ボクは犬(仮)

来季

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幼なじみ

休日

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会食からの帰り道、桜ちゃんと未鼓さんは難しそうな話をしていた。


業績がどうとか、あの企業が狙い目だとか、僕には全くわからない世界だった。


「マナ、疲れたか?」



「ううん。楽しかったよ。やっぱり桜ちゃんって凄いんだね。」



「そんな事はない。皆褒めていた。モデルがカッコイイと。私も鼻が高い。いい幼なじみを持った。」



ありがとう



桜ちゃんはそう言って僕の頭に2回手を乗せた。


自分の方が疲れているはずなのに、こんな時まで余裕を持った桜ちゃんの態度に僕は感心するだけだった。


心の中で桜ちゃん大好きー!!!!!
と叫びながらなるべく小声になるように僕もありがとうと呟いた。


帰宅したのは0時ギリギリだった。


「メンテナンスはこなしてもらう。じゃあ、私は残りの仕事をする。」



「うん。わかった。お休みなさい。」


桜ちゃんのこういうストイックな所が僕は好き。


こんな日くらい、そんな事を桜ちゃんは口にしない。


だから成功するのだと思う。


だから僕もそれに合わせる。


今日はリフトアップの日だった。
ゴリゴリと骨まで砕かれるのではないかという強さでマッサージをされる。


それなのに、30分も経つと強烈な眠気に襲われた。

1時になる頃には熟睡していた。



「椎樹さん、施術終わりましたよ。」



「えっ、あっ、うぅ、僕寝てましたね。ごめんなさい。」



「仕方ないです、疲れているんでしょう。」

僕は口の端のヨダレを拭いて部屋を出た。


カタコトと、僕の部屋の隣から物音がした。


桜ちゃんはまだ仕事かぁ


僕は1階へ降りキッチンへ入った。


桜ちゃんが僕によく作ってくれた、とびきり甘いはちみつミルク。


桜ちゃんの部屋の扉をノックする。



「誰だ。」



「僕、、、、。」



ガチャ


扉が開いた。
 
「まだ起きていたのか。もう1時過ぎているぞ。」


「あの、、、、これ。」



「ん?」



「はちみつミルク。」



「作ってきてくれたのか?」



「うん。あの、僕ちゃんと寝るから、仕事頑張ってね。」



「ありがとう。明日、、、もう今日か。今日は休みだからな、ゆっくり休むといい。お疲れ様。」

僕の頭をポンポンとして扉を閉めた。


桜ちゃんがいつも使っている机の上には山積みの資料があった。

きっと今日は徹夜なんだろう


僕は自分の部屋に戻り眠りについた。



休みの日には7時間の睡眠が義務付けられていた。


この日眠ったのは2時少し前。


明日は9時頃に起きなきゃなぁ~


そんな事を考えていたのに僕が目を覚ました時、目の前に桜ちゃんがいた。


「えっ!?えっ!?桜ちゃん!?」


「いつまで寝ている気だ?休みだからって怠けすぎじゃないか?」
  


「え?いつまでって?今、、、、。」


「12時だ。昼ご飯が出来たから起こしに来た。」


僕が飛び上がると桜ちゃんは危ないなぁと言いながら腕を組んだ。


「嘘、そんなに寝てたの!?嘘、ごめんなさい。」
 

「撮影がないからといって全て投げ出していいとは言っていない。午後からでいいからジムに行け。あと、寝る時は必ずマスクをしろと言っただろう。湿度は70度に保てとも言った。」



「はい。すいません。」


「次同じ事を繰り返したら2か月間50パーセントの減給だ。いいな?」




「はい、わかりました。」


僕は深く頭を下げた。


桜ちゃんは僕が頭を下げる仕草を見ることも無く部屋を出ていった。


ちゃんとしないと


僕は身なりを整えて1階へ降りた。



「おはようございます、椎樹さん。良く眠られましたね。」



「未鼓さん、おはようございます。」


僕が食卓テーブルに付くと次々と料理が出てきた。   


「マナ、私は夕方から出掛ける。夜は必要か?」



「あっ、うん。何処にも行く予定はないよ。」


「かしこまりました。では、夕食の準備をしてから出発しましょう。」


「あっ、えっ!?僕だけの分ならいらないよ!?いいよ、大丈夫。」



「なら、400キロカロリー以内の食事を摂ること。それだけ守れ。」



僕は何度も頷いた。
 


僕と桜ちゃんと未鼓さんで昼食を摂り、14時にそれぞれ出掛けた。



僕はジムへ行き2時間体を絞った。


桜ちゃん何の用事だろう~
夜ご飯もいらないって事はまた会食?


