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しおりを挟む「あの、クリストファー様、どうか顔をお上げになってくださいませ。」
ハミルントン公爵夫人はたじたじになりながら懇願した。しつこいようだが、元平民の身、正直王族にお目にかかるだけでとんでもなく緊張するというのに、頭まで下げられ、気を失いたいほどに辛かった。・・・まぁ、クリストファーは既に元、王族となっているが。
あの祝賀会から二週間後。クリストファーは、ハミルントン公爵家を訪れていた。国王陛下と王妃殿下に詰められたあの後すぐ、クリストファーはアレクサンドラの予定通り、廃嫡となった。手続きや、公務の引き継ぎ、と言っても殆どをアレクサンドラが済ませていたが、それらを終わらせてから、マーガレットを迎えに来た。クリストファーが城を出る時はとても静かなものだったが、妹のキャサリンだけが見送りに来ていた。
いくら自分が描いていた夢を叶えるためとは言え、やはり家族とこれから一生会えないであろうと思うと胸に来るものがあった。そんなクリストファーにキャサリンは囁いた。
「お兄様、しんみりなさらないで下さいませ。アレクサンドラ様が、お兄様と私が秘密裏に会えるように色々と画策されているようですよ。私、とても楽しみですのよ。」
あの元婚約者はアフターサービスまでしてくれるのか、と驚かされる。それにしても、にっこり笑う妹を見たのはいつぶりだろう。兄妹間ですら、微笑み以上の笑顔を見せない教育をされている二人にとって、笑い合う別れの時間がかえがえのない一時となった。
◇◇◇
こうした別れをしてきた後、クリストファーはハミルントン公爵家に訪れすぐに謝罪を始めた。
「アレクサンドラ嬢に、多大なる迷惑をかけ、誠に申し訳ありませんでした。」
「クリストファー様、もう、宜しいですから・・・。」
「いえ、アレクサンドラ嬢は、王太子妃候補の間、多くの功績を残してくれています。それは国民全員が知るところです。それなのに、私がアレクサンドラ嬢へ負担を掛けていたのは事実です。申し訳ありませんでした。」
「そんな・・・。」
ハミルントン公爵夫人が、気を失いそうになりながらも、どうにかクリストファーと会話をしているのには理由がある。夫である公爵が、クリストファーが来てから終始そっぽを向いており、一言も口を利かないからだ。公爵夫人は初めて夫を心の中で呪った。
「国王陛下へは、今後ハミルントン公爵家へ迷惑が掛からないよう最大限の配慮を願い、受け入れてもらっています。勿論このようなことで許して貰えるとは思っていません。ただ公爵家の立場を揺るがすようなことは決してありません。」
「・・・王家に配慮していただかなくとも、こんなことで、公爵家の立場が悪くなるようなことはあり得ません。」
「あなた!」
やっと口を開いたと思ったら、こんな憎まれ口を叩き始め、公爵夫人は本格的に血の気が引いた。早く気を失いたいと、ただただ神に祈った。
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