桜稜学園野球部記

神崎洸一

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「小田原城東だな」
「準決勝まで来たんだし関東大会進出は固いけどな」
「それ以前に俺が最も苦戦した相手だしな」
「連合や横大神奈川よりもか?」
「連合はともかく横大神奈川戦は夏も秋も打ってるんだよ」
「日下部-時田のバッテリーははっきり言って夏のときより強いしな」
「まあそういう仕来たりらしいしな」


「神奈川県大会もいよいよ佳境を迎えて準決勝となりました」
「三塁側は新進気鋭、秋は僅か4失点の桜稜学園」
「一塁側には小田原城東。非常に総合力の高い纏まりのあるチーム」
「さあ今プレイボール」


「1番の長宗我部、さてどう来るか」 
「舐められたものだぜ!」
「初球とらえた!三塁線深いところ…フェアだ!」
「おいおいおいおい」

「一条も初球を打ってくる!外角真ん中のボール球!見事に流してライト前!長宗我部は三塁へ!」

「3番バッター橋本将輝はフォークを掬い上げる!」
(わずか3球、それも全部違う球種なのに…)
(まぐれだ、まぐれ) 
「センター釣のバックホームを待たずして三塁ランナー生還で先制点です」

「中之島くんはここまでと打って変わってカット打ちで粘ってきます」
「もう投げる球ないやろ!とっとと歩かせろ!」
「そうだそうだザコが!」
(できたらやってんだよ!)
「高めボール球打ってファウル、カウント0-2変わらず、中之島くんへの18球目!」
「セカン!」
「打ち損じた球は一二塁間ファースト生駒のファインプレー!」
「もらうぞもう一点!」
「三塁ランナー一条ホームへ突っ込む!生駒はバックホーム!」
「あっと激突!交錯!キャッチャー時田くんの脚とタッチを避けようとした一条くんとが衝突!」
「っしゃあ!二点目だ!」
「あの野郎の神経は図太すぎるんだよ」
「ちゃっかり三塁に来たお前が言うな」 
「一条くんは元気にベンチへ向かいましたが時田くんは大丈夫でしょうか、脚を抑えたまま…あっと担架です!交代です!」

「なんでプロテクター付けてたあいつは退場でお前はピンピンしてんだ」
「さあ?あいつがヤワなだけだろ、俺はさして痛くなかったし」
「コリジョンあるのになんでぶつかるんだよ」 
「あんな所にいた方が悪い」 
「元凶はお前が突撃したせいで出た焦りだろうけどな」
「油断したアイツが悪いんだよ」
「大丈夫なのかい?」
「今は痛くないし病院とか行くのは試合後でも遅くはないだろ、というか俺としては4番を消せたことの喜びのほうがデカいぜ」
「クズだこいつ」


「鶴岡はレフトへの犠牲フライ、続く財前、江島と抑えてスリーアウト」
「やっぱ相手としてはキャッチャー変えてよかったんじゃないか?」
「答えにくい問はやめてくれ」

「1番 センター 釣くん」
「我々としては抑えて勢いを潰したいところだが」
「あの顔を見にそうはいかんだろうな」
「6球目打った!右中間!」
「やべぇな」
「ツーベースで出塁しました小田原城東!」
「流れがどうなるかだよなあ」


「2番押上には四球を与えて一塁二塁、ここで3番投手の日下部」
(ランナーを進めるためには…)
「初球打ってでる!流し打ちでライトへ!」
「無駄じゃあ!」
「中之島捕った!一塁踏んでツーアウト!」
「こっちだ!」 
「ふざけるな!」
「飛び出した二塁ランナー戻れません!トリプルプレー!」

2回の日下部の投球は相棒の時田を負傷退場させた一条に対して引き続き怒っているのかトリプルプレーの鬱憤を晴らしたいのか、はたまた稲野のリードが良いのか、ともかく3人で抑えるには十分なそれであった。
ウラの田村の投球は4番稲野からであった。
しかし稲野三和沖と3人揃ってやはり一条を恨んでいるのか、打球は全てセカンドのもとへ招かれたものであったがしかし一条は涼しい顔して処理したのである。

3回の表、いよいよ諸悪の根源と見なされている一条の打順。確かに日下部の投球はほかと比べ気合いの入っているそれであったが、一条としては「苦手な右投手」程度の認識であることもまた確かであった。
結局一条はまだ秋では1度も投げてはいないナックルを初見で攻略したのである。
そしてクリーンナップは新たに投げ始めたナックルとツーシームに翻弄される形で結局一条は二塁から静観していたのみであった。

そして3回のウラ、先頭の生駒が財前のエラーで出塁。それを皮切りにじわじわと出塁を許すことが増え3回は2人残塁、4回には3者残塁そして5回には1失点をしたものの2人残塁で逃げぬく粘りの投球をみせた。
一方野手はというとまたしても一条が打ったのみでそれ以外はロクに外野にすら飛ばぬという有り様であった━━━

6回
中之島が先頭で出塁も後続が続かなかった桜稜学園とは逆に小田原城東は先頭の沖に盗塁、続く生駒の送りバントで三塁まで進められ8番井領のタイムリーで更に失点を犯す。

3人で終わった7回表のあと、7回ウラ。
ここでまたしても財前のエラーでランナーが出、そこから財前の動きは固くなる一方になり、バント処理で悪送球するなどしてしまい同点。

第四打席を迎えた一条はライトで9番の塹江にダイビングキャッチを喰らい出塁ならず。そして橋本中之島と安打も鶴岡の併殺により水泡に帰してしまう。


「桜稜学園高校、守備の交代をお知らせいたします」

セカンドの一条が三塁へ、二塁手の守備位置には鶴岡が、後詰めとしてマスクを被るのは背番号2の北と発表される。
「両チームでキャッチャー変わるのって珍しいよな、なあ財前?」
「知らねーよ」


8回先頭はラストバッターの塹江から
引っ張り打ち、打球は替わったばかりの一条のもとへ。
「ダイビングキャッチでサードライナー!守備の名手一条は三塁でも魅せます!」

「やっぱ内野守備は上手いよなアイツ」
「あいつの1番凄いところは打撃でも走塁でもなくてあのクオリティのプレーを内野の6ポジション全てで出せるところなんだよ」
「異常やな、やっぱ」
「お前ほどではないぞ」

しかしその後今日2安打の釣、3回出塁の押上に連打を浴び、ここで代打の泉。

(おれの、おれのこれからの高校野球は…この一打に懸かってるんだぁぁぁぁぁ!)
快音。センターのバックホームは、間に合わない…逆転。その事実がのしかかる。


「踏ん張れる思うてたんやけどなぁ…」
「タイム!」
「監督、ぼく…」
「飛鳥、お前」
「一条くん、やれるか?」
「うす!」

ピッチャー替わって一条。三塁には南。

「三和!空振り三振!スライダーに手も足も出ず!」


(頼む、俺に繋いでくれ…!)
しかし、それは雲散霧消する。
最も頼りにしていた北が打ち上げた時点で悟ってしまったのではあるが、結局奇跡はなく、三人で攻撃は終わることになり、3-4の黒星。「神奈川3位」としての関東大会出場を祈るのみとなった。
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