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しおりを挟むそれから数日後。王宮へ出向へ行く前夜、レティが翌日の準備をしているとノックの音が聞こえた。
「はい」
「……」
「ミゲル様?」
扉を開けるとミゲルが気まずそうな表情で立っていた。彼がレティの部屋に来るのは数年ぶりだ。レティが目を丸くしたまま戸惑っていると、ミゲルは綺麗な箱を差し出した。
「……明日からはこれを着けていけ」
「開けてみてもよろしいでしょうか?」
ミゲルが頷いたのを確認してからレティは箱を開いた。そこにはバレッタが入っていた。デザインはシンプルだが、上品に輝いており装飾品には全く興味のないレティにも高級品だと分かった。
「こ、こんな高価な物、畏れ多くて頂けません!」
「ふん、受け取れ」
「だ、駄目です!」
レティはぐいぐいと箱をミゲルに押し付けるがミゲルは受け取ろうとはしなかった。
「……レティ。王宮には沢山の人間がいる」
「へ……ええ、存じております」
「中には不届き者もいる。だが、これを着けていれば大抵の人間は愚かなことはしない筈だ」
「へ……」
王宮の中にそんな不届き者がいるだろうか。もしも不届き者がいたとして、こんな高価なものを身に付けていれば逆に目を付けられるのではないか。レティが首を捻りながら、もう一度じっくりとバレッタを眺めているとあることに気が付いた。
「ミゲル様、これ……っ」
「ああ、スタマーズ公爵家の紋章が刻んである」
「そんなの余計に受け取れませんよ!」
レティは零れんばかりに目を見開いた。おそらく、腕のある職人が準備したのだろう。目立たないようにデザインしてあり、一目見ただけでは紋章に気付かない筈だ。
(で、でも、これを王女殿下に見られたら誤解されてしまう……ううん、殿下ご本人に見られなくてもどこかで耳に入るかもしれない)
スタマーズ公爵家の紋章を刻んだバレッタを身に着けていたら王女殿下は不快に思うだろう。そしたらレティの目論む王宮への転職活動は絶望的だろう。青褪めたレティに気付かないまま、ミゲルは話を続けた。
「いいか。変な男が来たらこれを見せるんだ」
「ミゲル様、私に声を掛けるような殿方などいませんよ」
「レティ、頼むから……」
眉を寄せて懇願するミゲルを見てレティはまた目を丸くした。こんな表情を見せられたらレティはもう嫌とは言えなかった。
小さく息を吐くとバレッタを手に取り、パチリと髪に留める。見た目ほど重くないので作業の邪魔になることも無さそうだ。
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