大丈夫?」
と声をかけてくれた。
「は、はい。なんとか… 」
先輩はちょっと貸してと言ってその木の板を取ると
「これはしょうがないね。」
となぜか僕に同意した。
「どうしてですか?」
気になったことをぶつけてみる。
「この木の板、リードって言うんだけど。さっき開けたばっかなの。乾燥した木を舐めてるようなもんだから苦いのはしょうがないよね。」
「先輩は慣れたんですか? 」
「新品は慣れてないかなあ。1ヶ月くらい使うと苦くなくなるんだけどね。今日はこのリード使うのやめよう。」
「い、いやそこまででは。」
「真一くんのせいじゃないよ。新品のリードは硬くて使いにくいから、初めて吹く人にはなかなか向かないの。」
「では何を使えば… 」
「しょうがないから私の下ろすか。」
と平べったく小さなケースからリードを取ると今度はこれをと言わんばかりにこっちに差し出した。
「こ、これを舐めるんですか…? 」
「真一くん潔癖症だった?」
「い、いえいえ全然全くこれっぽっちも違うんですが、むしろ先輩の方が色々大丈夫なのかなと。」
「気にしないで。未来の後輩のためだもん。」
今度はえっへんといった表情でこっちを見ていた。
同じように舐めてみる。今度は苦くもなく、ほのかに木の残り香というか味というかがあるだけだった。
「リードってこんな味になるんですね。」
「くせになるでしょう?」
「は、はい。」
とノリで同意してしまったがこれは完全にアウトだったと後になって気づく。
「あはは。真一くんって実はムッツリだったりして。」
「そんなんじゃないですよ。」
と適当にごまかしておいた。
「じゃあそのリード貸してくれる?」
「えっ⁈ あっ!はい。」
今度は何をするのかと思いきや、黒いものと金のリングの間にそれを挟んでから、
「それじゃあ、これにフーーって息を入れてみて?」
と笑顔で渡してきた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
今回はサックスについて。仮入部期間なのでほかの楽器にもちょっとは触れたいと思ってますが。
ちなみにリードを舐める行為を最初、びっくりしたのは本当ですが流石に先輩にからかわれるような行為はしてないですよ笑
サックス…?あの金の楽器のことか?
「その金の楽器ですか?」
「そうだよ。」
「そうです。サックス希望です。」
いかにも温厚そうな先輩だった。
その横で男の先輩がニコニコしている。
「えっと…私がこのサックスパートでパートリーダーをしてます。大里千尋です。ちなみにアルトサックス吹いてます‼︎」
やたら大里千尋とアルトサックスだけアクセントをつけたがこれは勧誘の技なのだろうか?
「それでこっちが…」
「俺は田沼健太だ。サックスパート唯一の男子部員。中学にあるサックスの中で一番大きいサックスのバリトンサックスを吹いてる。」
「これ、バリトンって言うんだ…」
小声で言ったのを聞こえたらしく先輩2人はクスクスと笑っている。
「あの…中学校で一番大きいってこのバリトンサックスより大きいのがあるんですか?」
初めて使う言葉にしてはすんなり抵抗なく使えた。そして僕の今思った疑問をぶつける。
「えっと…サックスは主に4種類。
ソプラノ、さっき言ったアルト、テナー、でバリトン。」
「はい… 」
「さらにカーブドソプラノ、ソプラノ、ソプラニーノ、アルト、テナー、バリトン、バスっていうのに分かれてるの。ちなみにうちの学校にあるのは主要四種類、つまり最初に言った四種類ね。」
「そうなんですか… 」
頭の中がパンクしそうだった。ソプラノ、アルトは想像できても聴き慣れていないというか聞いたことのないテナーやバスは全く想像できない。
そして横にいるバリトンの先輩でさえ、そんな種類あったかなぁと首を傾げている。
「カーブドソプラノなんて種類あった?」
「健ちゃんはバリトンだもんね。それにセルマーやヤマハだと売ってないし。」
「へぇ… 」
とこんな感じだ。それよりもセルマーってなんだ?だがそれよりも先輩たちの仲が気になる。付き合ってるのか?
