桜稜学園野球部記

神崎洸一

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「は~めっちゃ客おるのぉ、関東大会ってのはこんなもんなんか?」
「1つ、これは開幕戦であること、2つ、次の試合は夏の甲子園出場校同士の対決であること」
「ワイらはオマケかいな」
「まあ、そうなるな」
「相手の先発は11番の米。1年生ながらにアンダー寄りのサイドスローから繰り出されるスライダーとシンカーで''右殺し''として夏も秋も要所で抑えてきた投手だ」
「秋からは右打者の多いチーム相手に先発して抑えてるな」
「左が中之島と田村しかいないウチには極めて有効だろうな」
「幸か不幸か先発は田村だ。まあ、期待するしかないな」


「一塁側、開催地枠の神奈川3位として出場する桜稜学園」
「おーっす!」
「三塁側には山梨2位の大月高校」
「ウォォーッ!」
「いま、プレイボール」



「さ、落ち着いて処理していくか」
田村はその言葉通り打たせてとる投球で財前が守備にもたつき一塁を踏ませた2番打者大上含む4人すべてを内野ゴロに打ち取りスリーアウト

その裏、三球三振に倒れた長宗我部の言葉通り三塁からの送球みたいなノリからの投球に苦戦すると思われたが2番を打つ一条がスライダーをショートライナーに倒れたとはいえ真芯で捉えるという誰も予測しえなかった事が起こる
結局橋本も三振してスリーアウト

2回の表
5番犬飼が三遊間を破る強烈なゴロで出塁もむなしく次の一塁を守る乗船は補邪飛、その後五鬼上がセカンドゴロでこれが併殺となりチェンジ

その後の桜稜学園の攻撃は先頭である中之島がファーストライナーでアウトになるとそこからは極めて早く、鶴岡は初球のシンカーに手が出てピッチャーゴロ財前は2球でショートフライとなりあえなく終了

3回に突入し両チーム下位打線からの攻撃
田村は8番遊撃の弓立から米、南条と始まる3人を危なげなく内野ゴロに退け、その裏は江島神崎と三振が続き田村は球を捉えたはいいもののライトを守る大上にファインプレーが出てまたもや三者凡退のイニングとなる
合計で僅か2安打に終わるも両チーム共に攻略の糸口は見えてきている、そんな序盤の3イニングだった

4回ウラ、表を4人で抑えた田村にとっては想定よりかなり早い段階での援護が現れた。
先頭の長宗我部が三塁線への強いゴロを放ち、これが三塁手酒井の真横を通り抜け初安打。
続く一条は三遊間への打球。ショート弓立のファインプレーかと思われたが打球は弾かれ思い切り三塁方向へ転がりまた出塁。
3番橋本はスイングアウトで一度立ち止まるものの中之島がタイムリーツーベースで2点先取し5番鶴岡が死球で一塁二塁のチャンスを迎えて財前。
財前の打球自体は何の変哲もない右打ちした結果のライト前外野のちょっとしたフライであった。しかし、打球を追っていた二塁の高良が追い付けず彼の右後ろへ落ち、ダイビングキャッチを試みた彼は醜態を晒すはめになってしまう。それどころかお手玉を披露してしまいまた2点。財前は二塁を手中に納めていた。
それと前後してマウンドの米は余裕が無くなってきていた。ストライクが思うように入らなくなってきたのだ。確かに鶴岡への死球は過失と言えた。しかし財前にはボール先行のカウントだったし、江島にはフルカウントまで漕ぎ着けるものの歩かせ、神崎には結果ストレートのフォアボールを与えてしまったのだ。そして左打席に立つ田村を迎えた。

投手交代。大月から告げられたのはそのコールだった。背番号10を背負う2年生の翔垣。トルネード投法のオーバースローをした右投手である。
しかし、継投は功を奏することはなかった。
田村はセンター返し、これは有利な田村であったし仕方がないという空気が流れてはいたが長宗我部のピッチャー返し。これに翔垣はマウンド上ファンブル。それぞれ1つずつ進塁しており早々と2点を失う。そして一条はここまでで弱点を見いだしていた。トルネード投法を用いている投手は背中側から利き手が見えることがある。例えば野茂英雄でもそうだったらしい。一条は「小指が立っていれば直球、人差し指と中指が見えたらスローカーブ、そして指が見えていないならばスプリットである」と見抜いていた。そしてそれは事実であった。
一条はスローカーブを高々と打ち上げて犠牲フライ。打席に向かう橋本そして中之島、更にはその他の連中に教えてやるためにわざと打ち上げたのだ。
助言を得た橋本は2塁打で1点、さらに中之島、鶴岡と連打となり満塁。それを得意とする財前は初球左中間を真っ二つに割る大当たり。中堅犬飼のファンブルもあり走者一掃の二塁打。更には江島にはホームランを叩き込まれて2点。ここまでで8失点の大炎上を見せる翔垣だったがここまで通算ノーヒットの神崎を抑えることなら出来るだろうと続投を決意されていた。もっとも、エース藤田への時間稼ぎになるとも思われていた4回の裏。6番乗船からとはいえど3点くらい望める連中だと確信していた。
さて、ひとえに打率が正真正銘のゼロである神崎といえども来る球種が分かりさえすれば打てないこともないのだ。レフト五鬼上とサードの酒井の中間地点に落下する打球は二人の連携ミスも絡み落球。神崎の初安打が誕生したのだ。田村にもまた打たれ、エース藤田の登板である。
待ちに待った左投手。それに胸踊らせた一条だったが藤田の好投の前にあっさり長宗我部が三振して一条の夢は敢えなく散ったのだった。

さて、5回表。
田村は6番からの打順を先頭の乗船に安打を許すはめになりはしたが7番8番の五鬼上弓立を打ち取る。打力も一流で普段は3番を務めるらしい藤田、これにも打たれて初めて二塁を踏ませるが先頭の女房役である南条を軽く打ち取って試合終了。

「ゲームセット!5回コールドで関東大会開幕戦を制したのは神奈川県桜稜学園高校となりました!」
「ダークホースでもあるため、躍進に期待です」

ラジオの実況と解説がそう告げて次の試合情報を伝えてニュース番組へとチェンジした。
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