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夫の言い分。
しおりを挟む「アーサー!どうしてキスしてくれないの?」
また始まった。最近、妻メアリーの機嫌が悪い。すこぶる悪い。
「おかしいでしょ!夫婦なのにキスもハグも全然してくれないなんて!」
勘弁してくれ。お前はまだ若いから、そう言うかもしれないが、俺はお前より一回り以上も上の中年だ。キスだのハグだの、そんなの出来るわけないだろ。
「やっぱり、私のこと好きじゃないの・・・?」
「・・・なんで、そうなる?」
背中からメアリーの体温が感じられる。こんな風にくっついてこられても、俺は体を固くするだけだ。
「全然私の方、向いてくれないし。スキンシップも私からだし。」
そう、お前がいつも俺のことをじっと見てくるから、俺はいつも落ち着かなくて迷惑してるんだ。
「・・・浮気、しているんでしょう?」
「は?」
「だって、本に書いてあったもの!夫がスキンシップしないのは浮気しているからだって!アーサー、私のこと一切触らないじゃない。」
読書家だからと、好きな本は何でも買わせていたが、何て本を読んでいるんだ。
「・・・好きになってよ、お願い。」
先程の勢いとは違い、か細く呟いた妻の声は、震えていた。背中に温かい水分が落ちてくる。・・・泣かないでくれ、頼むから。
◇◇◇
「親方・・・荒れてますね。」
弟子たちが遠巻きに引いているのを感じながらも、俺はある物を作るのに没頭していた。
大体浮気だなんてあるはずない。俺は木工所で働いていて、家の隣に工場があるんだ。弟子たちは全員男だし、業者とのやり取りだって弟子がしている。工場か家にしかいないのに、どこで浮気するなんて言うんだ。
確かに俺は夫らしいことは出来ていない。だが、それだって結婚前に言ったんだ。俺には向いていないって。それなのにあいつが絶対結婚するって譲らなかったんじゃないか。
むかむかしながらも、俺は黙々と作ったものを完成させた。
◇◇◇
「これは・・・?」
数日後、完成させたものをメアリーに見せるべく工場に連れてきた。
俺が作ったのは、大きめの椅子だ。俺は「そんなに浮気を疑うんなら、ここに座って監視でもしておけ!」と一喝するつもりだった。だが。
「素敵!これ、アーサーが私に?」
「・・・っ!あ、ああ。」
メアリーに先を越されてしまった。出鼻を挫かれた俺は、メアリーのテンポに飲み込まれてしまう。
「嬉しい!絶対大切にする!このクッションも素敵ね。私の好きな色!」
病弱なメアリーを、木の椅子に長時間座らせるのは憚られて、ついメアリー好みの水色のクッションを探してきてしまった。キラキラした瞳で、メアリーは大事そうに椅子を撫でている。
「ああ、どこに置こうかしら。」
「・・・ここ。」
「へ?・・・いいの?」
俺の作業台の隣を指差す。これは、ただメアリーへの嫌がらせの為だったのに・・・メアリーは驚いた後、すぐ破顔した。
「アーサー、ありがとう。だいすき。ずっとだいすき。」
俺の胸の中に飛び込み、ぎゅうっと抱きつくメアリーに、俺はおずおずと抱き締め返すしかなかった。・・・どうしてこうなった。
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