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しおりを挟む「はぁ~……。やっぱり早まったかなぁ……。」
帰宅した私は、もう何度目か分からない溜息をつき、ベッドの上でジタバタしていた。本気か、揶揄いか、詐欺かも分からない、あの人のアプローチに、アルバイトならしても良いなんて、三十過ぎの女がすることではない。自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。
「危ない人では無い、はず……。」
あそこは、地域にある小さな写真館だ。地域の人の評価が重要な店で、少なくとも、人様に言えないようなことや、犯罪チックなことはしないだろう。口コミサイトを見る限り、評判の良い写真館だし、「店員に口説かれた。」とか「店員の態度が可笑しい。」とかそんな意見は見当たらない。
「どうせ、バイトは探そうと思っていたし。」
前職が激務だったこともあって、貯金だけはそれなりにある。しばらくゆっくりしたい、だけど無職では体が鈍りそうで心配、という思いから、アルバイトをしようと決めていた。婚活には不利だろうと分かってはいたが、少し心を休めたかったのだ。
「あー!もうっ!」
一人叫び声を上げる私は、傍から見たら不審者だろう。だが一人暮らしの部屋なのだから許してほしい。あの写真館でアルバイトをすることを、何とか正当化しようとしている自分に呆れてしまう。
結局、私はあんな見ず知らずの相手から、本気かどうかも分からないアプローチをされて嬉しい気持ちが確かにあったということだ。一般的な女性であれば、敬遠するだろうアプローチも、私という人間は期待してしまう。
それほどまでに、私は、人の愛に飢えている。
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