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しおりを挟む「おはよう。」
翌朝、変な緊張を抱えながら、写真館のドアを開ける。ドアベルのカランコロンという音が、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。彼は、昨日と変わらず、カウンターの奥に座り、優しく迎えてくれた。
「お、おはようございます。今日からよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。来てくれて嬉しい。」
そう言って、ふわりと笑う彼を見て、私はホッと息をついた。「本当に来たんだ?」とでも言われたら、トラウマになっていただろう。優しく迎えて貰えたことで、救われる思いだった。
「履歴書を……。」
「ありがとう。……保育士していたんだね。」
「はい。」
短大を卒業して、11年、ずっと保育園に勤めていた。激務ではあったが、やりがいのある、大好きな仕事だった。
「写真館に来るのは、子どもが多いから助かるよ。……梨奈ちゃん、って言うんだね。」
名前呼び……と少し戸惑いながら、私は自己紹介もしていなかったことに気付いた。こういう所が気が利かない、というのだ。
「村山 梨奈と申します。歳は三十一歳です。よろしくお願いします。」
「はい。佐藤 尚也です。梨奈ちゃんの六歳上だよ、よろしくね。」
何とか自己紹介を済ますことが出来、また息をついた。何となく、安心できる人だと思えた。
「あの……佐藤さん、他の方は?」
「ん?ああ、ここは俺一人でやってるんだ。」
「へ?」
店主かな、とは思っていたが、一人体制の店だとは思っていなかった。
「元々親の店でね。早くに亡くなったから、俺が継いだんだ。」
「そう、だったんですね。」
「一人体制の店だと困る?」
「い、いえ!」
本当は困る癖に、私はつい良い顔をしてしまった。“いい子ぶってつまらない奴”、耳にこびり付いて離れない言葉。佐藤さんの安心させてくれるような笑顔を見ると、私は居心地が悪かった。
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