ボクは犬(仮)

来季

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幼なじみ

特別な傍

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「桜ちゃーーーーん!」


昨日会えなかっただけなのに、とても久々に感じた。


「おかえり。今日この後予定あるか?」



「ないよ?どうしたの?」


「今日も会食があるんだが、主催者がモデルさんも連れてきてと言っていてな。私の会社のモデルは未成年ばかりだから難しいと言ったのだが、じゃあせめてマナだけでもという話なって。」


「僕だけ?」



「あぁ、今我社の宣伝モデルの中ではマナが群を抜いて人気がある。それは世間元より企業内でも同じだ。是非お目にかかりたいと。」


「そんな、僕なんかがいいの?」



「なんかもなにも、御所望だからな。私は行かせたくないのだが、会社の顔もある。どうだ?行ってみないか?」



「行ってみたい!」



「ん、じゃ、お着替えだ。未鼓頼む。」


「はい。かしこまりました。」


会食。
桜ちゃんは週に1度は行っている。

未鼓さん曰く楽しいご飯会ではないらしい。
企業の評判、魂胆、マウンティング、様々な思惑が渦巻く闇の深い集まりらしい。

未鼓さん曰く、集まる企業の中でも桜ちゃんの会社は3本の指に入るくらいの注目度らしい。
年間利益、イメージ、成長率、どれをとっても他と引けを取らないらしい。


本当に誇らしい。



18時、ドレスコードに身を包み、家を出た。


「なんか、慣れないなぁ、こういうのは。」


「最近身長も伸びてきたからな、スーツも似合うようになった。」


僕は15歳になってから身長が20cm伸びた。
9歳の時は誰よりも、女の子よりも小さかったのに、今では175cmある。


桜ちゃんはまだ伸びるってしきりに言うけど、未鼓さんが未成年でなくなった時に185cm以上ないと問答無用で解雇されると言っていた。


だから桜ちゃんの会社は未成年が多い。


あと10cm。20歳までに10cm伸びないと問答無用で解雇。


僕の体、頑張ってね


「桜ちゃんはドレスじゃないの?」


ドレスコードというのだからドレスを着るのだと思っていた。


桜ちゃんはカットシャツにスキニーととてもラフな格好だった。


「汚れてしまっては困るからな。会場で着替える。」


「そうなんだぁ。」


桜ちゃんのドレス姿、楽しみっ


僕は早る気持ちを必死におさえて息を深く吸って、吐いた。


車内はほとんど無言だった。



と、言うより桜ちゃんが寝ていたから僕も未鼓さんも何も話さないようにしていた。

ガラスの窓にもたれかかって寝息を立てている。


その姿は可愛いというより、美しい。


疲れてるんだよね、きっと


僕は寝顔を眺めながら納得した。


18時25分。


会場に着いた。


「私は着替える。未鼓と一緒にいるといい。無駄な動きはするな、キョロキョロするな、堂々としているんだ。これは、命令だ。我社のモデルの代表として来ている。品格も保て。」


僕にそう言った桜ちゃんの顔はすっかり社長の顔だった。


大丈夫。マナーは全部教わっている。



「わかりました。藤堂寺さん、お待ちしております。」


「ん。ではまた。」


社会に出たら藤堂寺さんと呼ぶこと。これは鉄則だった。



「緊張なさらなくて大丈夫ですよ。桜李さんがあまりに大人びているだけで、周りの方も椎樹さんを15歳だと思って接してきて下さいます。そのままの姿でいいんです。失礼さえしなければ。」



「う、、、、うん。」


失礼のないように


そうだよね



とにかく、それだけは守らなきゃ


それも桜ちゃんの為になるんだから



19時、会食が始まった。
 

周りの人達は40代~60代。僕や桜ちゃんみたいに10代の人は娘さんや息子さんしかいなかった。



「未鼓さん、桜ちゃん遅いね?」



「捕まっているんですよ。いつもです。」



「どういう事!?助けに行かないと!」



「そういう事ではなくて、、、桜李さんは常に注目株です。皆んな親しくしたくて仕方がないのです。だからあの手この手で桜李さんに気に入られようと必死な、、、人達もいるのです。」



