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しおりを挟む「どうでしょうか」
レティが振り向いて見せると、「……ああ」と返ってきた。その声が震えていたように聞こえたのは、きっとレティの気のせいだろう。
「……出向中は何かあればすぐ呼んでくれ」
「……?はい?」
「執務の合間には様子を見に行くから」
「なっ、来なくて良いです!」
反射的にそう答えたレティにミゲルは不満そうに眉を上げた。だがレティはもう子どもじゃない。他の料理人たちだって自分の主人が心配して様子を見に来るなどあり得ないだろう。
ミゲルが様子を見にくる姿を想像したら恥ずかしくて顔から火が出そうだ。大体、公爵令息で次期宰相のミゲルが厨房近くをウロウロしていたら相当目立つ筈だ。
「……ミゲル様はお忙しいでしょうし無理なさらないでください」
「別に忙しくなどない」
「う……」
「何故駄目なんだ」
「……ミゲル様が厨房に来られたら非常に目立ちます」
「む」
「その、あまり目立ちたくないのです」
レティの言葉にミゲルは少しの間考えた後「見つからないようにする」と呟いた。こうなってしまうとミゲルは退かないだろう。頑固なところは子どもの頃から全く変わっていない。レティはミゲルの説得を諦め、話題を変えた。
「明日からのお食事は主厨房で作られるものになりますが、パンや焼き菓子は預けていますので宜しければ召し上がってください」
レティの言葉に驚いたのかミゲルはじっと彼女を見つめた。
「父上から作らなくて良いと言われていただろう」
「……私が作りたかっただけです」
レティがミゲルへ食事を作れる回数は限られている。そんな中で作らないという選択肢は彼女には無かった。
「……あまり無理するなよ」
ミゲルの手が伸びてきて、レティは思わずぎゅっと目を瞑った。ミゲルは確認するかのようにバレッタに触れ、去って行った。
「……っ」
扉を閉め、レティはその場にへたりと座り込んだ。どくどくと鼓動が煩くて手で顔を覆う。
「……どんな顔してたの」
レティは目を瞑ってしまっていたから、ミゲルがどんな顔でバレッタに触れたか見ることはできなかった。
「……ミゲル様のばか」
レティは子どものように口を尖らせて呟いた。大事な人がいるというのに他の女性にこんな高価な贈り物をしてきて、レティで無ければ勘違いしていただろう。ミゲルは子どもの頃から女性の扱いに慣れていないのだ。
ミゲルに触れられたバレッタをそっと触る。明日からは王宮への出向という大事な仕事だというのに、身体が熱くて胸がぎゅっと苦しくてとても眠れそうにない。寝不足で他の料理人に迷惑をかけたらどうしてくれるのだ。
レティはバレッタを丁寧に外すと先程の箱に仕舞い、明日の荷物の隣に優しく置いた。
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