【完結】先に求めたのは、

たまこ

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「レティさん、スコーンの焼き加減いかかでしょうか」

「レティさん、野菜の下処理の確認お願いします」

「レティさん、シフォンケーキそろそろ焼きあがります」

 他の料理人たちの声掛けをレティは必死で裁いていた。どうしてこんな目に……と心の中で呟きながら。



 出向初日、王宮には王宮料理人や各上位貴族の屋敷に勤める料理人たちが大勢集まった。レティはスイーツ部門を担当することになった。スイーツ部門のリーダーにより、舞踏会で出される予定の品の説明を受ける。フルーツタルト、シュークリーム、ショコラテリーヌ……それぞれの担当が発表されるがレティの名前は最後まで呼ばれなかった。

「レティ嬢には野菜のスイーツをお願いしたい」

「は、はい」

「これは王太子妃殿下からの提案だ。レティ嬢が野菜を使ったスイーツが得意だと妃殿下の耳にも入っているようだ。それで一度食べてみたいと仰ってる」

「そ、そんな……」

 周りの料理人たちはわぁ、と歓声を上げた。王太子妃殿下から期待されメニューをリクエストされるなんてこんな名誉なことはないだろう。だがレティは青褪めていた。

(アーネスト殿下、絶対余計なことを言ってるわ)

 レティは只でさえ王女殿下の不興を買っているかもしれないというのに、王太子妃殿下にも嫌われてしまったら……いや元々目障りに思われているだろうなとは思っていたのだ。だがこれ以上嫌われてしまうとレティの転職活動に大いに影響してしまう。

 レティががっくりと肩を落としたことには誰も気付かないまま、リーダーの話は続いた。レティは野菜スイーツの責任者となり数名の料理人と共に準備に入ることになった。


「皆さん、女性の方ですか」

 野菜スイーツの担当となった料理人と顔を合わせて、レティは少々怪訝そうに見渡した。料理人の中で女性の割合はとても少ない。レティが幼い頃、父と共に訪れたどの屋敷にも女性の料理人はいなかった。リーダーは視線を彷徨わせながら答えた。

「あ、あー……レティ嬢は貴族令嬢だろう。若い男性料理人と一緒にはできない」

「そんな、お気になさらずとも」

「それに彼女たちも君から教わりたいと言っている」

「はい!よろしくお願いします!」

 元気よく頭を下げられ、レティは目をぱちくりとさせた。そんなレティへ彼女たちは「レティさんは私たちの憧れなのです」と告げた。

 彼女たちも貴族令嬢だという。だが、下位貴族だったり領地経営が上手くいっていなかったり、と貴族令嬢でありながら働くことを求められた。一昔前であればそんな状況で貴族令嬢が働くなど有り得ない話で、働くくらいなら死を選ぶ者もいるほどだった。だが、レティが幼い頃からスタマーズ公爵家で献身的に働いていることは社交界ではよく知られており、令嬢が働くことに対することへの忌避感は徐々に減りつつある。彼女たちはレティのおかげで周りの目を気にすることなく働けているのだ。

 社交と言うものを一切していないレティには知らなかったことばかりでただただ戸惑った。彼女たちはずっとレティに会いたかったと嬉しそうに話した。そんな純粋そうな彼女たちを見てレティはふと思いついた。

(これは……もしかしたら彼女たちの同じ職場に紹介してもらえるチャンスかも)

 そうと決まればレティは彼女たちと仲良くなる方が得策だろう。レティはにっこりと笑うと「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げた。責任者となることがどれほど大変なことかこの時のレティはまだ気づいていなかった。

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