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番外編:ジェニーの密会。7
しおりを挟むジェニーは申し訳なさそうに口を開いた。
「うちの実家の子爵家では、小さいながらも領地を持っています。数年前、その領地の中で、自然災害があり、一時的にうちの領地は困窮していました。」
数年前、というと、ジェニーはまだ学生で、アレクサンドラは王太子妃候補として公務に勤しんでいた頃だ。
「領民の住居の建て直し、食糧の確保、生活道路の整備など、借金まで考えていた頃です。奥さまが、災害に遭った領地への支援法を打ち出してくださり、うちの領地は国からの補助金でまた元の生活に戻すことが出来たのです。」
「そうだったの……。」
アレクサンドラは、あの頃のことを思い出す。当時は、ジェニーの実家の領地だけでなく、多くの領地が困窮していた。ジェニーの家名を知っていても、すぐ思い出さなかったほど、たくさんの領地を回っていた。
「なので、私たち家族にとって、奥さまは恩人なのです。恩人なのですが……。」
ジェニーは言いづらそうに言葉を切った。
「ジェニー?どうしたの?」
「ジェニー。大事なことだ、私から言おう。」
ジェニーの兄、カリッドは、胸を張って話を続けた。
「アレクサンドラ様。私を、貴女様の僕にしていただきたいのです!」
「は?」
戸惑うアレクサンドラに、カリッドを鋭い眼光で睨みつけるアルバート。そして、ジェニーは頭を抱えていた。
◇◇◇◇
終始申し訳なさそうに、言葉を続けるジェニーによると、カリッドは領地を救ってくれたアレクサンドラを、女神のように崇拝するようになった。アレクサンドラの功績を、新聞で見るたびに喜び、切り抜きを作っていた。
クリストファー元王太子との婚約破棄の時は、とんでもなく激怒していたという。しかし、それは自分の家で、一人でそうしてくれている分には問題なかった。だが、たまたま、妹のジェニーが勤めていた、辺境伯家にアレクサンドラが嫁いでくることとなり、カリッドは舞い上がった。
どうか、一度アレクサンドラ様に会いたい、会ってお役に立ちたい、という要望が、ジェニーに頻繁に届くようになった。しかし、主に対して迷惑を掛けたくないジェニーはずっと断っていた。しびれを切らしたカリッドは辺境へやって来たのだという。
ジェニーのフォローによると、カリッドは決して女性としてアレクサンドラを想っているわけではない。愛妻家である彼は、アレクサンドラは神として崇めている、それだけなのだ。
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