たとえこれが、恋じゃなくても

ryon*

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クッキー②

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 小さなカフェだが地元では割と有名で、昼時ともなると席はあっという間に満席に。
 だから慌ただしく過ごしていたら、気付くと時刻はもう上がり時間の、17時を少し回っていた。

「ありがとう、お疲れ様!
 晴くんが居てくれるから、ホント助かるよ。
 これ少ないけど、余ったから持ってって。
 明日は店もお休みするから、悪くなってももったいないし」

 明日の日曜はマスター夫婦の友人の結婚式があるらしく、カフェは臨時休業の予定になっている。

 マスターに手渡されたのは、綺麗にラッピングされたクッキー。
 聡哉に以前わけてやったら、アイツも大層気に入ったらしく、とても喜んでいた。
 だからまた彼に、わけていってやっても良いかもしれない。

「良いんですか?ありがとうございます。
 友達と一緒に、頂きますね!」

 聡哉の喜ぶ顔を思い浮かべ、自然と笑顔が溢れた。
 するとそのやり取りを見ていた奥さんが、会話に割って入って来た。

「何?晴くん。
 ……それって本当に、ただの友達ぃ?」

 ニマニマと、ゲスな笑みを浮かべる奥さん。
 マスターはやれやれとでも言いたげに大袈裟に肩をすくめてみせ、呆れたように言った。

「はい、それセクハラ!晴くんに、嫌われるぞ?
 そして、晴くん。
 これ以上突っ込まれたくなかったら、早く帰ることをお薦めする。
 彼女、恋バナ大好きモンスターだから」

 それに憤慨し、ぷぅと頬を膨らませる奥さん。
 本当にいつまでも仲良しで、理想的な夫婦だなって感じる。

 でも根掘り葉掘り聡哉との事を聞かれるのは御免被りたかったから、マスターの言葉に従いさっさと店をあとにした。

 それにしても。……僕ってば、いったいどんな顔をしていたんだろう?
 ふぅとため息を吐き出したタイミングで、パッと目の前に悪魔見習いが姿を見せた。

 それに驚き、よろけて転けそうになる僕。
 でも彼はそんな事よりも、僕がマスターに頂いた、クッキーの方が気になるようだ。

 一瞬薄情なヤツめと思ったが、考えてみたらコイツは可愛い見た目をしていても、悪魔見習いなのだ。
 だから情など、求める方が間違えているのかもしれない。
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