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しおりを挟む忘れてしまいたくて。あの恨みも、苦しさも、悲しさも、……温かさも全て。
消してしまいたくて。放たれた棘のある言葉も、無駄になってしまった努力も……優しく笑ったことも全て。
私は新しい街に来た。全てをあの場所に置いて、忘れて、消して。ここでやり直すのだと、強く決意して。
「あ、ここだ。」
ある春の昼下がり。住み始めたばかりのアパートから徒歩で十五分ほど掛かり、探していた場所を見つけ、私は思わずぽつりと独り言を漏らす。その後ハッと気付き、すぐに周りをキョロキョロと見て、誰にも聞かれていないことにホッと息をつく。若い子の独り言は可愛げもあるが、三十路を過ぎた女の独り言は見ていられない。暖かく、眩しい日差しすら、私を責め立てているようだ。
引っ越してきたばかりのこの街で、私がまず初めに取り掛かろうとしているのは、職探しでも、お気に入りのカフェ探しでもない。
私が辿り着いたこの場所、少し古ぼけた写真館、そのショーウィンドウにひっそりと貼られた、小さなポスターには私が今、一番望む言葉が書かれている。
『婚活写真、お撮りします。』
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