「でも、じゃあ何で捕まるの!?」


「買収しようとしたりとか、賄賂を渡したり、陥れようとしたり、様々ですが、そういう人達に足止めされているのです。この場では交渉出来ませんからね。」


未鼓さんの言っている事が難しくてイマイチ理解出来なかったけれど、兎に角桜ちゃんは良くない事に巻き込まれそうだという事。



「僕に出来ることってある?」



「何もなさらなくて大丈夫です。桜李さんは頭のキレる方ですから。それより、今の椎樹さんに出来ることをしましょう。」



「今の僕に出来ること?」


「そうです。桜李さんの会社のイメージアップに繋がる事です。例えば、マダムを落とすとか。」



「マダムを、落とす?」



「例えばです。15歳という武器と、容姿を使って貢献していきましょう。あ、ただ、失態は許されませんからね。」



15歳の武器、、、容姿、、、、


僕は決意して、グラスを持った。

大丈夫、大丈夫
マナーは学んだ。


「こんばんわ。」



「あら、こんばんわ。誰かのご子息かしら?」



「あ、いえ、僕は宣伝モデルをやらせて頂いています椎樹愛弥です。」


「あらっ、貴方が?まぁ~!初めて見たわ。あら~カッコイイわねぇ。」



「えぇ!?貴方が椎樹さん?まぁー、ホンモノー?可愛い顔してるわねぇ。」



僕にもわかった。これは好印象だと。


「いいえ、滅相もないです。」


「藤堂寺さんは見る目あるわねぇ。ところで、藤堂寺さんは?」


「はい、何でしょうか?」

僕の後ろから、カツカツと音を立ててやってきたのは、桜ちゃんだった。


「今晩わ、祭婦人。」


僕の横に並んだ桜ちゃんは、背筋が伸びていて、紺と紫のドレスを身にまとっていてショートの髪をハーフアップにしていて、言葉では言い尽くせない程に綺麗だった。


「今晩わ藤堂寺さん。珍しく連れがいるのね。」



「灯山さんに言われたんです。モデルを連れて来いって。」


「あぁ~、灯山さんね。前から凄く言っていたのよ、藤堂寺さんの所の宣伝モデルが見たいって。」



「えぇ、、、。うちのモデルは未成年が多いので私はあまり乗り気じゃ無かったんですけどね、断り続けるのも失礼かと思いまして。」



「いやぁ~~~ん!!!桜李ちゃぁぁぁあん!!!」


「うっ。」


綺麗な桜ちゃんに飛び付いたのは40代くらいの妖艶な女性だった。


「あぁぁぁぁあん、今日も可愛い!可愛いわぁ、なんでそんなに可愛いのかしらぁ。あぁ、いい匂いするぅー。はっ!えっ!貴方!愛弥君!?きゃぁぁぁあ可愛い!いや、カッコイイ!カッコ可愛いわぁ!」



「あぁ、、、灯山さん、、、、。」



押し潰されそうな勢いで抱き締められている桜ちゃんを僕はおどおどしながら見ているしかなかった。


「苦しいです、灯山さん。私より、今回は宣伝モデルを連れて来たので。あの、、、。」


「そうね!そうね!でも、桜李ちゃんがあまりに可愛いからぁー。」


「あぁ、そんな、ありがとうございます、、。」


こんな風に手も足も出ない桜ちゃんを見たのは初めてだった。


それはまるで、叔母に溺愛されている子。



妖艶な女性は桜ちゃんを舐め回すように見て、色々な褒め言葉を言いながら撫で回していた。


桜ちゃんはそれを無表情に受け入れてた。


桜ちゃんを暫く堪能したあと妖艶な女性は僕の方を見てスマホで何枚か写真を撮っていた。


「椎樹愛弥君、貴方は原石ねぇー。」


妖艶な女性はそう言い残すと桜李ちゃんまたねと言ってどこかへ行ってしまった。


「はぁ、、、疲れた。」



「藤堂寺さん、大丈夫ですか?」



「あぁ、、、。少し休んでくる。マナは何もしなくていい。未鼓の所にいろ。」



僕は頷いて未鼓さんを探した。


大人の世界で渡り歩いている桜ちゃんの勇ましさを目の当たりにして、僕は自分がやっぱり子供なんだと思い知った。






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