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番外編:キャサリン王女の幸福。9
しおりを挟むどのくらい、ケネスの腕の中にいたのだろう。キャサリンがそう思うほど、長い時間、二人は抱き締めあっていた。
「・・・ケネスが、私のこと好きだなんて思わなかった。」
「なぜ?」
「そんな雰囲気、全然無かったから。」
二人はずっと、親友のような、幼馴染みのような距離感だった。いつもケネスの植物の話を聞いて、キャサリンはそれだけで幸せだったけれど、男女の空気は皆無だった。
「キャサリンは酷いなぁ。」
「なっ・・・!」
「僕は出会った頃から、キャサリンのことしか想っていなかったのに。キャサリンはどうせクリストファー殿下に言われるまで意識していなかったんだろう。」
キャサリンはうっ、と言葉が詰まる。ケネスが一番大切なことは、幼い頃から変わらない。だが、それが恋だとはっきり自覚したのはケネスの言う通り、クリストファーに会うことを禁止されてからだ。
「ご、ごめんね?」
「キャサリンはまだお子様だからな。これからは・・・。」
手加減しないよ、と耳元で囁かれ、キャサリンが逃げる間もなく唇を奪われた。
◇◇◇
初めての口づけを終えた後、キャサリンが落ち着くのを待って、ケネスはこれまでのことを教えてくれた。
六年前の二人が八歳の頃、ケネスと会えなくなったあの時、キャサリンはアレクサンドラと「勉強を頑張ること。アレクサンドラの手伝いをすること。」を約束し、素直なキャサリンは何の疑問も持たず受け入れ、今日まで努力してきた。
同じ時、アレクサンドラはケネスにもキャサリンと会うために「研究の成果を上げること。」を要求した。しかし、変に大人びた八歳児のケネスは不審がり、しつこく理由を尋ねた。キャサリンのように一筋縄ではいかないことを理解したアレクサンドラは、ケネスへ説明した・・・ほんの一部だが。
「貴方がキャサリン様と結婚したいと思った時に、今の貴方の爵位では不十分ですわ。」
「それは、分かっています。だけど、陞爵なんて・・・。」
「貴方は知らないと思うけど、貴方のお父様は陞爵の話が何度も挙がっていますの。ただ、あまり爵位には興味が無いようで毎回断られているようですが。」
「・・・そうでしたか。」
戸惑うケネスを余所に、アレクサンドラは言葉を続けた。
「ですから、貴方がお父様と同等の研究成果を上げれば、陞爵の話を推薦できますわ。」
「父上と同等・・・。」
アレクサンドラは何でもないようなことのように話しているが、ケネスの父は国内ではトップクラスの植物学者だ。その父と同じ成果なんて。
「あら?無理ですの?」
「・・・いえ。やります。やらせてください。」
ケネスは頭を下げた。八歳のケネス少年は、既にキャサリンとの未来しか考えていなかった。
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