「先輩たちって仲良いんですね。」
「うちは基本みんな下の名前で呼ぶからね~。君も慣れといたほうがいいよ。ってあれ?名前聞いたっけ?」
「すいません… 名乗ってないです。
僕は葛城真一って言います。」
「真一くんでいい?」
「はい。お好きなように呼んでください。」
「おっけー。それじゃあ行こうか。」
「えっ?どこにですか?」
「さては忘れたな?」
といたずらな笑みを浮かべて言った。
ここは素直に着いて行く。自覚できるほどおぼつかない足取りだったがなんとかそこにつけたようで。
「ジャジャーン‼︎ 」
と千尋先輩は自慢げだった。一方の健太先輩はというと楽しそうな千尋先輩をやれやれといった表情で見ていた。
「えっと… 真一くん、これがテナーサックス。でさっき説明したアルトとバリトンどれがやりたい?」
そこにはアルトサックスを少し大きくしたような楽器がケースと思わしき物の上に置いてあった。
「とりあえず…アルトサックスがやってみたいです。」
「おっけー。じゃあこっち来て座って。」
と丸い木製の椅子にを指差していたので、迷わずそこに座る。
「とりあえずこれ舐めて。」
「えっ⁈これをですか?」
先輩が渡して来たのは間違いなく薄い木の板だった。だが横にいる先輩はなんの躊躇いもなく舐めている。思い切って口に入れてみると… 苦っ!!!
と思っていても口には出せず、ただただ辛い時間となった。これには流石に先輩も気づいたらしく
「大丈夫?」
と声をかけてくれた。
「は、はい。なんとか… 」
先輩はちょっと貸してと言ってその木の板を取ると
「これはしょうがないね。」
となぜか僕に同意した。
「どうしてですか?」
気になったことをぶつけてみる。
「この木の板、リードって言うんだけど。さっき開けたばっかなの。乾燥した木を舐めてるようなもんだから苦いのはしょうがないよね。」
「先輩は慣れたんですか? 」
「新品は慣れてないかなあ。1ヶ月くらい使うと苦くなくなるんだけどね。今日はこのリード使うのやめよう。」
「い、いやそこまででは。」
「真一くんのせいじゃないよ。新品のリードは硬くて使いにくいから、初めて吹く人にはなかなか向かないの。」
「では何を使えば… 」
「しょうがないから私の下ろすか。」
と平べったく小さなケースからリードを取ると今度はこれをと言わんばかりにこっちに差し出した。
「こ、これを舐めるんですか…? 」
「真一くん潔癖症だった?」
「い、いえいえ全然全くこれっぽっちも違うんですが、むしろ先輩の方が色々大丈夫なのかなと。」
「気にしないで。未来の後輩のためだもん。」
今度はえっへんといった表情でこっちを見ていた。
同じように舐めてみる。今度は苦くもなく、ほのかに木の残り香というか味というかがあるだけだった。
「リードってこんな味になるんですね。」
「くせになるでしょう?」
「は、はい。」
とノリで同意してしまったがこれは完全にアウトだったと後になって気づく。
「あはは。真一くんって実はムッツリだったりして。」
「そんなんじゃないですよ。」
と適当にごまかしておいた。
「じゃあそのリード貸してくれる?」
「えっ⁈ あっ!はい。」
今度は何をするのかと思いきや、黒いものと金のリングの間にそれを挟んでから、
「それじゃあ、これにフーーって息を入れてみて?」
と笑顔で渡してきた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
今回はサックスについて。仮入部期間なのでほかの楽器にもちょっとは触れたいと思ってますが。
ちなみにリードを舐める行為を最初、びっくりしたのは本当ですが流石に先輩にからかわれるような行為はしてないですよ笑
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