いつも伴奏な僕に主旋律を

ゆず太郎

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第1楽章 吹奏楽部と入学式と仮入部

第9小節 スケールとロングトーンと小さな決意

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だが思っていたよりも現実は甘くはなかった…
今はもうゴールデンウィーク真っ只中で無事にパートも決まり、その中での楽器も決まった。結果からいうと僕は
サックスパートに入ったわけだが、その中でも一番大きなバリトンサックスという楽器を吹くことになった。

「これからペア練を始めます。」
「お、お願いします。」
「そんな緊張しなくてもいいぞ。」
こちらは一緒の楽器を吹いている3年生の田沼健太先輩。すごくパワフルな音を出し、Aグループをまとめている。(Aグールプについては用語解説を参照)
「それで今日は何をするんですか?」
「とりあえず、ロングトーンかな。
まずB♭durの8拍4拍から。」
「はい。」
メトロノームのカチカチという音に合わせ吸って、吐いてを繰り返す。
それを横で吹いている先輩は平然と繰り返すが、僕はまず構えているのが辛い。何しろこのバリトンサックスという楽器は8kg以上もあるのだ。それを首だけで支えている。慣れれば簡単なのかもしれないが初めて一週間ちょっとの今の僕には無理だ。4拍吸って8拍で吐けばいいだけなのだがそれがやたらきつい。一週間でようやく8拍、吐けるようになったのだ。最初は音を出すことすらままならなかったのに。
といっても今でも怪しいところはあるが…
「やっぱり音が薄いな。もう少し太く吐けるといいんだけど、とりあえず来週までの目標。」
「は、はい。」
よくよく考えたら、音が薄い……ってどういうことだ?音に太いとか薄いとかあるの?まぁなんにせよやってみるしかない!!!
という風に脱線した思考を元に修正したのは田沼先輩の声だった。
「じゃあ次、Bdurのスケール。テンポは72で。」
「はい。」
カチカチとなるメトロノームにさっきやったロングトーンの指を合わせて動かす。B♭からCに、CからDにと。

一見バス楽器には必要なさそうに見えるが、このスケールが後々になって超大切だということをこの後僕は身をもって知ることとなる。

 2回ほど上昇下降を繰り返してから先輩が口を開いた。
「さっきも言ったけど、やっぱり音が薄くなる。もう少ししっかり息を入れよう。あと途中からだんだん遅れてくる。それは運指を覚えて練習していけばいいと思うよ。」
「は、はい。」
一週間でなんとかB♭durとE♭durの指は覚えられたが、それ以外はまだしっかりとは覚えられていなく、どっちがどっちだかわからなくなる。
「じゃあ後は個人練かな。ちゃんと息入れれば楽器もそれに答えてくれるから。とりあえず今はしっかり息を入れることだけ意識しろよ。」
「はい。」
先輩の言葉には棘が全くなく先輩らしい包容力と説得力があった。とても安心できる。そしてやる気にもなる。
僕は心の中で小さな決意をした。
僕もこの先輩みたいになろう、と。
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