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しおりを挟むフィリップとシャルロットは幼少の頃からの幼馴染のような関係だ。互いの家を行き来するだけでなく、貴族の令息令嬢が集まる茶会で顔を合わせることも多かった。フィリップは茶会の間も蟻の行列を見つければ長時間眺めていたり、珍しい昆虫を見つければ追いかけていくような少々……いや、かなり浮いた子どもだった。
「フィル」
「……」
「フィル」
「……」
「もうっ!フィルってば!」
この日も蟻の行列を眺めるのに忙しく茶会に戻って来ないフィリップをシャルロットが探しに来たのだ。しょっちゅう行方知らずになるフィリップを捜索するのがシャルロットの役割のようなものになっていた。シャルロットはフィリップの両親に会う度いつも「愚息を頼む」「面倒ばかり掛けてごめんなさいね」と頭を下げられていた。
招待された屋敷の裏庭の隅で漸く見つけたフィリップへ声を掛けるが、蟻に夢中になっているフィリップにシャルロットの声はなかなか届かない。翡翠色の瞳を輝かせて蟻の行列を熱心に見つめていた。シャルロットが繰り返し名前を呼ぶとやっとのことでフィリップは顔を上げた。
「……ああ、シャルか」
「もうっ!やっと気が付いたのね」
シャルロットがきつく睨み付けてもフィリップは飄々としている。
「蟻の行列を見ていたんだ」
「知ってるわよ」
「行列の途中に障害物を置いてみたんだ。そしたら、最初は困っているようで近くをウロウロしていたよ。だけどすぐに新しい迂回路を見つけた。蟻はどうやって道を見つけたんだろう。蟻の視界は……」
「フィル」
シャルロットは大きく息を吐いた。呆れ顔で彼の名前を呼ぶと、フィリップは不思議そうにシャルロットをじっと見つめた。
「蟻の話は今度聞くわ。今日は茶会に来たの。ちゃんとしてちょうだい」
「うーん……つまらないんだよなぁ」
「そんな失礼なこと言ってはいけないわ」
シャルロットが厳しい声で咎めるとフィリップは決まり悪そうに頭を掻いた。
「ほら、行くわよ」
シャルロットがフィリップの腕の裾を引っ張る。フィリップは抵抗することなく素直に着いて行った。
「あなたと話したがっている令嬢も沢山いるのよ」
侯爵家の令息で見目も良いフィリップは令嬢たちにとっては良い婚約候補だ。変な趣味は多少は目を瞑ろう、といったところだろう。伯爵家の令嬢であるシャルロットでは到底敵わないような高位貴族の令嬢たちまでフィリップを狙っていた。
「うーん、興味ないかな」
「……またそんなこと言って」
口煩くそう言った癖に、心の底では安堵していたことにシャルロットは気付かない振りをした。
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