たとえこれが、恋じゃなくても

ryon*

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妥協案①

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「はぁ……でもこれ、割と生殺しなんだけど。
 この前も、お預けされたしぃ」

 僕の体を優しく抱き締めたまま、拗ねたような口調で言われた。
 でも僕からしたら、キスだって初めての経験で。
 こうやって抱き締められているだけで、キャパオーバーしてしまいそうな程だと言うのに。

「なら抱き締めるのも、キスももう止めとく?」

 聡哉がやはり慣れている様子なのが悔しかったから、ちょっと意地悪く聞いてやった。 
 聡哉は僕の肩にぽすんと額を乗せ、強く抱き締め直して答えた。

「やだ。ちゃんと、我慢する」

 どちらかというと普段は、大人っぽく見られがちな聡哉。
 僕といると、ふざけて年相応の言動になることはあっても、こんな発言はこれまで聞いた事がなかった。

「やだって、なんだよ?……聡哉、子供みたい」

 クスクスと笑いながら、言った。
 すると聡哉は唇を尖らせ、ボソボソと言い訳みたいに呟いた。

「仕方ないだろ?
 こっちは晴に、何年片思いしてたと思ってんの?」

 確かに、言われてみれば。
 ……コイツはいつから僕の事を、そういう風に見てくれていたんだろう?

 くすぐったいような、むず痒いような。
 だけど幸せな気持ちで、満たされていく。

 悪魔見習いに時を戻して貰うまで、こんな彼は知らなかった。
 そして好きな人から与えられる体温の心地好さも、キスとか触れ合う事の気持ち良さも。

 彼の頬に触れ、上を向かせて、そのまままた僕の方からキスをした。
 彼はじっと僕の目を見て、不安そうに聞いた。

「なぁ、晴。……舌は、入れて良い?」

 だけど返事をするのはあまりにも恥ずかしかったから、彼の背に腕を回し、唇を開く事で応えた。
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