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しおりを挟む「はぁ……。」
「旦那様、如何いたしましたか?」
大きな溜息をつくと、従者の一人が心配そうに訊ねてくる。
「……あいつは、どうにかならんのか?」
私の視線の先には、有能な執事ハロルドが今にも鼻歌を歌いそうなほど機嫌よく執務をこなしている。いつもは、人ひとりくらい簡単に殺めそうなほど、恐ろしい眼差しで他人を見据えているというのに、今日は意味もなく笑顔を浮かべている。
「……仕事はしていますからね。注意しようがないです。」
従者の言葉に、私はもう一度溜息を落とした。
◇◇◇◇
私の執事、ハロルドはそれはそれは有能な男だ。五年前、公爵家にやって来た時から、新人指導を担当している当時の執事から「逸材が来た」と言われていたほどだ。冷静沈着で、時に冷酷なハロルドは執事に適している、と評価された。だが、彼の特徴は、それだけではない。
ハロルドが私の執事となった時、私に付きたいと希望するメイドや侍女たちがグッと増えた。それは、悲しいことに、私が魅力的で人気があるから、ではない。ハロルドは、冷たく、女性に一切甘い顔をしないが、その美貌から大層女性に人気があった。……使用人たちを大事にしている私より、ずっと。
ハロルドはどんな美しい女性のアプローチにも靡かなかった。一人の女性に想いを寄せていたから。私の娘、シャーロットに付けている侍女ソフィアだ。
ソフィアは、仕事はよく出来るが、愛想はあまりない。そんな所が、シャーロットは伸び伸びと過ごせる理由のようだが。ハロルドがソフィアに懸想して、早五年。漸く、婚約が結ばれ、恋愛小説のような美談であると屋敷中が祝福ムードとなっている……
が、美談な訳がない!!!!!
ハロルドは五年間ソフィアのストーカーのような……、いや、ストーカーだった。
ソフィアに懸想をした当時は、所構わずアプローチして、ソフィアが他の使用人たちに迷惑を掛けられ仕事にならない程だった。私は、ソフィアに近づかないよう再三、厳重注意した。しかし、ハロルドはあの手この手で私を言いくるめ、結局業務時間中には話しかけない、ということになった。それすら、目を光らせるのはとても大変だった。
毎日毎日、使用人宿舎に帰るソフィアを待ち伏せ、プロポーズするなど正気の沙汰ではない。それが、どんな手を使ったのか、ソフィアに婚約の了承を貰っており、私は腰を抜かすかと思った。きっととんでもなく恐ろしい手を使ったのだと、私は今でも目を光らせている。
「……ハロルド。」
「旦那様、何でしょうか。」
私が諦めて声を掛ける。いつもなら仏頂面で返事をすればまだ良い方で、平気で私を無視する執事が、満面の笑顔で返事をしており、私は鳥肌が立った。
「何かあったのか?」
ハロルドは少し驚いた表情を見せた後、また幸せそうに笑い「秘密です。」と答えた。……暴れ出さなかった私を、誰か褒めてほしい。
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