ボクは犬(仮)

来季

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恋敵

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僕はこの日眠れなかった。


桜ちゃんは演技も伸び代を感じるとだけ僕に言ってくれたけど、後は何も無かった。


当然だ、桜ちゃんにとって僕のキスシーンなんて取るに足らないこと。


2時を過ぎても目が冴えていた僕はなにか飲もうとリビングへ向かった。


未鼓さんがいろいろなお茶を用意してくれていた。
  

あっ、、、、


お茶じゃない    


今の僕の気分を落ち着かせるのは     


「はちみつ、、、、、はちみつ、、、、。」



僕が冷蔵庫の中を漁っていると扉が開く音がした。


えっ?誰


「眠れないのか?」    



「あっ、桜ちゃん、、、。うん。」


桜ちゃんはまだ仕事がしていたのかな?


「もう2時過ぎているぞ。」    


「そうなんだけど、、、、眠くなくて。」   


そうか、
桜ちゃんはそう言うとコーヒーを注いだ。


この時間にコーヒーなんて、まだ終わらないのかな? 

「桜ちゃん、、、、、。」



「ん?何だ?」
 

間接照明だけの暗いリビングでソファーに座りながらコーヒーを啜る桜ちゃん。


小さい頃、良くこんな光景を見ていた。  


「僕ね、今日、、、初めてだったんだ。」



「何がだ? 」
    


「キス。」



冷蔵庫からはちみつを取り出しカップに入れる。


そうか


桜ちゃんは感情の読み取れない声で答える。


「凄く、いやだった。」


カップに牛乳を注ぎレンジへ入れる。


ウィーーーンという機械音がキッチンとリビングに響く。


「そうか。」 


桜ちゃんの口調は変わらない。


「桜ちゃんの前で、するのも、嫌だった。」


ピーピーとレンジの音が鳴り響く。



僕はカップを取り出した。
桜ちゃんのいるリビングへ歩き、桜ちゃんの向かいのソファーに座る。


「もう、そういう仕事はしたくないか?」




桜ちゃんはコーヒーの入ったカップをテーブルに置く。


 組んでいた足を解いて膝の上に肘を乗せ覗き込むように僕を見た。


暗いリビングでも、桜ちゃんの整った顔立ちは良く分かる。


そんな風に見つめられてしまっては緊張で呼吸が止まってしまう。


「やりたくないよ。でも、それが僕に与えられた仕事なら、、、、僕はやるしかないんでしょ?」


それが、僕の価値だから。


僕の言葉の後、暫く桜ちゃんは下を向いていた。


何かを考えているのか、甘い僕の考えに落胆したのか、



不安が募る。



「私は、人を慰めたり勇気付けたり、そういう事が出来ない。自分の人生くらい自分で選択するべきだと思う。目標の為なら多少の犠牲も不満も飲むべきだと思う。だから、マナになんて言ってあげるべきなのか、、、わからない。」



桜ちゃんが真っ直ぐ僕を見つめる。


僕は息を飲んだ。


「ただ。マナのして欲しい事ならわかる。なぜ、私にその話をしてきたのか、意図なら理解出来る。」


桜ちゃんはそう言うと、ソファーから立ち上がって僕の座っているソファーの前にきた。


僕はどうしていいかわからなくてカップを強く握る。  


゛つまりは、こういう事だろう?゛



桜ちゃんはそう呟いて僕の唇に触れた。


桜ちゃんのあまりに柔らかい唇に理性が飛びそうになる。
 

昼間の地獄のような感覚は1ミリもなくて、身体中に暖かい血が巡るような感覚。


そっと離れた唇に僕は凄く寂しさを感じた。


「お、、、、桜ちゃん、、、、。」



「満足か?」


桜ちゃんはそんな言葉を言い残してテーブルに置いていったカップを片手にリビングを出ていった。


桜ちゃんはいつだって僕よりずっと上手で、いつも僕を翻弄して、不安にさせて満足させて、僕の全てを知っているみたいに見透かして、、、、



僕は、ずっと、ずっと桜ちゃんの掌の上で転がされてて



でも、全然嫌じゃなくて


頭の中も心の中もぐちゃぐちゃなのに



それでもやっぱり大好きで



もう何が何だかわからないけど


僕はいつだって桜ちゃんのモノなんだなって





改めて実感した。







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