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新居に慣れよう

しゅっ?

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日の傾きかけたオレンジ色の空を眺めながら、家路につく。

新居にたどり着き、キッチンに向かってから、チラッと暖炉を見る。

未使用なのかピカピカで、脇に薪も置いてあり、使われるのを待ってる気がした。

ちょっと夕方になって肌寒いし、つけてみてもいいかしら?  いいよね?

「暖炉さんー、出番ですよー」

記憶のなかの知識を参考に、薪を米の形に積んでみた。

「よし、これで火をつければ……火を」

あれ?  どうやって火をつければ??

ソファーで寝そべり、頭だけ持ち上げたカイツが、チラッと視線を寄越す。

「火や水は、魔法でだせる。キミなら……マッチの火を想像して」

「マッチね、わかった。……しゅっ?」

右手の人差し指の先を、左手の人差し指あたりでこすってみる。

ポッと小さな火が、指先に点いた!

「わぁ!  火が出た!  熱い!?」

「ちょっ!  キミ馬鹿なの!?  ていうかそれで点くとかおかしいからね!?  早く消しなさい!」

手を振っても火が消えないー!  いやぁー!









熱い目にあいました…………びっくりした。

パニくって手をパタパタするしかできない私の、火を消そうとカイツ猫さんが必死に猫パンチ繰り出してくれたけど、何度か私の顔に当たってようやく火を消せました。

おヒゲをピクピクさせて、カイツ猫さんは私の膝上でお座りして、下から見上げてきています。

目を逸らそうとしても無駄です。

ちょっとプンプンカイツサマです……。

「キミ、頭、大丈夫?  何考えてああなるの?  いや逆か、何も考えてないわけか。その頭は空っぽなんだね?」

「だって、マッチって言……ごめんなさい」

「火の規模とイメージを、キミの悪い頭でも理解できるようにしたんだけど。はあ……火をつける先は、薪!  自分につける馬鹿がいるかな?  ああ、目の前にいたね」

「うう……カイツさん爪がちょっと痛い……なんでもないです。はい、やり直しねー、えーと、薪、薪にマッチのサイズ──しゅっ?」

泣きながら、暖炉の中を見つめる。

ちょうど、薪の端でマッチをこするイメージで……しゅっ。

数秒たって、ポッと火が点いた。

はあ……疲れた。

「よく出来ました。じゃあ、自分の夕飯頑張って」

「はぁい」

ようやく膝から降りてくれたカイツさんが、再びソファーに戻る。

私はのそのそと隠し冷蔵庫を開けた。



お肉と玉ねぎ、ニンジンを適当に切って、塩コショウで炒めて、牛乳を注いでグツグツ~。

多分、シチューモドキのできあがり!

パン屋さんで購入した、丸いパンを温めてみる。

硬いかと思ったけど、噛みはじめると美味しかった。

片付けして、2階へ着替えを取りに行く。

お風呂とトイレはキッチンの右奥にある。ちゃんと水洗トイレに、脚ものばせるお風呂だった。

石鹸やシャンプーとかも……前に使ってたのと同じメーカー……容器だけは別のだけど。

「あれ?  コレも……」

使用したら補充仕様。わあ、親切。

無心になってお風呂を済ませ、やっとベッドに入った。

見慣れない寝室に、真新しい木の香りがする。あ、カーテンがない。

「明日……買いに……いや作ろうかなー?」

布はたくさんあるからねー。楽しみ楽しみ。飾りは刺繍しよう。やっぱり星かな?

「もうおやすみ」

ぺしんと顔を叩かれた。

「はぁい……おやすみなさい……カイツさん……」






新しい私のお家さん。

これからよろしくねー?












「……しゅっ、て何さ……しゅっ?  て…………はぁぁ……」
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