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恋敵
狙われる
しおりを挟む台本を読んだ。
すみから隅まで。
僕は脇役の脇役だった。
はずなのに、、、
な、、、なんで、、、
僕の役名は阿久津ハル。
台本には、ハル:ナナを抱き寄せてキスをする。
と、書かれていた。
なんで!
何で!?
なんでこんなシーンが必要なの!?
今日は桜ちゃんも見に来てくれるって言ってたのに、、、
桜ちゃんの前で?知らない人と!?キス!?
絶対に嫌だ。絶対無理。出来ない。
僕は断ろうと監督の元へ行った。
「監督。ここのキスシーン必要ですか?」
「え?あぁ。インパクトが必要だからな。」
インパクト!?
そんなモノの為に、僕のファーストキスを奪おうと、、、、、
絶対無理
嫌だ!
僕がしたくないですと言おうとした時、社長さんだ!と誰かが言った。
桜ちゃんと未鼓さんがスタジオに入ってきた。
桜ちゃんは20歳になって顔出しNGを撤回した。途端、桜ちゃんにまで人気に火がついた。
桜ちゃんの美しさや強さ、儚さや時に見せるとてつもない可愛さが全国に知れ渡る。
それだけでも僕はいたたまれないのに、、、
スタジオの男性スタッフ、俳優さんは皆桜ちゃんに釘漬けだった。
そんなに、見なくていいのに、、、
「差し入れを持ってきました。どうぞ、皆様で召し上がって下さい。」
未鼓さんが両手の紙袋をテーブルに置いた。
高級和菓子店の紙袋だった。
「マナ、撮影はどうだ?」
「桜ちゃん、、、、。」
キスシーンがある。やりたくない。そう言いたかったけれど、言える雰囲気じゃなかった。
「はい、じゃ、撮影始めますー。」
「まぁ、頑張れ。」
嫌だ、始まる
始まっちゃう
キスシーンなんて、、、、
僕の気持ちに反してリハーサルのシーンはどんどん進んで行った。
僕のキスシーンはもう目前だった。
相手役の人は人気の若手女優さん。そんな事関係ない。
僕の、、、、、ファーストキスがっ、、、
無理っ
抱き寄せなければいけないシーンで僕は突き飛ばしてしまった。
一瞬、時が止まる。
あぁ、、、、、
プロ失格だ、そう思った
でも、それでも
「椎樹さん?どうしました?」
「ご、ごめんなさいくしゃみが出そうで。」
僕は本当にごめんなさいと女優さんにも謝った。
けれど、
こんな対応をしたからもう次はなかった。
するしかない、、、、
やるしかない、、、、
桜ちゃんの前で
僕は
大好きな人の前で
こんな事、、、、
「はい、カットー。いいですね、1回休憩で。」
あぁ~~~~
僕の、、、、ファーストキスが、、、、
桜ちゃんの為にとっておいたのに、、、
こんな事って
泣きそう
もう、消えたい
僕はスタジオを出た。
しばらく僕のシーンはない。もしかしたら今日はもう出番がないかもしれない。
スタジオにすらいたくなかった。
この世の終わりだ。
終わり。
はぁ、、、、、、、
桜ちゃん、見たんだろうな
そりゃあ見るよね
きっと、何も思わないんだろうな
所詮僕は桜ちゃんの駒のひとつに過ぎないもんな
分かってるけどさ
切ないなぁ
階段に座る。
唇に残る感触。
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