結局、僕の立場ではそこまでは踏み込めない。
踏み込んでいいのかもしれないけれど、桜ちゃんはそれを望んでいない。


桜ちゃんは飼い主で僕は飼い犬。
僕はただ静かに待つだけ。



もどかしいけれど、そうする事でしか傍にいられないのも事実だった。


だから、僕は求められている事に忠実に答えなければいけない。



そう、今日の夕食を400キロカロリーに抑えること、とか。



「あぁー!!!マナ君ー!!!」



「あぁー!!!!何してるのー??」



ブラブラと歩いていると遠くから女の子達が手を振って走ってきた。


あっ、、、、


僕が校門前で車を降りるといつも待っていてくれる人達だった。



「あ、こんにちは。」


「マナ君一人ー?これからご飯行くんだ~!一緒に行こうよ!」


「私服のマナ君もカッコイイ~!」

僕の両腕にしがみついてきて僕の動きを塞いだ。


「土曜日にマナ君に会えるなんて~!」


「ねぇー!ほんと運いい~。」


僕の意志とは全く関係なく2人の力で前へ引っ張られた。


「あのっ、ちょっ。」



どんどん引っ張られて、何だかよくわからない店の前に来た。


「マナ君パンケーキ食べられる?」


「あぁ、いや、今日400キロカロリーに抑えなきゃいけないから無理だよ。」


「えぇー!そんなに厳しいの!?モデルって大変なんだねっ。でもさ、でもさ?一食くらい大丈夫だよ!ねぇ?」



「うん!まだ17時だし大丈夫大丈夫っ!」


「いや、それが、ダメなの。たった1回でも、ダメなんだよ、、、。」



僕がなんと答えようとも、2人はほぼ無理やり店の中へ連れ込んだ。


ソファー席に座らされ、インスタ映えのやつというメニューを頼まされた。


困ったなぁ


「マナ君!マナ君!写真撮ろう!」



「インスタ上げていいの??」


「あっ、ダメかな?許可取らないとSNSへはアップ出来ない契約で、、、、。」


「えぇー、じゃ裏垢にするから!」



「いや、そういう事じゃなくて、、、。」


僕の言葉を聞くことも無く、問答無用で写真を撮られた。



どうしよう、、、、


「マナ君マナ君こっち向いて~!キャーほんとイケメンっ!!!」


「じゃ、撮るよ~!」


ガンッ


テーブルに振動が走った。


僕を含め、目の前の子達も飛び上がった。


「うちのモデルは撮影禁止だ。撮った写真は消せ、SNSにでもアップしてみろ、お前達の個人情報全部同じように晒してやるからな。」



えっ、、、、、!?
桜ちゃん??


「はぁ?誰?何?関係なくない??」

「あんた誰?タチの悪いファン?笑える。」


「盗撮以外、つまり任意、もしくは任意に見える写真はNGにしている。そういう契約だ。お前達3人でカメラ目線に撮った写真が世に出れば椎樹愛弥は契約違反で解雇だ。その責任をお前達は負えるのか?」


「は?」


桜ちゃんが強くテーブルを叩いたせいで、フォークが床に落ちた。



「お、、、あっ、、、、藤堂寺さん、、、。」



「マナ。今日言ったことを忘れたのか?パンケーキ?笑わせる。400キロカロリー以内にしろと言っただろう。なんだ、反抗期か?」



「これは、ちっ、違くて!」


僕が立ち上がって弁解しようとしたけれど、桜ちゃんが酷く僕を睨んだから竦んでしまった。



「未鼓がいないと信用も出来ない。ったく、、、、。自覚がないなら辞めてしまえ。いいか、違反金は5億。わかっているな?」


さっきまで反抗的な態度を取っていた子達は桜ちゃんの気迫にすっかり首を縮めていた。


「社長、準備出来ました。あれ?椎樹さん、こんな所でどうされたんです?」



「あれ?あっ、あっ!」



僕の目の前にいた女の子は隣の子に、いつもの僕の運転手だと呟いた。


運転手と、僕。僕と、社長と呼ばれる桜ちゃん。


目の前の子達は気付いたようだった。


桜ちゃんの言葉に現実味を帯びてきたからなのか、女の子達の顔色が悪くなっていった。


「消そう、消そう。マナ君勝手な事してごめんね!パンケーキも、私たちが食べる予定だったんです。ね?」


「そう。そうです!そうです!」



桜ちゃんは女の子達の話を聞くこともしないで、首で僕に外に出るように指示した。



僕は外に出てすぐに頭を下げた。



「すいませんでした!自覚が足りなかったです。」


ふっふっふっ、と静かに笑った。



「くっ。マナ。マナ、顔を上げろ。」



「え?」


桜ちゃんは最近で一番の笑顔で僕を見ていた。




「いや~なかなかに面白かったですねぇ。」



「あぁ。弱いものいじめってゆーのはいつだって楽しいなぁ。」



「本当に桜李さんは根性が腐ってますね。」



「だから良いんじゃないか。」


未鼓さんと桜ちゃんはとても楽しそうに笑っていた。


ついさっき僕の事を睨んで、女の子達を脅していた桜ちゃんの面影は少しもなかった。


「あの、、、えっと、、、え?」



「未鼓がパンケーキ食べたいとか言うから用事って事にして出掛けに来たんだ。マナは昨日の外食で今日はカロリー制限してもらわないと困るからな。そしたらマナがいるし、写真は撮られてるしパンケーキ頼んでるし、未鼓と面白い事思いついたって。なぁ?」



「えぇ。女の子も椎樹さんも脅しちゃおうって、それでも、思った以上に楽しかったですねねぇ~!」


僕は膝から崩れ落ちた。



怖かった



凄く。怖かった


桜ちゃんに嫌われた
解雇される


真っ暗な未来が一気に押し寄せて、この世の終わりだと思った


どうやって生きていこうかなって、一瞬だけれど本気で考えた



「マナ。私も未鼓もマナの事を信用している。マナの事ちゃんとわかっている。」



「桜ちゃん、、、、、、。」



僕はしゃがんでいる桜ちゃんにしがみついた。


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