たとえこれが、恋じゃなくても

ryon*

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クッキー③

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「なぁ、人間。それ、何?
 うまいの?」

 高速で、僕の手元を飛び回る悪魔見習い。

 「クッキーだよ。……もしかして、食べたいの?」

 クッキーの入った袋を手に、聞いた。 
 すると彼は黄金色の瞳をキラキラ輝かせ、いまにもヨダレを垂らさんばかりの表情で、大きくブンと頷いた。

 悪魔に食という概念があるとは思わなかったから、また少し驚いた。

「家に帰ってから、一枚だけね?」

 クスクスと笑いながら告げると、悪魔見習いは嬉しそうにパタパタと羽根を羽ばたかせた。

***

 家に着くと僕は、袋の口を縛っていたリボンを丁寧にほどいた。
 そして約束通り、悪魔見習いに一枚渡してやった。

 両手でしっかり持ち、大きく口を開けてパクパクと頬張る彼。
 あまりの愛らしさに、だらしなく僕の表情筋が緩む。

「美味しい?悪魔見習い。
 でも落ち着いて、ちゃんと噛んで食べるんだよ?」

 僕の言葉に頷きながらも、物凄い勢いでクッキーを平らげていく彼。
 ほっぺをパンパンに膨らませるその姿は悪魔というより、まるでリスみたいだ。

 彼の体が隠れてしまうほどあったはずのクッキーは、見る間に飲み込まれていった。

「クッキー、うまかった!
 ありがとな、人間」

 頬に食べかすをつけたまま、満足そうにキシシと笑う彼。
 それが可笑しくて、指先で拭ってやりながら僕もまた笑った。

「それは、良かった。
 そんなに気に入ったなら、今度買ってあげるね」

 今度は人差し指で軽く頭を撫でてやると、悪魔見習いはピョンピョンと跳び跳ねて喜んだ。

 こんなのに情なんて抱くべきじゃないと思うのに、その姿はやっぱり可愛くて。
 僕の魂を狙う相手だというのに、いつの間にか彼に対して、気を許してしまっていた。
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